こんな話を聞いたことがあるだろうか。
この世界のどこかに、それはそれは小さな町がある。いつもは普通に生活を送っている町の人たち。しかし、クリスマスイヴの夜が近づくと彼らは赤い衣装を身に纏い、トナカイたちを連れてきて、ソリに大きな大きな袋を積み、1人また1人と町を離れていく。
そうしてサンタクロースの長い夜が始まるのである……。
「さて、そろそろ行くかのぉ」
大きな体のサンタクロースが、プレゼントの詰まった袋をソリに載せながら言った。話しかけている相手はソリにつながれたトナカイだ。
「サンタさん、今年はずいぶんと寒いね。あったかくしていかなきゃ」
ちらちらと舞い降りる雪を眺めながら、トナカイが寒さに体を震わせた。
「そうだね、たくさん厚着をしていかないと。お前も着るかい?」
「僕は平気だよ。雪って冷たいけど好きだもん」
「そうかそうか」
サンタクロースはにっこり笑うと、ソリの上にまたがった。
今回の目的地は日本という小さな島国だ。
最近この国ではずいぶんと幸せが不足しているようなので、とびきりの幸せを届けてあげよう、とサンタクロースは張り切っていた。
「じゃあ、しっかり留守番してておくれ」
袋がしっかりと固定されているのを確認すると、家の門前に立っている雪ダルマに向かって話しかける。すると雪だるまは、木の枝で作られた手を、器用にゆらゆらと振るのだった。
サンタクロースがたずなを握ると同時に、トナカイが勢いよく雪の大地を蹴る。すると雪上を滑るようにして、サンタクロースを載せたソリが動き始めた。
やがてソリが地面を離れゆっくりと宙に浮いていく。
目の下には、一面の銀の世界が広がっていた。時々、小さな動物たちが雪の中を踊るように駆けていく姿が見える。そんな様子に微笑みながら、サンタクロースはクリスマスイヴの夜空をゆっくりと駆け巡っていた。
どれぐらい経っただろうか。どこまでも続く海の向こう側に、小さな小さな島が見えてくる。間違いなく日本だ。
サンタクロースは、一番南端からプレゼントを配っていくことにした。
寝静まる家の間をすり抜けながら、袋の中の光を掴み外へと振りまく。
するとあの家でも、この家でも、子どものベッドに掛かった小さな靴下が、大きな大きなプレゼントで満たされるのだった。
夢を見る子どもたちの純粋な寝顔が与えてくれる、あたたかい安らぎ。サンタクロースにとっては、それこそが自分へのプレゼントである。
南から北へ。長い長い夜の間、サンタクロースはプレゼントを配っては幸せをもらい続けていた。
中には欲張って大きな靴下をぶら下げている子どももいるが、今日は気分がいいので大サービス。大きな靴下にも入りきらないぐらいのプゼレントを詰め込み、サンタクロースは嬉しそうに去っていく。
そんな仕事も、やがて終わりが近づいてきていた。
しかし、そこでサンタクロースは重大なことに気づく。
あまりに張り切りすぎたため、プレゼントが足りなくなってしまったのである。子どもたちのいる家は……まだ何軒か残っていた。
「これは困ったことになった……」
サンタクロースは頭を抱え込んだ。
なんとしてでも、子どもたちを悲しませることは避けたい。
とはいえ、残りの家の子どもたちには何をプレゼントすればいいのやら……。
「ようし、仕方がない」
サンタクロースは家にそっと近づくと、最初の子どもには自分のかぶっている赤い帽子をプレゼントした。
次の子どもにはマントを、次の子どもにはセーターを……。
そうして厚着していた服装が、次第に薄くなっていく。
「困った、これ以上は脱げん」
かなり薄着になったサンタクロースが、大きな体を震わせながら再び頭を抱え込む。
残りはあと一軒。それも、女の子だ。
まさか下着を渡すわけにもいかないし、かといって何もあげないわけにもいかない。
「サンタさん、袋にまだ少しだけ光が残っているよ」
トナカイの言葉に、しかしサンタクロースは重い首を横に振る。
「じゃが、これっぽっちじゃプレゼントにはならん」
しばらく考え込んだ後、サンタクロースはポンと手を打った。
袋に残った少ない光で、門の前に立っていた雪だるまをピンク色に変える。そして、なにやら赤いインクで紙にさらさらと書くと、雪だるまの手に紙を持たせた。
「これでよし、と。さあ、帰ろうか」
サンタクロースはソリにまたがると、自分の町へと帰っていく。次は1年後。それまで、子どもたちが夢を持って暮らしてくれることを願いながら、サンタクロースはクリスマスイヴの夜空をソリで走っていった。
家の前に佇む、ピンク色の雪だるま。その手に持った紙には、下手くそな日本語でこう書かれてある。
『来年もまた来るよ。 サンタクロース』
翌朝、家の小さな女の子が大喜びしたことは言うまでもない。
きっと彼女は来年のクリスマスまで、胸いっぱいに夢を抱きながら、幸せな日々を送ることだろう。
サンタクロースは、夢を送る……。
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