挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

エピローグ

69/71

エピローグ(1)

 梅雨があけ、青空が広がって空気が乾いてくると、事件のせいで重苦しかった学園の雰囲気も軽くなっていった。目の前に迫る夏休みの楽しい計画に誰もが浮かれている。
 しかし、空の気持ちは逆に沈んでいった。
 夏休みをむかえられなかった生徒もいるのだ――
「浮かない顔だな」
「私が怪談の記事を書かなかったら誰も死ななかったのかなって考えるとね……」
「……」
 嘘のつけない陸の生真面目さが今日に限って憎らしい。顔をあげずに、空は聖歌の机の上についた輪を指先でなぞり続けた。花を活け続けてきた花瓶の底の跡がついてしまったのだ。
 終業式のこの日、花ごと花瓶は片づけられてしまった。こうして事件は忘れ去られていく……。
「津田沼校長の運命は二十年前には決まっていたんだ。空が記事を書かなかったとしても、いずれ殺されていたさ」
 海なりに気をつかったのだろうが、つっけんどんな言い方だから優しさがちっとも感じられない。
「市川先生は復讐の機会を待っていたんだ。空の記事がなくても、いつかは津田沼校長の犯罪を見抜いていただろう」
「市川先生は復讐のために学園に赴任してきたのよね」
「二十年……長げえよな……」
 自分たちの生きてきた時間を超える年数に気が遠くなったのか、陸が深いため息を漏らした。
「二十年というと、ちょうど、彼女が殺された頃よね。ずいぶん都合よく学園に美術教師の空きがあったのね」
「前任の美術教師が亡くなったんで空きが出来たんだ」
「まさか……」
 空は言葉をのみ、同じことを考えたらしい陸と互いに顔を見合わせ、肩を震わせた。
「そのまさかだ。美術教師は殺された。もっとも、殺したのは市川先生ではなくて、津田沼校長だけど」
「津田沼校長が?!」
 空と陸とは同時に声をあげ、穴でも開けられそうな鋭い視線を海にむかって投げかけた。
「ひき逃げ事故で亡くなったってことになっているけど、運転していたのが津田沼校長だとしたら――」
「海、どうして津田沼校長が美術教師を殺したなんて考えるの?」
「笹木弘明くんの死体は石膏で固められていただろう? 美術室の石膏像の位置が変わっていたことで何者かが侵入したと美術教師なら気づいたと思うんだ。笹木弘明くんの事件と何者かが美術室から石膏を盗んだこととを結びつけて考えたかどうかはわからないけど、津田沼校長にとって美術教師が都合の悪い存在になったのは確かだと思う」
「それで、轢き逃げにみせかけて殺したってわけね。その時に津田沼校長が捕まっていれば……」
 市川は復讐を考えなかったかもしれない。七美たちも死なずにすんだかもしれない。たらればの話だが、空は唇をきつく噛んで悔しがった。
「津田沼校長が轢き逃げ犯だという証拠はあるのか?」
 陸にむかって、海は曇った表情で首を振った。
「安達刑事に頼んで調べてもらったら、津田沼校長は事件現場で目撃されたものと同種の車に乗っていた。ただし色違いの」
「色なんて、塗り変えられるだろ?」
「でも捜査は津田沼校長には及ばなかった。轢き逃げは事故として処理された。後ろ暗い秘密を知った美術教師を殺して津田沼校長は安心していただろうけど、おかげで美術教師の空きが出来て市川先生が赴任してくることになったんだから、自分で復讐者を学園内に招き入れたようなものだよ。二十年前、美術教師を殺した時点で津田沼校長は自分の運命を決めてしまったんだ。空の怪談記事のせいじゃない」
 空の罪悪感を取り去ろうと海は海なりに努力していた。
 慰めの甘い言葉でもなく、理路整然としていて味気ないが、気持ちが嬉しく、空は声には出さずに「ありがとう」と唇だけを動かしてみせた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