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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第7章 解決編

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解決編(11)

「今年の春先に配信されたメルマガで怪談の存在を知りました。そのうちの生物室の骨格標本が本物の人骨という怪談を目にして、まさかという思いで調べてみたのです。理恵はひどい外反母趾を患っていました。歩くのも辛いから手術を考えていると言っていました。骨格標本の両足の親指の骨は異様な形をしていました。標本にあるまじき異常な形です。私は骨格標本は理恵で、彼女は殺されたのだと確信しました。理恵を殺して遺体を生物室に骨格標本として置く、そんなことができるのはかつて理科主任であった津田沼校長しかいません。私は津田沼校長を問い詰めた。しかし逆にすきをつかれて、襲われてしまった。気づくと校長室ではなくて真っ暗な空間に閉じ込められていました。地下通路の存在を知ったのはこの時でした。しばらくすると津田沼校長がやってきた。私は気を失ったふりで、地下から運び出されるのを待った。津田沼校長は私を美術室に運び入れた。どうやら授業の準備をしているうちに運悪く石膏像が倒れてきた事故にみせかけて私を殺すつもりだったようです。私は津田沼校長にとびかかりました。しばらくもみあっていると、ふと津田沼校長がバランスを崩したんだ。今思うと、地震のあった時間だった。そのすきに反撃した私は勢い余って津田沼校長を殺してしまった……」
「そして、石膏像が倒れた事故にみせかけた――」
「その通りだ。すべて海くんの推理通りだよ。お膳立ては津田沼校長がすでにしてあったからね。死体が私から津田沼校長に変わっただけだった。美術室の鍵は、死体発見の混乱にまぎれてそっと津田沼校長のスーツのポケットに戻しておいた。工作は完璧だった。事故で済むはずだったんだ。それが誰かに見られていたなんて……。津田沼校長を殺してしまった時、茶道室から飛び出してきた生徒を見て、私は犯行現場を見られてしまったと思った。それが勘違いで、しかも人間違いだったとは……」
 両手で頭を抱え、市川は髪の毛を引き抜く勢いでかきむしった。
「松戸先生は、どうなったんです」
 噛みつかんばかりの勢いで希美がくってかかった。
「松戸先生は……海くんと同じ疑問をもったんだ。何故職員室に入ろうとしていた人間が、中には誰もいなかったと言い切れるのかとね。それに松戸先生には見られてしまった。山下さんの遺体を地下通路から礼拝堂に運び入れているところを。それで、犯人に仕立てて殺すことにした……」
 その瞬間、佳苗の制止を振り切り、希美は獣のような咆哮をあげ、市川につかみかかっていった。涙と唾とを飛び散らせ、希美は市川の胸倉をつかみ、体をゆすった。
「先生も恋人を殺されたんでしょう。愛する人を失って悲しむ気持ちがわかっていながら、どうして……なんで松戸先生を私から奪ったんですか!」
 市川の体は力なく、前後左右に揺れていた。すまない、すまない――小さな声で市川はずっと謝り続けていた。希美に頭を殴られても胸を叩かれても、じっとうなだれていてされるがままで居続けた。
 安達に手錠をかけられ、かけつけた警官たちに付き添われて立ち去っていく時も、市川は萎れた花のように深くうなだれたままだった。
 正面玄関を出て行こうとする時、市川は足を止め、八角の間の全員を振り返った。そのまま地面にのめりこみそうな勢いで腰を折り、深々と頭を下げた。
 空は頬に熱いものが流れるのを感じた。七美、聖歌、篤史……市川は空の友だちを次々に殺していった。殺してやりたいほど、犯人が憎かった。市川が犯人だとわかっても、憎しみはかわらない。しかし、何だかとても悲しかった。ただただ、悲しかった。
 犯人がわかっても、七美たちは戻ってこない。さみしい、悔しい、市川が憎い、感情が胸のうちでごった煮になっている。
 事件を解決した海はどう思っているのだろうとふと横をみやると、泣きはらしたような赤い目をして海は市川の去っていった正面玄関を見つめていた。事件を解決した誇らしさなど、微塵も感じられない険しい顔つきをしていた。じっとうつむいたままの陸の表情は読み取れない。市川が犯人だと告白してから、陸は一度も市川の方を見なかった。
 空はそっと、陸の固く握られた手を包み込んだ。
「海、陸、帰ろう」
 両手をそれぞれ海と陸とつなぎ、空たちは八角の間を後にした。
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