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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第5章 消える人々

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消える人々(6)

「そういえば、行方不明になった生徒ってまだ見つからないの?」
 珍しく家族そろって夕食の食卓を囲んでいた時だった。華がふと思い出したように空に尋ねた。中等部一年生・中山淳が行方不明になってから数日が経っていた。
 行方不明というが、行方不明になった状況が普通ではなかった。どうやら学園内で姿を消したらしいのである。
 学園から帰ってこない息子を心配した両親が警察に連絡、翌朝、登校してきた生徒が八角の間に落ちていたメガネと片方だけの靴を発見した。後に、淳のメガネと靴だと判明し、警察が介入する騒ぎになった。警察は事件と事故の両方から捜査しているが、解決の見通しはまるでたっていなかった。
「どうも、学園内でいなくなったらしいじゃないか。もし事件だとしたら、この間も生徒が襲われたりしたばかりで、学校とはいえ、安全な場所とは言えなくなったなあ」
 明彦も華も、聖パトリック学園に通っていただけに、時代の移り変わりに感慨深くなるのも無理はなかった。
「七美ちゃんを襲った犯人、まだ捕まっていないのよね? まさか、その犯人がまた学園生を襲ったってことなのかしら」
「うーん」と明彦は腕を組んで唸った。
「可能性がないわけではないけれど、もしそうだとしたら、学園の生徒ばかりを狙う変質者がいるってことで、ちょっと危険な感じがするなあ」
「空」と、華は神妙な面持ちで空に向き直った。
「危険を感じたら、陸くんを頼るのよ。陸くんなら体力も余ってそうだし、暴漢に立ち向かえるだろうから。相手が知能犯だったら、頼りになるのは海くんよ。とにかく、何かあったら二人を頼るの」
 まるで明日にでも誰かが学園を襲うかのように、華は真剣な顔つきだった。
「そういえば、僕たちが学園にいた頃も、生徒が行方不明になったことがあったっけ。ママ、覚えてる?」
「そんなことあったかしら?」
 小首を傾げ、華は遠い記憶を探った。明彦と華は同級生だった。海・陸の父親、真澄とも同級生で、真澄と明彦は華を争った仲だと聞かされている。
「確か、中等部一年の生徒だったと。八角の間に靴が片方だけ残っていたんで、霊に連れ去られたんだとか何だとか、噂になったんだっけ」
「そうだっけ?」
「そうさ。あの年はちょっと異常な年だったんだ。異臭騒ぎもあって、宮内先生が行方不明になって」
「ああ、私たちが高等部三年だった時だから、二十年ぐらい前の話ね。思い出してきたわ。パパ、宮内先生のことが好きだったから覚えているのね」
「男子生徒はほとんど宮内先生が好きだったと思うよ。教師になりたてて、僕たちと年も感覚も近かったからね。それに美人だったし。宮内先生に褒められたくて英語の授業を張り切っていた奴がいっぱいいたっけ。真澄もその一人さ」
「へえ、御藏くんが宮内先生をね」
「パパ、ママ!」
 そのまま思い出話に花を咲かせようとする二人を、空は遮った。海たちの父親が新任の英語教師にデレデレしていた話は聞きたくもあったが、それよりも今は八角の間に靴を片方残して消えた生徒の話が気になった。
「パパたちが学園にいたころに行方不明になった生徒も、八角の間に靴を片方残していったって」
「ああ、今回の行方不明になった子と同じ状況ね。それで思い出したんだ」
「その話、詳しく聞かせて」
「詳しくって言われても。八角の間に靴が片方落ちていたことのインパクトが強くて、他のことはあまり覚えていないけど。八角の間に出没する霊にあの世に連れていかれたって噂ががあったことは覚えているよ」
「今回と同じね! 今回いなくなった生徒も、八角の間の霊に連れていかれたって噂なの」
 空は思わずはしゃいだ声をあげてしまった。
 華もまるで空の同級生のように高い声をあげ、
「そうなの? 私たちが学園にいたころから、八角の間には霊が出るって話だったから。二人もいなくなったってことは、もしかして本当に霊がいたりするのかしら」
「そんなわけないだろう」
 明彦は困ったような笑い顔を浮かべた。
「僕が聞いたのは、開かずの間に閉じ込められたんじゃないかって噂だった。段々思い出してきたぞ。そうだ、その行方不明になった生徒というのが、いじめられっ子だったんだ。それで、初めのうち、八角の間に残されてあった片方だけの靴はいたずらされたものだと思われていて、行方不明だとか大事には考えられていなかったんだ」
「開かずの間に閉じ込められたっていうのは?」
 体全体を耳のようにして、空は明彦の話に聞き入った。
「うん。その生徒は以前、体育館の倉庫に閉じ込められたことがあったらしいんだ。それで、体育館の倉庫をはじめとして、学園内のいろいろな場所を探し回ったけど、結局、見つからなかった」
「それで、結局、どうなったの?」
「行方不明のままだと思うよ」
「それより、宮内先生よ。パパの初恋だった?」
 それから、明彦と華は思い出話にひとしきり花を咲かせていた。
 高校生に戻ったような二人を眺めるかたわら、空は二十年前に行方不明になったきりだという生徒に思いを馳せていた。
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