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理科室の、魔王:actress side
 *
 
 ――ねぇねぇ、知ってる?この学園の七不思議のウワサのこと!
 
 ――なにそれー?何か面白いのでも有るの?
 
 ――それがさぁ、音楽室の肖像の目が動くとかそういうベタなのもあるんだけどね……。一つだけ変なのがあるらしいんだ。
 
 ――変なのって?
 
 ――それがね、理科室に出るらしいんだよ。
 
 ――理科室って……人体模型が夜中に動きだすとか?それもベタなんじゃ?
 
 ――いやいや、そういうのじゃないんだよ!もっとこう具体的な……!
 
 ――えー、もう焦らさないで教えてよ。何があるの?
 
 ――うん……。だからね、
 
 
 
「理科室には魔王がでるらしいんだって……」
 
 
 
 *
 
「………やられた」
 
 まただ。まただよクソッタレ。
 
 また――――――――――――机がぐちゃぐちゃじゃないか。
 
「女というのは……やっぱり陰湿、かな」
 
 わかってはいても、というよりわかりたくもないが、そう呟かざるをえない。
 
 だって、ご丁寧に机の表面は汚さずに中に入っていたものだけを集中攻撃してあるのだから。
 
 
「これ、お気に入りだったのになぁ……」
 
 汚されたペンケース。買い直そうと思えばいくらでも買い直せる。
 
 が―――
「っ……思い出のやつだって……知ってて……」
 
 締め付けられるように苦しい胸からは、弱々しい言葉しかでてこない。
 
 
 
 それは身体的な痛みではなかった。
 
 心を、
 えぐって、えぐって、えぐりまくった最後に細い、だが絶対に抜けない針を突き刺されるような……
 そんなむごい“苦さ”が、身体中に広がっていた。
 
 
 
「は……はは、自分が……自分がモテないからって……」
 
 精一杯の嘲笑、嘲笑。こうでもしなければ自分を保てない。自我が、今まで積み上げてきた自分の中の何かが、
 
「壊れそうだ………あ、はは…」
 
 それは2ヶ月前に遡る。
 
 *
 
「これ、お揃いだね」
 
 そう言ったあなたはもういない。
 
「大事にしてね?私だと思って」
 
 あなたは……遠く、海外に行ってしまった。
 二年間の留学。彼女にとって、それは素晴らしい成功への希望の扉。
 話を持ちかけられた時にすぐ決めたらしい。
 
 頬を朱色に染め、興奮した様子で彼女が私にそれを報告してきたとき、私は、これから始まる地獄の日々を知らずに素直に、……本当に心から「良かったね」と言った。
 
 
 一ヶ月後、送別会の日。彼女は涙を見せながら言った。
 
「私の事忘れないでね」「電話かけるから」「ずっと友達で居ようね」
 
 それは嘘ではない。今も時々は国際電話がかかってくる。
 
 だが所詮、“時々”である。
 
「昨日ね、ホストの家族の人達と買い物に行ってきたの。みんな優しいのよ。私があれが欲しいって言ったらすぐ買ってくれてね……」
 
 うん、うん。
 
 彼女の話に合わせて相づちをうっていれば、そのうち国際電話の料金が辛くなってくる。
 そうした頃合いになると彼女はいつも
 
「そういえばそっちに変わりはある?」
 
 と聞いてくる。すると私はすぐ答えるのだ。
 
 何も変わりはない、と。
 
 
 
 本当は大ありなのに。
 
 
 
 *
 
 元来、私は友達を作るのが苦手だった。
 
 部活にも入らず、特に愛想も良くない私はクラスではいつも浮いていた。
 それは自覚している。
 そんな時に私に話しかけてきたのが、……(仮にA子とする)A子だったのだ。
 
 彼女はクラス委員長だった。人当たりもよく、人望もあった。
 そんな彼女が私によく話しかけてくるようになったのは入学してから1ヶ月くらいたったある日。
 最初は委員長としての義務感だったのだろう。あのよそよそしさが懐かしい。
 ……それから徐々に打ち解けていって、彼女とは友人と呼べる位の関係は築いた。
 
 それが一年生の大体の日々。
 
 *
 
 さて、こんなこと自分で言うのもなんだが……私は見た目“は”いいとよく言われる。
 “は”を強調されるのは多少イラッとくるが。
 
 なので性格を抜きにしても男にチヤホヤされることは多々あった。
 そこで私が無愛想に振る舞えば、“お高くとまってる”と陰からコソコソ言われるのは不本意ながら仕方ないらしい。
 それが良くないことを呼ぶのは長年の経験で分かっていたのに。
 
 同性からの反感、中でも女の嫉妬は凄まじい。そして陰湿である。
 A子がいた頃は良かったのだ。クラスの中心的な人物との人脈は私をよく守ってくれた。
 だが、それも2ヶ月前に終わってしまったこと。
 より所の消失。それは心の部分も含めたもので。
 その不在は、私が思っていた以上に私に多大なる影響を与えていた。
 
