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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第7章 解決編

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解決編(4)

「それで、死体はどこにあるんだ」
 安達だけがせわしなく部屋の中を歩き回っている。
「死体ならそこに」
「何だと」
 海の指した方角へと安達は駆け寄っていった。コンクリートの壁にそって段ボールが数箱重ねて並べられてある。その足元には白い物が横たわっていた。
 安達は恐る恐る段ボール箱を開けて中を覗き込んだ。しかし中身は書類だったようで、手にした紙切れを海にむかって忌々し気に振り回した。
「死体のしの字もありゃしねえぞ」
「刑事さん。海くんは壁を指してました。壁に死体を埋め込んだ、そういうことじゃないでしょうか?」
 希美は、海と安達との顔をかわるがわる見やった。しかし海は首を横にふり、
「いいえ、死体は安達刑事の足元にあります」
「足元って言うけどなあ、段ボール以外には……」
 安達はぐるりと周囲を見渡し、人型の物の上にかがみこんだ。
「こいつは何だ? 人形か何かのようにみえるが? これが死体だって言うのか?」
 一斉に向けられた全員の不安げな顔にむかって、海は頷いてみせた。ただひとり、市川が薄笑いを浮かべていた。
「違いますよ、それは死体じゃない。死体のように見えるけれど、れっきとした石膏像です。出来が悪いので、死体に見えても仕方がないんだが」
 市川は横たわっていた人型を抱え、壁に沿って垂直に立たせてみせた。
「ロダンの『考える人』ですよ」
「なあんだ」
 全員の気持ちを代弁するかのように空が調子はずれな声をあげた。実をいうと、開かずの間に一歩足を踏み入れたとたん、白い物体が真っ先に目に入り、死体かと思って身構えたのだが、よくみれば出来損ないの石膏像、美術教師の市川がロダンの「考える人」像だというのだから、間違いはない。ここが頭部だの手足だのと解説され、空をはじめ全員が石膏像に近寄ってしげしげと眺めていた。
 ひとり、海だけが、渋い顔で立ち尽くしている。
「ロダンの『考える人』を模したのか、偶然そうなったのか、僕にはわかりません。わかるのは、その石膏像の中身は死体だということ。笹木弘明くんの死体はその石膏像の中にあります」
 その瞬間、それまで石膏像を撫でまわしていた市川がすばやく手を引き、安達がひときわ身を乗り出した。
「ただの石膏像にしかみえないがな」
「割ってみればはっきりします。市川先生、すみませんが、美術室から石膏を割ることのできるような道具をもってきてもらえませんか」
「あ? ああ」
 市川は弾丸のように開かずの間を飛び出していった。
「それにしてもだ、死体が石膏で固められているとして、犯人は何でそんなことをしたのかね」
 安達は考え込むときのくせで顎をしきりとさすった。
「腐敗臭を防ぐためです。犯人は笹木弘明くんを殺害し、死体を地下倉庫に隠した。しかし死体が腐敗し始めてしまった。二十年前、笹木弘明くんが行方不明になった直後、学園では異臭騒ぎがありました。犯人は事件の発覚を恐れ、死体を地下倉庫に隠し、臭いを防ぐために石膏で固めたんです」
「海くん、あなたは犯人ではないのにどうしてそんなことがわかるの?」
 希美が不審がるのも無理はない。犯人でしか知り得ない情報を海が断定してみせるので、誰しもが薄気味悪く感じ始めていた。二十年前の出来事だから、まだ生まれてもいない海が犯人であるはずはないのだが。
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