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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第5章 消える人々

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消える人々(5)

「でも、海、私はやっぱり松戸先生が怪しいと思うの」
 空は八角の間に出現した幽霊の話をした。それから、目撃された幽霊というのは実は七美を襲った犯人ではないかという篤史の推理を披露した。
 海は幽霊すなわち犯人説に特に異論を唱えなかった。
「この間、松戸先生が休みだって伝えに来てくれた長谷部先生を、私、八角の間の幽霊だと思ってしまったの。八角の間には幽霊が出るっていう怪談があるから、そのせいだと思ったんだけど、それだけじゃなかった。あの日、長谷部先生は白衣を着てた。全体の人影が白っぽかったせいで、幽霊だって思いこんでしまったのね。松戸先生はいつも白衣を着ている。事件当日、幽霊だって思われてしまった人影は白衣姿の松戸先生だったのじゃないかしら……」
「白衣を着ている先生は松戸先生に限らないだろう? 保健医の野沢先生も白衣姿だし、理科主任で化学担当の長谷部先生をはじめとして、理系と数学系の先生たちは白衣を常に身につけている。美術の市川先生もスモックがわりに白衣を着ている」
「市川のは、あれは白衣とは言えないだろ。絵の具だか何だかで汚れまくってるし」
「そうだな……」
 陸に指摘され、海は珍しく素直に間違いを認めた。間違いを犯したのが悔しいのか、それを指摘したのが陸だったのが悔しいのか、海はしばらく黙り込んでしまった。
「確かに、松戸先生以外にも白衣を着ている先生はいるけど、七美の事件では松戸先生のアリバイはいまいちはっきりしていないのよ」
「職員室にいたって話だろ? 俺もそれは怪しいと思うな」
「白石先生と一緒にいたって言ってるけど、白石先生と松戸先生は不倫関係にあるから、松戸先生から職員室に一緒にいたって言ってくれって頼まれたら断れないと思うの」
 陸の援護射撃をうけ、空は調子づいた。
「職員室に忘れものを取りに行った市川先生と職員室の前で出くわした浅見さんも、松戸先生たちが職員室内にいた様子はなかったと言っている……」
 海はまるで自分に言い聞かせるように呟いた。
「松戸が犯人だっていうんなら、美術室の密室トリックだって簡単に仕掛けられたと思うぜ」
 目を輝かせながら、陸は鼻先をこすってみせた。
「美術部長から鍵を預かってキーボックスに戻すふりで実は手の中に隠し持っていた。美術室に津田沼校長を呼び出し、殺害。石膏像が落ちてきた事故にみせかけるため、現場を細工。地震はたまたま発生してラッキーだったってことで。んで、次に鍵を使って美術室を密室にする。翌日、死体が発見されてみんなが混乱している隙にそっとスーツのポケットに鍵を戻しておく。どうよ、俺の推理。まんざら外れてもいないと思うぜ。実際、俺が美術室のドアに体当たりくらわしてたら、すぐ下の生物室で授業してた松戸がうるさいって文句言いに来たからな」
「確か、松戸先生と二人がかりでドアを破ったのよね……」
 その後、遺体が発見され、ハチの巣をつついたような混乱が巻き起こっただろうとは空にも容易に想像できた。混乱に乗じて鍵を津田沼校長の死体に戻しておく。不可能ではない。それどころか、可能な話だった。
 陸の推理をどう思っているだろうかと海を見やると、腕を組んだ姿勢で真剣な顔つきである。否定しないところをみると、陸の推理は突拍子もないものでもないらしい。
「潔白だっていうんなら、警察から事情聴取に応じるように言われて逃げ出すわけはないだろ? やましいから逃げたのさ」
 足元のコンクリートを削るかのように陸は爪先を二度、三度とぶつけた。
「松戸先生、一体どこに行ったのかしら……」
「それを言うなら、今、どこにいるかだろ」
 いつ雨粒が落ちてきてもおかしくはない鈍色の空にむかって、陸は大きく左脚を蹴り上げた。



 数日後、今度は中等部一年の生徒が行方不明になった。
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