 彼女が留学して数日後、私は告白された。
 相手は話したこともないような名前も知らないクラスの男子。
 当然、私は断った。
 ただ、その時の私は……苛ついていたんだと思う。
 ひどい事を言った気はするがよく覚えていない。顔もまともに見なかったから、誰だったかすらもわからない。
 
 とにかく私はそこでいじめを勃発させるきっかけを作ったのは間違いない。
 
 
 ああ、私は……そんなに罪深いのだろうか。朝、学校に来てみると上履きが無くなっていた。
 それが、暗黒の始まり、だった――
 
 
 
 
 無視。
 
 嘲笑。
 
 窃盗。
 
 損壊。
 
 冷水。
 
 裁断。
 
 
 
 教師に言うのは嫌だった。両親に知られるのはもっと嫌だった。
 
 そして2ヶ月。
 身体に痕の残るようなことはされていない。相手はそこまでの馬鹿じゃないのだ。
 節度を、……いじめに節度があるのかどうか甚だ疑問だけど、“相手”は“節度”をわきまえていた。
 
 そして今。教師に課題について呼び出しを食らって職員室に行っていたわずかな間に、
 
 もう、終わっていた。
 
 私は……無言で机の中に入っていたものを外に並べる。
 窓の外からは西日が強烈に差し込んでいた。それが机の上に並べられた品々を照らす。
 
 その落書きをも鮮明に。
 
 
 
 
 
 間
 
 
 
 
 
 気がつくと、私はその全てをゴミ箱に投げ棄てていた。
 
「……………」
 
 不思議と涙はでない。まぁ、それすらこの2ヶ月で枯れ果てたというのが現実(リアル)ではあるが。
 
 私は机の脇に掛かっていたバックを掴んで、……バックは無事だった、教室を出た。
 小走りで。逃げるように。
 ……いったい何から?
 
 そんなの、逃げられやしないのに。
 
 
 
 小走り、小走り、走る、走る、走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走るはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしる
 
 
 走っ……
 
 そこでふと止まる。誰かの声がした、時には私は反射的に身を隠していた。
 
 *
 
 それは、空き教室でお喋りしている“女子”だった。
 
 
 女子は、もううんざりだ。
 踵を返して別の廊下を通ろうとしたとき、私は確かに“それ”を聞いた。
 
 
 
「だからさ、理科室には魔王がいて、何でも願いを叶えてくれるらしいんだって!!」
 
 
 
 “それ”を聞いたとき私は、「何を言ってるんだコイツ馬鹿じゃないのか?」と思って耳を疑った。
 それは話を聞かされていたらしい友人も同じだったようで、「バカじゃね?そんな噂信じるヤツ今どき小学生でもいないっしょ」とかなんとか感想を述べていた。
 
 だが、語り手の女子はそれに対して反論する。
 
「それがマジっぽいんだって…。去年の夏辺りから遭遇情報があるらしんだけど、それが妙に生々しくて嘘っぽくないんだって!」
 
 その女子が結構真剣にそんなことを言うから、その友人も沈黙した。
 
「じゃあ…実際どういう話があるの?」
 
 やがて、好奇心が勝ったのかおもむろにそう尋ねる。
 
「それがね………A組の○○が………」
 
 
 詳しく聞く前に、私はその場を後にしていた。
 走る、ことはしない。ただゆっくりと、普段は通らない廊下を歩く。
 
 ………
 ……
 …特段の興味があったわけではなかった。ただフラりと、理科室の前に前まで来ていた。
 
 
「私もバカの同類か」
 
 ポツリと呟く。
 何故なら、理科室には鍵が掛かっていたからだ。ガチャガチャと動かしてみても開く様子はない。
 
 完全な無駄足。時間の無駄だ。嗚呼、帰ろう―――
 と、思った時に気づいた。
 
「暗幕…?」
 
 理科室には暗幕がしてあった。何故……?誰がこの時間にこの場所を使うの?
 考えてみても、わからない。
 
 “……”
 
「あ!」
 
 その瞬間、
 その一瞬の迷いのタイムラグの間に、
 聞こえたのだ。確かに。
 
 “……カチャン……”
 
 鍵の開く音。
 
 自分が聞いた音を信じて、おもむろに扉に手をかける。
 …
 ……
 ………開いた。
 
 “ガラ……”
 
 恐る恐る、というのを初めて実践した気がする。とにもかくにも、私は自分で理科室の扉を開いた。
 そこで出会った。
 
 
 ……何故か理科室で金貼りの豪奢なソファに寝転がってジャンプを読んでいる変人(注・変な人。空を飛ばないものだけを指す)に。
 
 〈It happens Sudenly,but now I think that it is fate.〉
スタート暗めな本作。だけど心配は無用です。次話には主人公が満を持して?登場いたします。
……というか初回に主人公がこんなに薄い作品というのはどうなのか、結構気がかりな今日この頃。


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