挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第6章 怪談の呪い

56/71

怪談の呪い(11)

 くぐもってはいたが、それは海の声だった。
 鉄の扉を隔てた向こうに海がいる。
 空と陸は声の限りに叫んだ。
「海! 私たち、開かずの部屋に閉じ込められたの! お願い、助けにきて!」
 海に聞こえるよう、空は一言ずつ、はっきりと大きな声で売った、
「開かずの部屋――」
 語尾のはっきりとは聞き取れない一事を残して、海の声は掻き消えてしまった。
「海の奴、助けに来てくれっかな……」
「信じようよ……」
 しかし、いくら待っても助けは来なかった。考えてみたら、扉の向こうは地下のはずだ。海がいるはずはない。海の声を聞いたと思ったのは幻聴だったのかと疑い始めたその時だった。
 錆がきしむ音をたてて、扉が開いた。
 空は一目散に扉目がけて駆けだした。
 海はスパナを手に、荒い息で立っていた。足元に歪んだ南京錠が転がっていた。
「空!」
 スパナを投げ出し、海は空を強く抱き留めた。
 ひ弱だとばかり思っていた海の腕は海と同じぐらいたくましく、空を驚かせた。
「急ごう。犯人が戻ってくるかもしれないから」
 再会を喜ぶ暇もなく、海は空を陸にたくし、先に立って歩き始めた。
 地下倉庫を脱出できたとはいえ、空と陸が愕然としたことに、そこはまだ暗闇に包まれた地下だった。
「海、一体、ここはどこなの?」
 生きた心地を取り戻しつつあった空は、逆に恐怖を感じはじめながら尋ねた。
「まだ地下なんだ。もう少し行くと地上に出られるから」
 聞きたいことは山のようにあった。なぜ海は入り口の閉じられたはずの地下倉庫の場所を知っているのか。海の口ぶりでは出口もわかっているようだ。だが、空はそれ以上、何も聞かなかった。
 地下から脱出すること、陸も海も含めて三人とも、それだけに集中し、ひたすら懐中電灯の心もとない明かりを頼りに先を行く海の後を追った。急がなければ、今にも犯人がやってくるかもしれない。
 やがて、三人は円形の広間のような場所に行き当たった。その先に進むべき道はなかった。
 精神的肉体的な疲労もあって、空はその場にしゃがみこんでしまった。
「海。行きどまりだぜ。どうするんだ」
 空の手前、冷静でいようとする陸だが、その声が震えていた。
「陸。これから僕が言うことをちゃんと聞いて、その通りにしてくれ」
 海は陸に向き直った。
「僕はこれから助けを呼んでくる。いいね、それまで二人とも、ここにいてくれ。何があっても、ここを動くんじゃない。いいな、陸」
 そう言うなり、海は来た道を引き返していこうとした。
「待って、海! そっちへいけば外へ出られるのなら、私たちも一緒に連れていって!」
 空の必死の形相に、海は悲し気に首を振った。
「空、いいから僕の言う通りにして。必ず助けを呼んで戻ってくるから」
 不安気な空を残し、海は身を翻して暗闇に消えていった。
 それから助けがくるまでの時間は数時間もかかったように感じられた。実際には、地下倉庫に閉じ込められてから一時間と経っていなかったのに、まるで何日も地下に閉じ込められていたような疲労感があった。
 約束通り、海は佳苗や幸子、救急隊員を伴って空たちを助けに現れた。
 天井の暗闇が丸く切り取られ、外の世界の明かりが飛び込んできた瞬間、空はその場で泣き崩れてしまった。
 空と陸とがいたのは旧校舎の外れにある古い井戸の底だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