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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第1章 怪談のタネ

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怪談のタネ(3)

「どういうこと、海」
「八角の間に関する怪談はいくつもバリエーションがある。それらを個別の怪談としてカウントすると、学園の怪談は七つどころか、十以上あることになる。陸の知っている七つ目の怪談はどうせ八角の間の怪談のバリエーションじゃないのか」
「そうなの、陸?」
 空は陸を振り返った。無言なままなのは変わりないが、陸の口元はへの字に曲がっていた。
「なんだよ、せっかく空を怖がらせてやろうと思ったのに」
「なぁんだ」
 七つ目を知り損ねて残念に思うのと、知らないで済んでよかったという安堵の気持ちと半々だった。
「ねえ、陸が知っている“七つ目”の怪談ってどんな話?」
「ちえっ、七つ目じゃないってわかったとたん、これだもんな」
 口では文句を言いながら、陸の顔がほころんでいた。
「八角の間のさ――」
「やっぱり、八角の間のバリエーションなのね!」
 空は声をあげ、海をみやった。予想通りだと言わんばかりに海は眉ひとつ動かさない涼しい顔である。
「おい、人の話は最後まで聞けっての」
「ごめん。それで?」
 空は再び陸の方に向き直った。たちまち陸の機嫌がよくなった。
「八角の間に、イエスの肖像画が飾られているだろ」
「『ゲツセマネの祈り』。処刑前夜、神様にむかって祈りを捧げるイエス様を描いた絵ね。確か、両手をあわせたイエス様が天を仰いで祈っている横顔の肖像画よね」
 八角の間には互いに向き合う形で全部で四つの柱がある。柱の中腹部分はガラスを嵌め込んだ飾り棚になっていて、学園の歴史を物語る写真や聖書にまつわる絵画、文武両方の大会で生徒が獲得した優勝カップなどが収められている。
 『ゲツセマネの祈り』が飾られているのは知っているが、どの柱だったのかまでは空は思い出せなかった。旧校舎は八角の間を中心に左右対称の構造になっているため、八角の間に一歩足を踏み入れると、入ってきたところだったのか、出て行こうとしているところなのか判別がつかなくなることがある。だからか、毎日通り抜けて三年経った今も、柱の位置関係はぼんやりしている。
「その、『ゲツセマネの祈り』のイエス像が何だっていうの」
 空は陸をせかした。
「八角の間を通る時、誰かに見られているような気がしてふと振り返ったら、自分を追っているイエス像の視線と目があったっていう話」
 背筋が総毛だった。すがるような気持ちで海を見ると、海は呆れた表情をしていた。
 首筋に手をやると、空の指先が生暖かいものに触れた。
「陸!」
 蛭のように首筋を這う陸の手を引きはがし、空は陸を睨みつけた。
「ビビッただろ」
 はたかれた左手をひらひらさせながら、陸は舌を出してみせた。
「まさか、イエス像の話そのものも私を怖がらせるための創り話なんじゃ――」
「あたり!」
 片目をつぶってみせ、陸は両手を頭の後ろで組んで呑気に口笛を吹き始めた。
 静かに本を読んでいたい生徒たちが黙れと言わんばかりに睨みつけてきたが、陸はまったく意に介さないでいた。
 陸の無邪気さに、空は怒る気を失ってしまった。
「よく出来た話じゃない! 一瞬、本当にそんなことがありそうって思ったもん」
「あのイエス像の目つき、イっちゃってる感じがするしな」
「処刑される前の夜に、神様に助けてくださいってお祈りしているところだから、普通の精神状態ではなかったと思うけど」
「八角の間ってさ、なんか、変な感じしね? マジな話、俺、あそこを通るたびに誰かに見られているような気がすんだよね」
「陸も? 実は私もなの。八角の間って、ちょっと不思議な感じがする場所なのよね」
「八角形だからだろ」
 建物の中央に位置し、明かり取りの窓があるわけでもない八角の間は昼間でも薄暗い。時代を経て濃く変色した木の柱や床に光が吸い取られて、暗さに拍車がかかる。薄気味悪いだとか、奇妙な感じがするだとか、空と陸とが冗談めかして言い合っていると、海が水をさした。
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