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  MT 作者:あだぞら

resistantに次回で使う合言葉を教えてもらった。合言葉はこのグループでは同じ人が言うらしい。
どうせ他もやっていることだから、わざわざ報告なんて入れる必要は無い、ということだ。
あとはresistantのグループ員も教えてもらった。resistantとflowergardenの他に二人。僕を入れて五人。
現在のグループの数は五つ。summermusicのグループ、mellowのグループ、resistantのグループ。他にも二つあるようだ。
人数はsummermusicのグループが十人程度。mellowのグループも十人程度。他の三つはだいたい五人程度。
utopiaから始まるアドレスのグループは、MTを好んでいる傾向が他のグループよりも強いらしい。
最後に敵対するのはこのグループだろうと、resistantも言っていた。
今回のターゲットが僕なのは、あくまで初心者だからで、敵意を持ってやっている人間は少ないらしい。
僕は、次回まではターゲットのままで、resistantのグループに所属したことを他に知られないようにするのが役目となった。

resistantのグループには過去にターゲットにされた人間が集まっている。
それは他のグループも知っていることだ。
恐らく、僕がresistantのグループに入ったこともすぐにバレるだろう。
問題なのは、utopiaにうちのグループの動きを捕まれないようにすること。
僕らは目的はMTというシステムを壊すこと。
MTを露呈させて止めるようなことはせず、参加者全員にMTをやる意味がないと思わせたうえで止めること。
汚い腹の探り合いや建前だけの交友関係もない生活に戻ること。
なるべく動きを悟られないように、仲間を募る。
逆らえばターゲットにされる。そんなこと、誰だって分かる。
クラスの半数以上。理想はutopiaのグループ以外を味方につければ、その心配もなくなり、ターゲットにされることを恐れる者はいなくなる。
そうなれば、本当はMTに疑心を持っているが、ターゲットにされるのを恐れ、今まで発言できなかった者もresistantの方につく。
あとはutopiaのグループと対決するのみ。
summermusicやmellowのグループはターゲットにされたくない人が固まっているだけらしいから、味方につけるのは簡単らしい。
まして、もう一つのグループは小規模だから一番簡単だと言っていた。
今まで集めた情報から、utopia以外のグループから最低一人ずつこちら側につける人を選び、引き抜く。
あとはその人を使い、他のグループ員でMTを好んでいない者を引き抜く。
そうすれば芋づる式に味方が増えていく。ということだ。

resistantの作戦は既に完成していて、あとは実行に移すのみだった。
僕には、人数で圧力をかけるように思えたし、これがMTで正々堂々戦う、ということなのかよく分からない。ルールには則っているわけだし。
僕がターゲットにされたままなのは結局変わらなかったし、resistantには僕を救う気は無さそうだ。
中傷メールは最初のうちは多いけど、だんだん送られなくなってくる。
たまに学校の休み時間に送って反応を見るようなヤツもいるけど、それさえ耐えれば大丈夫。そんな風に言うだけだった。
ただ、resistantや他のメンバーのMTを壊すという意志は、よく分かった。
参加したばかりの僕には、MTがこのクラスをどれだけ変えたか分からないし、MTを怨むとしたら、それは逃げかもしれない。
だったら、僕は次回、自分の力でターゲットが自分にならないようにするのが筋ってもんだろうか。
―MTには、マンガみたいな奇跡の逆転劇も、ハッピーエンドも、何も無い。
 ターゲットはリセットされるまで、ターゲットのまま。
 逃げ出したいなら、MTを壊すしかない。
resistantの言葉の通りなら、このまま黙って耐えるしかない。

