14.ドラメッドvsボーちゃん
トオルはもう疲れ切っていた。
「ねえねえ、次は何に乗ろっか!」
ドラリーニョは、どこからその活力が湧いてくるのやら、元気いっぱいであった。既にジェットコースター三つを含め、十近くの遊具を乗り回して いるのにもかかわらずだ。
トオルが唯一ゆったりできたのは観覧車だけだったが、そのすぐ後にジェットコースターに引っ張っていかれたので、残念ながら意味なしになってしまった。
「ドラリーニョ…もうジェットコースターとかコーヒーカップとか、そういうきついのはやめにしない?」
「えー、何でぇ?」
無邪気に聞き返すドラリーニョ。その視線はもう面白そうなアトラクションを求めてさまよっている。
「だって、もう僕…」
「あっ!」
突然ドラリーニョが大声を上げたので、トオルは飛び上がった。
「ど、どうしたの?」
「大変だ…僕、忘れてた!」
「…何を。」
トオルはしばらく一緒にいるうちに、ドラリーニョがひどく忘れんぼうだということをさんざん思い知らされていたので、用心深く訪ねた。
ドラリーニョは目を大きく見開いてトオルを見つめ、叫んだ。
「ミニドラを忘れてた!!!」
「はっ?何?」
ドラリーニョが答えるより早く、トオルの疑問の答えがドラリーニョのシャツの中から現れた。
トオルは呆気に取られた。手の平に乗るくらいのサイズの、小さなネコ型ロボットがぞろぞろ出てきたのだ。一、二、三…十一体。全員ドラリーニョと同じ、黄緑色の身体をしている。
ミニサイズのネコ型ロボットたちは、ドラリーニョに向けて怒った様子で何か言い始めた。トオルにはドラドラ言っているようにしか聞こえなかったが、ドラリーニョにはちゃんと分かるらしい。「あぁ、みんなごめんごめん。ほんとにごめんね。」
決まり悪そうに頭をかき、ドラリーニョはトオルの方を向いた。ミニドラもまた、一斉にトオルを見上げた。
トオルは自分がぽかんと口を開けているのに気づき、慌てて閉じた。
「ああ、トオル。」
ドラリーニョは足元に集まっているミニドラたちを、ざっと指さすような(指はないのだが)仕草をした。
「僕のミニドラサッカーチームだよ…ほら、みんなトオルに挨拶!」
「ドラメッド!何で反撃しないんだ!?」
キッドが空飛ぶじゅうたんの上で、いらただしげに叫んだ。
ドラメッドは何も答えず、かわりにじゅうたんを急降下させた。ちょうどさっきじゅうたんが舞っていた所を、ボーちゃんの放った衝撃波が通り過ぎた。
「四天王は皆、特別な力を持っていると聞きましたが………あの子の攻撃は、別に他の吸血鬼たちと変わりませんね。」
王ドラが、いつでも攻撃できるようぬんちゃくをかまえながら首をかしげた。
「まだ使ってないだけで、隠してるのかも知れないだろ。油断するな、王ドラ。」
「う、うるさいですね、エル・マタドーラ!私は油断なんかしてな………」
ドガン!
「うわ!」
目と鼻の先に衝撃波を発射され、王ドラはもう少しでじゅうたんから転げ落ちそうになった。
「ほら見ろ、言っただろうが。」
マタドーラはにやっとしたが、悪意のある笑い方ではなかった。こちらは愛用のヒラリマントをかまえている。
ドラニコフはというと、じゅうたんの真ん中で縮こまっている野原一家のそばでじっとしていた。彼が動くのは、しんのすけが好奇心からじゅうたんの端へ行こうとするのを、止める時だけだった。
ドラメッドがなぜ反撃しようとしないのか、みんな不思議で仕方がなかった。さっきからじゅうたんに乗って、ボーちゃんの攻撃から逃げ回ってばかりだ。その表情にはなぜか、重苦しいものが浮かんでいた。
「ドラメッド、もうオレは逃げ回るのはごめんだ!やらせてもらうぞ!!」
たまりかねたキッドが、取り出した光線銃をこちらめがけて飛んでくるボーちゃんに向けた。
ドラメッドがはっと振り返った。
「キ、キッド、いかんであーる!」
だが、キッドはもう叫んでいた。
「行けぇ!」
轟音と共に、ビームが発射された。
もとよりキッドは、ボーちゃんを殺すつもりなどなかった。手足を狙って、動けなくするだけのつもりだったのだ。
だからビームが当たった瞬間にボーちゃんの身体がばらばらになってしまったのを見た時には、愕然となった。
「バカな…」
マタドーラや王ドラも、呆然としてそれを見つめた。
そこへドラメッドが、今まで出したこともないような大声をかけた。
「みんな、ぼーっとしてはいかんであーる!それはニセモノであーる!!」
