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機械じかけの悪魔  作者: キョウカ
CHAPTER SLEEP
2/52

プロローグ - 光が一筋と、

挿絵(By みてみん)


 少女はイラついていた。

 慌ただしく走り回る兵士たち。

 そんな彼らを尻目に少女は金色の髪をさらさら遊ばせ、石垣に腰掛けていた。


 無防備に見える彼女の態勢だが、その身は一切の隙がない。

 腰に下げた双剣はかなり使い込まれており、戦闘慣れしていることを如実に示している。


 少女は疲れたように空に視線を向けた。 


 ――腐っている。


 ここ数日。

 彼女は実地訓練のため、正規兵団の中で過ごした。

 他の兵士と時間を共有し、彼女は嫌になった。


 彼女が来たことにより、彼らは必死に真面目な態度を演じようとしている。

 しかし彼らの堕落しきった、その生活態度は一日や二日で隠せるものではなかった。

 その醜さは、彼女が許容できるものではない。


 彼女が空を睨んでいると、大きな声が聞こえた。


「輸送カプセルの迎撃に失敗しました! 恐らく敵の生体兵器かと!」


 監視塔からの報告。

 その張り詰めた声に、周囲の兵がざわつく。

 彼らは泡を食ったようにテントや屋内から飛び出してくる。

 そして敵を見据えようと、彼らも空を見上げた。


「たかが、輸送カプセル一基だ! 我ら帝国軍の力を、連合軍の悪魔どもに思い知らせてやれ!」


 司令官が声を張り上げる。

 無駄に手入れされたチョビヒゲ。

 彼なりのチャームポイントなのだろうか。


 威勢よく叫んだ司令官だが、彼の表情にも不安が見られた。


「もともと、ビローシス連合国に帝都を攻撃する意図はなかったと思いますけど」


 そう言って、少女は石垣から飛び降りる。

 彼女の声を聞いて、司令官は少し落ち着いたように言った。


「仕方が無い。お偉いさん達が取り乱したんだからな」


 彼はぎこちない動作でパイプを取り出す。

 そんな司令官を、少女は冷ややかな目で見つめる。


「私が非難しているのは上層部の作戦です。迎撃魔法で敵を招き入れておいて、この体たらく。この国は体制だけでなく、頭まで腐っていたんですね」


「…………」


 正論極まりない少女の言葉。

 チョビヒゲ司令官は顔を歪めてパイプに口をつけた。

 しかし、少女はまだ足りないのか言葉を繋げる。


「魔法と科学が殺し合いを始めてから、十年は経ちます。私たち魔法陣営――ブレシア帝国が敗退を続けているのは、内部腐敗が主な原因でしょうね」


 人間には二種類いる。

 魔法が使える者と、何も使えない異端。

 要するに「魔術師」と「無能者」だ。


 魔法文明と科学文明が出会って以来、魔法は世界の絶対的な力として科学を圧倒していた。魔法を使えない人々は最下等な生物として長年の間に軽蔑され『無能者フール』として使われてきた。


 しかし、科学の最も恐るべきところは、あの適応性にある。

 今まで見たこともなかったであろう魔法文明に対抗するため、科学は急激的な成長を遂げた。


 開戦初期には科学陣営により「生体兵器」の一種である「ノイズ・シリーズ」の開発に成功する。

 ノイズ・シリーズ――それは体内に各種強化装置に治癒細胞などを埋め込まれた兵士たちの総称だ。


 彼らは、体内にエネルギーを循環させ全身に埋め込まれた各種強化装置を稼働させている。

 そして、そのエネルギーこそが「ノイズ」である。


 科学に対しては偏見や差別があるものの、現在では強大な技術として受け止められている。

 現に魔法陣営も科学陣営の反撃を抑え付けるのには限界を感じていた。


 少女の手痛い追及に、さすがの司令官もパイプを口から一旦離し、応じる。


「学生兵が出しゃばるもんじゃない」


 学生兵。

 それは、ミーネルヴァ王立学園の学生兵団に所属する者のことだ。


 秀才といえば、ミーネルヴァ。

 英雄といえば、ミーネルヴァ。

 世界的にも有名な、魔法陣営の一流士官学校だ。


 司令官の態度に、少女は少し顔を不満そうにする。

 しかし思い直したようで、すぐに視線を空に戻した。



 ブレシア帝国最大の都市――アグリンベル。

 絶対に守らなければならない、この国の首都だ。


 そのアグリンベルの上空に、一筋の光が現れた。

 それは高い悲鳴のような音を上げ、赤い尾を引いている。

 光は今にも開発途中区に届こうとしていた。


 そろそろかな?


 少女は腰のベルトに付属するケースを開いた。

 そして中から八面体の宝石を取りはずす。

 宝石は男の拳ほどの大きさで、深みのある紫色をしていた。


 魔術を使用する際には欠かせないの装備――魔導石だ。

 体内器官では供給しきれない魔法を、補助する役割を持つ。


 しかし、少女が取り出した魔導石は、どこか特殊だった。

 周りの兵士が奇異の視線を向けるほどである。


 通常の魔導石は、球体か正方形をしている。

 大きさも、玩具のガラス球より少し大きいくらいのはずだ。

 周囲の関心を無視し、少女は舌打ちするかのように表情を曇らせる。


「で、誰も戦いに行かないんですか?」


 双剣の少女に、

 アイリス・ベルヴァルトに答える者は――誰もいなかった。


キカイプロジェクト - オープニングPVが公開されています。


▶PVをニコニコ動画で見る◀

http://www.nicovideo.jp/watch/sm25808489



※キカイプロジェクトとは? - 「機械じかけの悪魔」を主軸にしたメディアミックス企画です。

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