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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第7章 解決編

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解決編(6)

「二十年前、津田沼校長は、当時学園で英語教師をしていた宮内理恵という女性を殺しました」
「宮内先生のことなら――」
 富岡は記憶を探るように目を細めた。
「失踪したと聞いているが。秋ごろだったか、週明けに出勤してこなかったので騒ぎになったが、家族の話によると週末前にはいなくなっていたらしい。教師になったばかりでいろいろと悩んでいたんだろう。津田沼校長――当時は違うが――に相談していたようだが? 親身に相談にのっていたぐらいだから、殺すってことはありえないのじゃないかな?」
「相談にのっていたのではないのかもしれません」
 奈穂がため息まじりに独り言ちた。もうすぐ辞めてしまうが、秘書の仕事を通して津田沼校長の後ろ暗い部分をよく知っているのかもしれない。
「その方に言い寄って拒まれたので腹が立って殺した――そういうことだってあり得ますわ」
 そう言って奈穂は目を伏せた。
 驚いたことに、奈穂の大胆な仮説に異議を唱える人間は誰もいなかった。人格者ではなかった津田沼校長だが、こんなにも下種な人間に思われていたとは空には意外な事実だった。
「動機の一つだったかもしれません。僕に言えるのは、笹木弘明くんの場合とは違って、宮内先生の殺害は計画的な犯行だったということです」
「そう言い切るからには、死体のある場所もわかっているんだろうな」
 安達が海に迫った。
「ええ、安達刑事。死体のあった場所はわかっています」
「ちょっと待て。あったってことは今はその場所にはないのか?」
「はい、今はそこにはもうありません」
「どういうことか説明してくれ」
「死体は持ち去られてしまいました。寺内篤史を殺害した犯人によって」
「待ってくれ。ますます訳が分からない」
 安達は両手で髪をもんだ。脳みそを活性化させようとしたらしいが、おそらく髪の毛同様、脳の神経回路はくしゃくしゃになっただけだっただろう。
「何故、寺内篤史を殺した犯人が、津田沼校長に殺されたと君のいう女の先生の遺体を持ち去ったんだ?」
「二つの目的がありました。一つは、寺内の死体を晒すのに邪魔だったから」
「まさか、海くん。生物室の骨格標本が宮内さんとかいう人の遺体だったと?」
 希美の声が震えている。支えている佳苗の顔面も青白い。海は重々しくうなずいた。
「生物室の骨格標本は宮内先生の遺体です。寺内を殺した犯人は、宮内先生の遺体を持ち去ってかわりに寺内の死体を晒した……」
「海くん、君はどうして骨格標本がその女性の遺体だってわかったんだ?」
 市川の声は掠れて、唇がわなないていた。
 本物の人間の骨、それも殺された人間のものを目の前に学園で毎日を送っていたと知って、あまりのおぞましさに誰もが茫然と立ち尽くしていた。
「骨格標本は本物の人骨という怪談がヒントでした。今ではプラスチック製ですが、昔は本物の人骨が用いられていました。二十年前、理科主任だった津田沼校長は当然そのことを知っていて、宮内先生の遺体を骨格標本として生物室に置いておく計画を思いついた。殺人で厄介なのは死体の処理です。死体が見つからなければそもそも殺人事件として扱われない。事実、宮内先生は、仕事上の悩みを抱えてある日突然失踪したのだと考えられていました。実際には殺害され、遺体は学園内にあったのですが……」
「骨格標本が本物の人骨だったとして、それが殺された女性の骨だとどうやってわかったのかしら?」
 佳苗が疑問を投げかけた。
「専門家なら骨の特徴から性別がわかるだろうけれど、普通の人には骨を見ただけでは女性だとはわからないのじゃないかしら」
「野沢先生は確か、以前は看護師をしていたんですよね」
「ええ。女性の骨盤には特徴があるから、勉強した人なら見わけがつくけれど、それだって、女性だということがわかるだけで、個人を特定するのは骨からだけでは難しいと思うわ」
「個人を特定できるような特徴があったら? 例えば、骨の一部が曲がっているだとか歪んでいるだとか、変わった形をしているだとか」
「それなら、誰だかわかるでしょうね」
「生物室にあった骨格標本には」
 海はぐるりと全員を見わたした。
「両足の骨に特徴がありました。残念ながら実物を見ることはできなかったのですが、写真で確認しています。両足の親指の骨がくの字に変形していました」
 あたりは水を打ったようにしんとなった。
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