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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第5章 消える人々

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消える人々(7)

 八角の間で幽霊を見たと言っている生徒が誰かは思いがけない形で判明した。噂話を誰から聞いたのかをたどっていった結果、中等部一年の男子生徒が噂の発信源だと判明した。
 しかし、空はほんの少し、彼にたどりつくのが遅かった。
 幽霊、もしかしたら七美を襲った犯人を見たかもしれないその生徒こそが、八角の間で行方不明になった中山淳だった。
 七美を襲った犯人を目撃したかもしれない人物が行方不明になっている事実を知って、空は愕然となった。
 言葉を失ってその場に立ち尽くしていると、行方不明になっている事実を伝えた生徒が心配して声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
 空はやっとのことで息を整えた。
「幽霊の話、中山から直接聞きたかったんですか?」
「そうしたかったんだけど、無理よね」
「僕でよかったら、話しますけど」
 抱きつかんばかりに空が感謝してみせると、その男子生徒はうっすらと頬を赤めてみせた。声変わりもまだしていない、つい数か月前まで小学生だったあどけない幼さが残っている少年だった。
「みんな知っている話なんで、誰に聞いてもらっても同じだと思いますけど」
 そう断ってから、男子生徒は話を始めた。
「僕ら、あの日は技術の授業だったんです。授業が始まってから十分か十五分ぐらいしたら、中山の奴、腹が痛いって言って、先生の許可をもらってトイレに行ったんです。それから五分もしないうちに教室に戻ってきて、真っ青な顔で震えていたから、気分でも悪いのかって僕、聞いたんです」
 男子生徒は、行方不明になった生徒とは同じグループで作業していたそうだ。
「はじめのうちは、何でもないって言ってたんですけど、新校舎の方で生徒が襲われたから教室で待機するようにって校内放送が入って、授業どころではなくなったぐらいの時に、『俺、幽霊を見た』って、あいつがぼそりと呟いたんです」
「『幽霊を見た』って、それだけ? 男の幽霊だったとか、女の幽霊だったとかは? 八角の間には、創立者や日本軍兵士の幽霊が出るって怪談があるけど、どんな幽霊だったとかは?」
「すいません、そこまでは……」
 空の矢継ぎ早の質問に、男子生徒は首を横に振ってみせるだけだった。
 顔をとは言わないまでも、せめて男女のどちらかであったかぐらいは知ることができたら、犯人を絞り込めるかもしれないとの空の期待は粉々に打ち砕かれてしまった。
「トイレに行こうとしたら、八角の間に消える白い影が目に入ったんだそうです。その白い影は一瞬で消えたので、中山の奴、霊が出たと思って、トイレに行くのが怖くなって、慌てて教室に戻ってきたそうです」
「白い影ね……」
「はい。幽霊って、白っぽいらしいから。それに八角の間で見かけたから、幽霊でしかありえないって言ってました。やっぱり、あいつ、あの世に連れていかれちゃったのかなあ……」
 礼を言い、空は中等部の教室を後にした。
 空は、長谷部を幽霊だと見間違えた時のことを思い出していた。あの時、白い影がゆらめいたと見えたのは、白衣だった。白衣を着ている人物は何も松戸だけではないが、津田沼校長殺害に関して動機はあったこと、そして何より、警察が事情を聴こうとした矢先に姿を消している点が怪しまれた。やましいことがあるから姿を消したのだろう。七美を襲ったにしても、不倫相手の白石に一緒に職員室にいたことにしてくれと頼めばアリバイ工作は可能だ。そうして、七美を襲い、津田沼校長を殺害した現場を目撃したかもしれない聖歌も、自殺にみせかけて殺す。
 それにしても、なぜ七美が殺されなければならなかったのかと、ふと疑問に思って足を止めた時だった。
「おい、気をつけろ」
 怒鳴り声にはっと顔をあげると、目の前に篤史が立っていた。考え事をしながら歩いているうちに、無意識に旧校舎まで歩いていってしまったらしい。ちょうど図書室から出てきた篤史と危うくぶつかるところだった。
 篤史は両手で分厚い本を何冊も抱えていて、身動きが不自由だった。
「ごめん、ちょっと考え事をしていたものだから」
「なんだ、空か」
 子どもを抱きかかえるように、篤史は本の塊を胸近くに抱えなおした。
「幽霊を見たって生徒が誰だか、わかったわ。でも、遅かったみたい。行方不明になっているの。多分、七美を襲った犯人に殺された――寺内くんもそう思っているわよね」
 篤史は意味深な微笑みを浮かべるだけで否定も肯定もしなかった。
「詳しい話は聞けなかったけど、彼が見た幽霊というのは白衣を着た人物じゃないかと思う」
 空は海たちに語った推理を話してみせた。その間中、篤史は一言も口を挟まず、空の話に耳を傾けていた。
「空にしちゃ、上出来だよ」
 篤史は本を抱えたままの両手の指先をあわせてみせた。
 称賛の拍手のつもりらしい。かえってバカにされたようだと、空はむっとした。
「白衣となると、やっぱり松戸先生が犯人ということになるのかしら」
「白衣を着ている人間なら、松戸以外にも何人もいる。そんなことは海にも指摘されただろ?」
 むっとしたままの空を放っておいて、篤史は続けた。
「まあ、まだ白衣と決まったわけじゃない。ただ単に、白っぽい服を着ていただけ、ということだ」
 篤史は再び本を抱え直した。ざっと見て、軽く五冊は超えていた。それぞれ結構な厚みがある本なので、相当な重さが手にかかっているのだろう。図書室で借りてきた本らしく、背表紙にラベルが貼られてあった。
「八角の間で幽霊を見た生徒が行方不明になっているって話、ちゃんと海に伝えておけよ。犯人捜しの勝負は公平に決めたいからな」
 部室の入り口を塞いでいるような格好の空に邪魔だと言い、重そうに本を抱えながら廊下をゆっくり歩きはじめた篤史だったが、数歩行ったところで空をふりかえった。
「そうだ、忘れるところだった。七つ目の怪談が何か、怪談の七つ目を知ると死ぬという呪いの正体もわかった、とも伝えておいてくれ」
 篤史は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「どういう意味? それって事件と何か関係があるの?」
「塩は十分に贈ったつもりだぜ」
 それが、生きた篤史を見た最後になってしまった。
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