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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第7章 解決編

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解決編(9)

「それは入ろうとしていたのではなく、出てきた所だったんです」
 そう言うなり、海は図書室の中へと入っていった。数秒の後、ドアが開き、海が姿を現した。ドアを閉めながら、海は八角の間へと顔を向けた。半開きのドア、ドアノブにかけた手……図書館に入っていった時とまったく同じ光景が繰り広げられていた。
「『職員室に忘れものを取りにきたところだ』と言われ、浅見さんは、市川先生は職員室に入ろうとしているところだと思い込んでしまったんです」
 幸子の顔からたちまち血の気が失せ、真っ赤だった顔が蒼白になっていた。
「トイレで相馬さんを襲い、市川先生は近くの職員室へと逃げ込んだ。授業中の職員室には誰もいませんから。そして職員室から出て、さも今職員室に着いたばかりだという風にみせかけたんです。白石先生と松戸先生は初め、事件当時、職員室にいたと嘘をついていました。市川先生が職員室には誰もいなかったはずと言うのを聞いて、僕は不思議に思ったんです。職員室には入っていなかったはずの市川先生がどうして中に人がいないとわかったのか。市川先生は職員室の中にいたから、誰もいなかったと知っていたんです」
「そうだったんですか……」
 長い沈黙の後、希美は赤くなった目を市川にむけた。事件当時のアリバイについて嘘をついたため、松戸は犯人だと疑われてしまった。嘘を見破った人間がまさか真犯人だとは希美は思いもよらなかっただろう。
「海くん、君は天才だよ。推理力も大したものだ」
 市川は絵の具の散る白衣のポケットに両手を入れたまま、肩をすくめた。
「君の言う通り、開かずの間とやらも地下に存在した。死体もあったし、地下通路も発見した。怪談を紐解いて真実をさらけ出すなんて、常人にはできない仕業だ。地下通路を通ったなら確かに人目につかずに西校舎へ行けるんだろう。しかし、あの日、私は地下通路なんか通らなかった。中央階段から一階に降りて、職員室にむかっていた。残念ながら証明できる人間はいないよ。授業中で誰とも会わなかったからね。だが、私が地下通路を通って西校舎に出現したと証明できる人間もいないだろう」
 市川は困ったような笑顔を浮かべていたが、目の奥が笑っていなかった。
 海は市川の非難するような視線をうけてもたじろぎしないでいた。自分の推理によほど自信があるとみえて、市川を見返す目には力があった。
「証明できる人間はいました。でも、その人物も、市川先生、あなたに殺されてしまった」
「そ、それは一体誰だ?」
 安達がうわずった声で尋ねた。
「八角の間にメガネと靴の片方を残して消えた中山淳少年です。市川先生は、八角の間の怪談になぞらえて中山少年を殺した。彼は、相馬さんが殺されたあの日、八角の間から地下通路に入っていく市川先生を見たんです。もっとも、本人は自分が見たものが何だったのかわかっていなくて、幽霊だと思いこんでいました。すーっといなくなった白衣姿の先生の後ろ姿を八角の間に出る幽霊だと勘違いし、八角の間の幽霊を見たと言いふらして、目撃されたと気づいた市川先生に殺されたのです」
「学園で白衣を着ているのは私だけではないよ。野沢先生だって白衣だし、他にも白衣姿の先生は何人もいる。松戸先生だってそうだ」
「そうですが、問題は、市川先生はあの日、白衣を着ていたということなんです」
「私はいつも白衣を着ているよ。絵の具が服につくと嫌だからね。もっとも、これは白衣とは言えないが」
 ポケットから両手を出し、市川はカラフルな水玉模様になった白衣を指し示してみせた。
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