翌日、いつものようにポツポツと中傷メールが届いていた。
「ねぇ」
突然の声に僕はビクついた。戸崎だった。戸崎は、僕の仕草にいやそうな顔をしたように見えた。
「な、に?」
喉が渇いていてうまく声が出なかった。
「席替え今度するんだけど、席どうするか、先生が聞いて来いって言うからさ」
そういえば戸崎は学級委員をやっていた。
「どうするか、ってどういうこと?」
僕は少し探るように聞いた。戸崎が怖かった。
「席そこのままでもいいって言ってるから、そこがいいならそこがいいで、動いてもいいなら動いてもいいってこと」
戸崎の言葉はどこか冷たい。僕なんか眼中にないんだ。そんな風に思わせる。
「あぁ、そっか。動いてもいいよ」
僕は早く会話を終わらせたかった。
『…邪魔なんだけど』
この前言われたセリフが、頭から離れなくて、戸崎の口調がその時と変わらないのが、余計に僕を怯えさせる。
「分かった。伝えとく」
戸崎がそう言って、会話が終わる。僕はホッとした。
戸崎だから怖いというわけではない。ただ、いじめが怖い。会話の中でいつ暴言が飛び出してくるかも分からない。それが怖い。
表面化しない。でも、もしも、表面化したら。そうやって思うたびに心臓が高鳴る。
このまま、耐えるしかないのか。怯えながら生活しなきゃいけないのか。
まだリセットまでは遠い。それに、もしかしたら僕はこのままずっとターゲットになるかもしれない。
resistantは助けてくれない。多分、同じグループの他のメンバーもそうだ。
やるなら、僕自身で、何かやるしかない。
このまま終わりたくない。


―このままずっと見ないフリかな?(笑)

mellowからメールが届いていた。
このままずっと、このままずっと耐えるだけで、僕は勝ったことになるのだろうか。
何もしないままで、みんながMTを壊すのを待って助かろうだなんて、そんなの…

―ちゃんと見てるよ。

僕はmellowにメールを送っていた。
言い合いで勝つ自信なんて無いけれど、体が勝手に動いていた。

―あれ?怒ってる?(笑)

―怒ってないよ。こんなことで怒るほどバカじゃないし。

―へぇ。じゃあ、前の学校ではもっとひどいことされたんだ?

僕はすぐに昔を思い出した。
なるべく親に迷惑がかからないように、いじめられていることが親にバレないように。
学校には嫌でも行ったし、いじめにも耐えた。
いじめていた奴等は調子に乗ったし、いじめも酷くなった。
僕はそれでも耐え続けて、ついに先生にいじめられていることがバレてしまった。
親にも知らされて、とても心配させてしまった。
結局、父親の転勤の話に乗っかって、僕はすぐにこっちへ逃げてきた。
そして僕は、いじめに耐えてるだけの自分も、転校していじめから逃げた自分も、勝ったなんて、変わったなんて思ったことはない。

―そうだけど、それがどうしたの?

このままずっと見ないフリをしているなんて、前と同じじゃないか。
MTを壊して、ターゲットじゃなくなるなんて、前と同じじゃないか。
転校した時、変わるって決めた。
それは、いじめられないようにすることなんかじゃない。

―みんな敵なのに、余裕だね。

―みんながやってるのは、いじめなんかじゃない。MTの攻略じゃないか。
 敵だって言うなら敵かもしれないけど、本当は味方だっていないじゃないか。

―最初に言ったでしょ。グループがあるって。グループ員が味方に決まってるでしょ。

―じゃあさ、味方=友達なの?
 その味方が、もし自分がターゲットにされた時、絶対に裏切らないって言い切れるの?

MTが、ターゲットにされなければ何の苦も無いことは分かる。
グループの存在意義は自分がターゲットにされないため、誰かをターゲットにするためなのも分かる。
なのに、何故resistantのグループに以前ターゲットにされたという人が何人もいるのか。
グループに所属していなかった。その可能性は無くはない。
ただ、グループに見捨てられて、行き場所が無くなった。そしてresistantのところへ行った。
その方が妥当なんじゃないだろうか。
グループだって、まともに意味を成さない。味方なんて、まともに意味を成さない。
mellow、それがMTじゃないのか?

―はぁ?友達に決まってんじゃん。裏切るわけないじゃん。
 調子に乗ってんじゃねぇよ。

口調が荒々しいのは、僕への怒りか、自分自身への怒りか、それとも…
不思議と僕の意識ははっきりしていて、湧きあげてくる思いはどんどん携帯に打ち込まれていった。

―きっとそのままいつか気付くんだ。ゲームと現実が混濁して、自分の周りが他人だらけになるんだ。
 ただ淡々とこんなゲームを続けていくだけで、それが一番楽しい生活なの?
 MTをやる前に持っていたもの、今でもちゃんと持ってるの?

そして、メールの返信は無くなった。
なのに、僕への集中攻撃のメールもなかった。



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