挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第7章 解決編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

67/71

解決編(10)

「そうですね。市川先生の白衣は形は白衣だけど、とても白い衣とはいえない代物です」
 不謹慎とは知りながら、空は思わず吹き出してしまった。慌てて口を押えたが時すでに遅しで、笑ったのは空と陸だけで、後は海の話に真剣に耳を傾けている。
「でもあの日、市川先生は白衣を着ていた。絵の具の散っていない真っ白な白衣です。新しい白衣なのかなと思っていました。でも、事件が起きて、美術室に戻ってきた先生はいつもの絵の具のついた白衣を着ていた。変だなと思ったけれど、大して気にもとめずにいました。中山少年が幽霊を見たと言っていたと聞いて、もしかして白い服を着た人物をみたのではないかと考えたら、先生が白衣を着替えていた事実が引っかかったんです。何で市川先生は白衣を着替えたのか、着替える必要とは何か――もしかして返り血を浴びたからではないのか。市川先生はあらかじめ返り血を浴びるだろうと予想して、いつもとは違う白衣を着た。そして事件後、何もなかったかのようにいつもの白衣に着替えて美術室に戻った……」
 全員の視線が、黙って立ち尽くしている市川の白衣をとらえていた。さまざまな色の飛び散る白衣とは言えない白衣。散った絵の具がまるで血しぶきのようにうつる。
「八角の間で幽霊を見たという話から地下通路の存在を疑い、発見した寺内篤史も犯罪の発覚を防ぐためには殺すしかなかった。そして死体を生物室の骨格標本のようにして晒した。ひとつは口封じ、もうひとつは骨格標本を怪しまれずに盗み出すためでした。宮内理恵さんの遺体をいつまでも生物室に置いておけば、いずれ警察に本物の人骨だと知られるのではないかと恐れたんです。骨格標本が宮内理恵さんだとわかれば、津田沼校長の犯罪が露見する。津田沼校長を殺す動機のある人間に捜査の目がむく。だから骨格標本を持ち去った。これが遺体を持ち去ったもうひとつの理由です。持ち去った骨格標本は市川先生が大切に保管されていますよね」
 返事はなかった。かわりに鋭い嗚咽が漏れ、腕組みしたまま市川が二度、三度と頷いた。
「宮内理恵さんは市川先生の恋人でした」
 海がそう言った途端、張りつめていた糸が切れたように市川は膝から崩れ落ち、声をあげて泣き始めた。
 しばらくの後、安達に抱えられて立ち上がった市川は、ほんのわずかの間にやつれてしまっていた。
「私と理恵は大学時代からの付き合いでした。彼女がひとつ年上で、ひと足先に社会人になったんです。学園に就職できてとても喜んで、毎日張り切って出勤していました。ところが、夏を過ぎた頃から様子がおかしくなってきた。仕事のことで悩んでいるんだろうと思っていましたが、何も話してはくれなかった。そしてそのまま、ある日突然いなくなった……」
「二十年前の十月ごろですね」
「仕事のことで悩んでいたようだから思い詰めて失踪したのだろうと言われたが、信じられなかった。彼女は悩んでいたら立ち向かう人間で、逃げるようなことはしない。でも、結局、失踪事件として扱われ、時間だけが過ぎていった。春になって私は就職が決まり、彼女と住んでいたアパートを引っ越すことになった。荷物を整理していた私は、見慣れないフロッピーディスクを見つけた。中身は試験問題のようなものでした。はじめ、彼女が作成した試験問題かと思ったのですが、よくみると、彼女が教えている教科以外の問題ばかりだった。そのうちのひとつに見覚えがあった。当時、私は塾のアルバイトで国語を教えていました。試験問題のひとつはその年の学園中等部の入試問題でした。生徒が学園を受験していて、試験後すぐに答え合わせをしたので問題を覚えていたんです。後で調べたところでは、他の教科も入試問題でした。何故、理恵が入試問題のデータを持っていたのか、私は疑問を抱きました。そしてふと、思い出したんです。生徒の中にはとても受験をかいくぐってきたとは思えない出来の子がいると理恵がぼやいていたのを」
「裏口入学ですね。噂のほとんどは事実と思ってもらって間違いありません」
 奈穂の口調は穏やかだったが、津田沼校長への嫌悪ははっきりと感じとれた。
「理恵は裏口入学の証拠を握ってしまったので危ない目にあったのではないかと疑い、偶然にも美術教師を募集していた学園に再就職していろいろと調べまわってみたんだ。しかし、黒い噂を耳にするだけで核心には迫れずにいた……」
「どうやって津田沼校長が宮内理恵さんを殺したと知ったんだ?」
 安達の問いに、市川はすぐには答えられずにいた。恋人を殺された無念に胸が詰まって何も言えないようだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