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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第6章 怪談の呪い

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怪談の呪い(7)

「なんだよ、海のやつ。トイレか?」
 ぶつくさ言いながら、陸は海が置いていった本を取り上げ、ページをパラパラとめくった。
「へえ、おもしれえ!」
 ちょうど本の中央部分、紙質が別のものに変わって写真が掲載されているページを見開き、陸は空の目の前に差し出した。
「みろよ、この写真。学園はもともとは十字架の形をした建物だったんだ」
 創立当時をとらえたモノクロ写真のいくつかは八角の間の飾り棚におさめられているものと同じだった。そのなかで見慣れない写真が一枚あった。上空から撮られたものでやはりモノクロのその写真には巨大な十字架が写っていた。
「横木にあたる部分は空襲で焼けてしまったんだと」
「ああ、それでなのね!」
「なんだよ」
「旧校舎の中央玄関の真正面にドアがあるじゃない? なんであんなところにドアがあるのかなって不思議に思ってたんだけど、昔はあの先に建物があったのなら、ドアがあって当然なのよね」
「ふーん……」
 空の発言を受けて陸は何故だか考え込んでしまった。
「開かずの部屋ってのはさ」
 陸が口を開いたのはしばらく経ってからだった。
「空襲で焼けたっていう旧校舎のことじゃねえ?」
「空襲で亡くなった人を収容していた、じゃなくて、空襲で亡くなった人がいた、入り口は閉じられたのではなくて、なくなってしまったってことなら、開かずの部屋の怪談の元ネタとしてのつじつまはあうわ」
「問題は、空襲で亡くなった人間はひとりもいないってことだ」
 どこかへ消えていた海がいつの間にかリビングに戻ってきていた。その腕に図鑑のような厚めの本を抱えていた。
「亡くなった人がいないって?」
「その本に書いてある。1945年春、学園のある一帯は空襲にあった。しかし、学園にいた人間は全員無事だったって」
 海は陸から本をとりあげ、「写真だけじゃなくて文も読め」と文字だらけのページを陸の目の前に押し付けた。
「『神のご加護』ねえ……怪談よりうさんくさい話だな」
「どこかに避難していて助かったんだろう……」
 初めは自信ありげだった海の口調だが、途中から考え事をはじめてしまったかのようで、語尾は空中へと消えていってしまった。
「まーた、本をひっぱりだしてきたのかよ。お前は本ばっか読んでねえで、少しは外に出ろ」
 海が抱えていた本に陸がめざとく気づき、反逆を開始した。
「ああ、これは……本じゃなくて、卒業アルバムだ」
「あ! 十九年前の卒業アルバムじゃない!? どうしたの?」
 表紙に刻まれた年を見て、空は大きな声をあげた。司書によれば篤史は借り出した卒業アルバムをすべて返却したという話だったが、十九年前のアルバムだけがなくなっていた。その年のアルバムを、海が抱えている。
「母さんが卒業した年だから、父さんが持ってるかと思って書斎をさがしたら、あったんだ」
「お袋の……」
 陸は愛おしそうに濃紺に染められた革の表紙に手をおいた。
 出産後まもなく亡くなったふたりの母親の写真は御藏家のどこにも飾られていない。真澄が嫌がるのだという。御藏家にある家族写真といえば、海、陸、空の三人が写っているか、親の同級生同士で撮ったものか、それでなければ全員がいるものが主だった。
 海と陸は、繊細な細工のものを扱うかのようにアルバムをめくっていった。
 ふたりの母親はすぐにわかった。海も陸も、母方の血を強く受け継いだらしい。瞳の表情が魅力的で、その美貌は他の同級生たちを抜きん出ていた。
 感傷に浸りそうになるのを避けるようにして、海はさっさとページをめくっていった。不満げな表情を浮かべてみせた陸だったが、口には出さずにいた。その表情はまた泣き出しそうなのを我慢しているようにもみえた。
 三人は理科部の部活写真を探していた。骨格標本が本物の人骨かどうかを確かめるためだった。
「あった……」
 陸がめざとく見つけて、空と海は食い入るように写真に見入った。虫眼鏡を探し出してきた陸の努力もむなしく、人骨かどうかの判断はつきかねた。
「もうさ、理科主任の長谷川に訊いたほうが早くね?」
 なかば投げやりな調子の陸にむかって、海は「もう訊いた」と言った。
「んで?」
「そういう話なら、津田沼校長に訊くんだったなって言われた。津田沼校長は元理科主任だったから」
「でも、津田沼校長は死んじまってる」
「うん……」
 海は理科部の部活写真をじっと見つめた。骨格標本は白衣を着せられ、椅子に座らされて足を組んだポーズを取らされていた。
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