「!?」
みんながはっと身をこわばらせた、まさにその時、上から衝撃波が次々と降ってきた。
「どういうことだ!」
マタドーラが、ヒラリマントで衝撃波をかわしながら叫んだ。
答えのかわりに、どこからともなく数人の人影がするりと現れた。
ボーちゃんだった。
全くそっくり同じ姿をしたボーちゃんが五人、じゅうたんを囲むようにして現れたのだ。
王ドラは反射的に、野原一家を振り返った。彼らもキッドたちと同じくらい、驚き、おののいた顔をしていた。
「一体…!?」
みさえが息を呑み、後ずさる。ドラニコフでさえ、不安そうなうなり声を漏らしてぶるぶるっと身体を震わせた。
ただ一人、ドラメッドだけが冷静な表情で、自分たちを取り囲んでいる五人の『ボーちゃん』を見つめていた。
「………仕方ない。」
ため息をつき、ドラメッドはふところから、小さなびんを取り出した。
そして中の液体を、ごくりと飲み干した。
「あーあ、もうここのアトラクション、ほとんど回っちゃったよ!」
ドラリーニョがちょっと不満そうな口調でそう言った。ミニドラがドラドラ言いながら、その後を歩いていた。色んな乗り物に乗せてもらったミニドラたちは、すっかり機嫌を直し、興奮気味に何か話している。一方トオルはと言えば、服や髪に潜り込もうとするミニドラたちをひっぺがすのに必死で、とても何かしゃべるどころではなかった。
「ねぇトオル、あとまだ乗ってないのってある?」
ドラリーニョがのんびりとトオルを振り返った。
「そ、そうだねぇ…」
トオルはようやくミニドラを髪の毛から引き離して、息を切らしながら言った。
「そんなこと、急に言われたって………あ、あれはまだじゃない?」
トオルの指さす方向を、ドラリーニョとミニドラは無邪気な表情で振り返った───しかし次の瞬間、顔がさあっと青くなった。
そこにあったのは、お化け屋敷だった。
形勢は一挙に逆転していた。
飛んできた衝撃波が跳ね返され、五人のボーちゃんのうちの一人がよろめく。マタドーラが歓声を上げた。
「すげえぞ、ドラメッド三世………
いや、四世!」
例の薬を飲んでパワーアップしたドラメッド三世───もといドラメッド四世は、さっきまでとは一転、素晴らしい応戦ぶりを見せていた。四世はなぜかボーちゃんそっくりの姿をしていたが、もう誰もそんなことは気にしなかった。
イライラしてきたのか、それとも自分の不利を感じたのか、五人のボーちゃんが一斉に衝撃波を放ってきた。しかし、それが大きな間違いだった。
ドラメッド四世はすっと手を伸ばし、両手でくるりと円を描くような仕草をした。
その途端、びっくりするようなことがことが起きた。ドラメッドが手を触れてもいないのに、衝撃波がくるりと向きを変え、五人のボーちゃんそれぞれめがけて襲いかかったのだ。
あまりの速さに、五人のボーちゃんは恐怖の表情を浮かべる間もなく衝撃波を身に受けた───さっきと同じように、どのボーちゃんの身体もばらばらになり、溶けて地面へと落ちていった。
ただ一人を除いては。
ドラメッドの正面にいたボーちゃんは、ばらばらにならず、溶けもしなかった。空中で、苦しげに身をかがめている。今にもバランスを失って落下しそうだ。
それを見たドラメッド四世が、じゅうたんを急発進させた。あまりの速さに、シロのフワフワの毛が逆立った。じゅうたんが止まった時には、四世の手が一人残ったボーちゃんを捕まえていた。
「こいつが本物なのか………」
キッドがボーちゃんの顔をのぞき込んだ。ボーちゃんはあきらめたような表情で顔をそらし、目を閉じた。
しんのすけがドラニコフの制止を振り切り、じゅうたんの端から下をのぞき込んだ。
地面には透明なねばねばしたものが、いっぱいにぶちまけられていた。じゅうたんから飛び降りた王ドラが、その物体に慎重に手を伸ばそうとした。
「おおっ!」
しんのすけが目をまん丸くした。
「それ、ボーちゃんの鼻水だゾ。」
「鼻水!?」
王ドラはぎょっとして手を引っ込めた。
「なるほど、自分の鼻水で分身を作る………それがこいつの能力か。」
マタドーラがボーちゃんを見る。
ドラメッドはしばらくの間、ボーちゃんを見つめていた───そして、パワーアップしてから初めて、口をきいた。
「何でお主は、操られたふりをしているのであーるか?」
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