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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第7章 解決編

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解決編(8)

 海の推理力を疑うわけではないが、幸子の言う通り、旧校舎にいた市川に七美を殺せたはずはない。空は海に不安げな表情を投げかけた。しかし、海は毅然とした態度で市川を見据えている。
「校舎の中を歩いていくとしたら不可能です。でも、もし近道を通ったとしたら? PC教室は美術室のある旧校舎の対角線上に位置しています。対角線は辺の合計より短い。この場合の辺とは旧校舎と新校舎の北校舎のことです」
「でもその対角線上に道はないわ。あるのは……」
 空は目を閉じて校内の様子を思い浮かべた。美術室のある二階から中央階段を降り、八角の間を抜けて正面玄関を出ると目の前には二面のテニスコート。テニスコートを横切ると新校舎の玄関へと続く道、さらにいくとグランドにぶつかる。
「グランドだわ。グランドを斜めに突っ切ると確かにPC教室につくけれど、グランドを走っていたらいくらなんでも人目につくと思う」
「グランドを横切ったら、ね。でも校舎の外には出ず、グランドの下を走り抜けていったとしたら?」
「地下通路だ!」
 場をわきまえず、陸がはしゃいだ声をあげた。空に肘鉄をくらわされても陸の興奮はおさまらない。
「八角の間が四方にのびる地下通路の入り口になっていることはもうご存知ですよね。それぞれの入り口を柱として、地下通路は四方向に伸びていて、それぞれ校舎の外に出られるようになっています。出口には目印があります。東北方向には古井戸、東南方向は創設者の碑、北西方向にのびる地下通路は途中で埋もれてしまっています。四つ目、西南方向の入り口にはマリアの祠。市川先生は……」
 海は正面玄関むかって右側の柱を指さした。飾り棚にはイエスの肖像画が飾られている。
「この入り口から地下通路に入り、マリアの祠から外に出、西校舎に入った。そして相馬さんをトイレに連れ込み、殺害した」
「ちょっと待ってくれ。地下通路だなんて、私は今日初めて知ったんだ。皆さんもそうですよね」
 同意を求めるように市川は周囲をみまわした。
「そうでしょうか?」と海。
「先ほど、地下で、美術室から石膏を削る道具を取ってきてくださいとお願いした時、市川先生は明かりのない地下通路を何なく抜け、美術室から彫刻刀を持って再び地下のこの部屋へと戻ってきました。五分もかからなかったと思います。地下通路を通い慣れていなければとれない行動です」
 空の記憶にひらめくものがあった。市川が地下室を出て行った瞬間、海はちらりと腕時計に目をやり、市川が戻ってきた時も手首をひねる同じ動作で時計を確認した。その時には何とも思わなかったが、今にしてみれば、往復の時間を計っていたのだ。
「仮に、地下通路を使って西校舎に行けたとしても、相馬さんが教室の外にいるとは限らないのじゃないかしら。授業中だったはずよね、確か」
 希美は小首を傾げてみせた。
「相馬さんは教室の外におびき出されたんです。授業中のケータイ使用は校則で禁止されています。事情がある場合には教室の外で使用しなければならない。あの日、相馬さんは家に連絡するようにと言われて、教室を出ました」
「相馬さんをおびき出すために市川先生が相馬さんの家族のふりで学園に電話してきたっていうのなら、間違ってます。市川先生がかけてきたのならわかりますから。それに、電話をしてきたのは女性でした。おそらく、相馬さんのお母様だと思います」
 電話を受け取った幸子は、顔を赤くして訴えた。
 しかし、海は動じずに
「学園に電話をかけたのは、相馬さんの家族で間違いありません。しかし、事件直前、相馬さんの家に何者かが電話をかけています。遠方に住む祖父が危篤だという話で、相馬さんの母親は慌てて学園に連絡をしたそうです。でも、危篤話はいたずら電話だと後でわかった、そうですよね、安達刑事」
 安達は腕組みした姿勢でうなずいてみせた。
「でも、私は確かに職員室に入ろうとしていた市川先生に会いました」
 市川を犯人とは信じたくないのか、幸子はますます赤味の増した仏頂面で海を睨んでいた。
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