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0から始める小説の書き方徹底講座! 作者:N.M.ぺんくらぶ

技術論

59/61

伏線の張り方で参考になる小説※「殺戮にいたる病」のネタバレを多分に含むため未読の方はご注意ください。

 殺戮にいたる病

 あらすじ
『永遠の愛をつかみたいと男は願った――東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔! くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー』

 この物語は犯人が捕まるエピローグから始まり、この段階で「犯人である蒲生稔」「警察を呼んだ樋口」「現場にいた雅子」という三人の人物が登場します。以後は三人それぞれの視点から物語が進行していくわけですが、このエピローグがすでに著者の仕掛けた罠になっているんです。

 まずはエピローグで判明した登場人物を抜き出しておきます。
①犯人である蒲生稔
②警察を呼んだ樋口
③現場にいた雅子

 第一章の冒頭を引用。
『蒲生雅子が、自分の息子が犯罪者なのではないかと疑い始めたのは、春の声もまだ遠い二月初めのことだった』 
 我孫子武丸1996年『殺戮にいたる病』講談社 P12

 早速、エピローグで「現場にいた雅子」が犯人と同姓であることが示されます。また息子を犯罪者ではないかと疑っていることもわかります。

 視点が稔に変わった直後を引用。
『蒲生稔が初めて人を殺したのは、雅子が不審を抱き始める三ヶ月も前、前年の十月だった』と『もしこのことを知ったら、母さんはきっと気が狂ってしまうだろう――稔はそう確信していた』
 我孫子武丸1996年『殺戮にいたる病』講談社 P13~P14 

 この流れにより相当な捻くれ者以外は「稔と雅子は家族」と判断するはずです。
 その後は樋口視点になり、三人の人物像が出揃います。
 読み進めると雅子が「息子」という代名詞を頻繁に使い、名前で呼ばないことに意識が向かうんですよね。そのためトリックが仕込まれているのはここかと思うのですが、しばらくすると、雅子視点の中で「稔」という名前が出てきて間違いだと知らされる。また稔の家族に「愛」という名前の人物が登場するので、中には稔の発言にある「愛」は広義の意味の愛ではなくて、実は登場人物の一人である「愛」を指しているのではないか? と考えた方もいるみたいですね。

 ともかく重要なのは「犯人である稔」「犯人の母である雅子」「犯人を追う元刑事」という関係性で読み進められるところなんです。まずここが成立していないことには伏線もなにもありませんからね。

 さてさて。
 結論から書くと本作は叙述トリックなのですが、伏線がフェアに敷かれているため、二度目を読んだときに本領が発揮されます。ぶっちゃけると稔は雅子の息子ではなく夫なのですが、一度目は稔を「雅子の息子」として読め、二度目は稔を「雅子の夫」として読めるんです。アンフェアな伏線が目立つと違和感を覚えるはずなんですが、むしろ細かな伏線に感心しながら読み進められると思います。

 例えば雅子視点のときに息子の部屋を訪ねる場合や、稔視点のときに母親が部屋に訪ねてきた場合に、微妙な差異を加えることでヒントが与えられていますし、ほかにも二十歳の大学生である稔をオジサンと呼ぶ少女がいるんですが、これも本当に中年だからオジサンとも取れるし、十代の少女からすれば二十歳はオジサンとも取れます。また大学の構内にいる描写も学生の立場ではなく、助教授の立場としていることも後々判明します。

 どんでん返しへ至るまでの伏線で大切なことは、読者へのフェアな情報の出し入れなのではないでしょうか? 特に注意してほしいのは「伏線を張る」ことと「思わせぶりな台詞や意味深な言葉で煽る」ことは別物ということです。仮に二度読むのは面倒臭いという方でも、読み終えたあとに冒頭へ戻ると、仕掛けられた罠にやられたと感じるはずです。ただし本作はグロテスクな表現も含まれているため、そういうのが苦手な方はお気を付けください。 N

 参考文献
 我孫子武丸1996年『殺戮にいたる病』講談社
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