公園のブランコが弧を描いて、そよ風が優しく髪を撫でる。
頭の上から足の先まで、新鮮な空気を纏いながら、前に後ろにと景色が揺れる。
レモン色のパーカーとオレンジ色のパンツ姿の彼女とはつきあって一ヶ月ぐらいだった。
入学式では、生意気そうだった彼女の態度も、一学期の終りには随分とおとなしくなっていて、私はそこに女らしさや、潔さを覚える。
「いつまでも変わらない友情ってあると思う?」
「絶対にあるよ」
「あたしはそうは思わない。この空も、この感情もいつのまにか消えてしまうもの」
「だったらこの友情を愛情にしようよ。性別なんて関係ない、変な意味じゃなくて私はあなたが好き」
告白を急いだ私の声は決して震えていなかったけど、彼女のまっすぐな瞳を見ると息が止まりそうになる自分がいる。
「冗談だったら、今すぐどこかへいってちょうだいね」
「私は本気よ」
誰かを好きになったのは、これがはじめてだった。
彼女は変な子だった、それに惹かれた私はもっと変な子だった。
クラスで孤立する彼女を助けようとして自分がクラスから疎まれ、彼女からも煙たがられ、私は一人になった。最初の一ヶ月ぐらいで、私は彼女にアプローチをかける。付き合う前から知っていたんだ、私は彼女が好きだ。その瞳、その髪、その仕草、その変な所が大好きだ。
彼女からとりあえずオーケーを貰うと、私なりに考えた結果、いつも通りの接し方を続ける事にした。
今日の公園デートだって、大していつもと変わらない。
「この公園が出来た理由を知ってる?」
彼女が言った。
「え?、知らない」
「昔ね、ここは合戦場だったの。それでね、傷付いた兵士達がここで手当てを受けたの」
「知らなかった。合戦っていつの?」
「さぁ、そこまではあたしも知らないけれど……とにかくここはそういう場所」
「フーン」
彼女が何でそんな話をしたがったのか分からなかった。
「ねぇ、付き合って一ヶ月の記念に、あたしの家に来ない?」
「え、行く行く」
「ここから、そんなに遠くないしね」
私は伸びをする、彼女が先に立って歩く。私は嬉しい気持ちを隠す事もできない。
「顔がニヤけ過ぎ、女の子なんだから、もう少しおしとやかに笑いなさいよ」
そういう彼女の顔も負けないくらいに無愛想だった。
彼女の家は本当に近くにあった。大豪邸という訳ではないが、品の良い新しめの住宅地にあった。
「今日は、両親が居ないの。それもあなたを招待した理由」
「へぇ〜」
彼女の部屋は二階にあって、私の部屋なんかよりずっと整っていた。
「ちょっと待っててね、何か飲み物をとってくるから」
私は、興味津々で、彼女の部屋を眺めたが、触るのはやめておいた。
本棚には漫画しかない私の部屋にはないような難しい本もいろいろあった。
彼女が持ってきたジュースを飲みながら、私達はいろいろな話をした。
彼女の事よりも私の事の方が少しだけ多かったが、彼女が笑った顔を久しぶりに見て、私は安心していた。
太陽が沈みかけていて、空が赤に変わり始めていた。部屋はちょっとだけ薄暗い。
私は、彼女のシンプルなベットに座っていた。すると、彼女が突然、立ち上がり私を押し倒した。
私は混乱した。さっきまで、あんなに楽しそうに話をしていたのに、その彼女がもうここに居ないようで怖かった。
彼女の手が私の髪をゆっくりと撫でながら、身体をぴったりと添わせる。
指先が私の体を這いながら、服の上から胸や腹を触る。唇にキスをしながら舌が入ってくる。
私は怖かった。私がしたかったのは、こんなんじゃない、私の気持ちは、こんな形じゃない。涙が出た、変になりそうなくらい体が硬くなって、何も考えられなくなって。
「泣くなよ」
彼女の顔は、いつもと同じで無表情に近かった。真剣な顔なのに、手は変な事をしている。
「付き合うって言ったのはお前だろう。愛情だっていったのはお前だろう」
彼女が手を放す、私はベットにそのまま落ちた。
彼女は怒っていた、おかしくなったんじゃない、彼女は普通だった。普通じゃないのは私の方だ。
なんで、こんな事で泣くんだろう私は。
「ごめんね」
彼女が言った。謝るのは私の方なのに、言葉が出なかった。
愛情なんて幻想なのかな?私はただ、自分の為に彼女を利用して都合の良いように愛していたのかな?
「正しくないってのは解る。でもあたしを惑わすのはやめて。あたしだって愛されたい。優しいだけの愛なんて悲しいし、虚しいし、なんだか痛いよ」
彼女の言葉が私の胸に、なによりも重く鈍く響いた。私はとても残酷な、酷い事をしていたんだ。
それから私達は、黙って部屋を出た。家に帰る気にはなれなかったので、またあの公園に行く。
夜の公園は、とても涼しくて、なんだか寂しい。置き去りにされた気持ちだけが空回りしながらブランコを揺らす。
「さっきはごめん」
私はやっと言う。
「もういいよ」
「なんか間違ってた」
「いいって」
それから黙ってブランコを漕いで、体から熱が抜けていくのが分かった。
私の気持ちは嘘なんかじゃなかった。けれど、彼女を傷付けてしまったのも事実だ。
「あたしのどこが好きだったの?」
「え?」
「二回言わせる気?」
「えーと、目とか髪、仕草とか……」
「要するに見た目?」
「そうじゃない、それ以外の所も好きだよ。例えば、体育は必ずサボって保健室で本を読む所とか」
「なんだよ、それ」
と彼女は笑った。
「あと、男の子相手でも、負けない所とか、先生に喧嘩を売る所とかも好き」
「そんな事したっけ?」
止まっていた時間の流れが緩やかに動き出した。いつのまにか公園に私の愛だったものが溢れた。
彼女の事を好きな気持ちは嘘なんかじゃない。
「いつまでも変わらない愛情ってあると思う?」
と彼女は言う。
「解らない」
私は答えた。すると彼女は笑う。笑いながら言う。
「解らないけれど、ないとは言えないこともない」
「そんなんでいいのかなぁ」
「いいに決まってる」
彼女はそう言ってブランコから飛び降りた。そこには愛が溢れていた。
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