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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第5章 消える人々

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消える人々(2)

 朝の礼拝後、講堂から戻ってくると、ほとんどの生徒が教室に居残っていた。一限目は生物で、その日は生物室で授業を受ける予定になっているというのに、誰も移動する気配がない。
「今日の生物の授業、生物室だよ。はやくいかないと遅刻扱いになるって」
 空はたまりかねて、おしゃべりに興じる生徒たちの輪に割って入った。
「知ってるって」
「知ってるなら、もう行かないと。松戸先生、遅れるとうるさいよ」
「わかってる。でも、私たち今日の生物はボイコットすることにしたの」
「ボイコットって……」
「生物室での授業なんて受けたくないもん。空、生物室には怪談の一つである骨格標本があるんだよ。そんな場所で授業を受けたら、呪われそうじゃない?」
 彼女たちは本気で呪い殺されるのを恐れているわけではなかった。信じているわけではないが、何となく気持ちが悪いという、この“何となく”がやっかいで、どんな理屈を並びたてて説得しても、彼女たちは頑として生物室へ行こうとはしないだろう。事実、怪談に見立てて三人の人間が死んでいる以上、彼女たちはどんな説明にも聞く耳もたないのは確実だ。
 好きにすればと、空はひとり、生物室へとむかった。
 生物室の前には、陸を含めたわずか数人の男子生徒がたむろしていた。見る限り、女子生徒はひとりもいなかった。
「まさか、今日の授業受けるの、私たちだけってこと?」
「らしいな。骨格標本の殺人鬼に殺されるかもしれないってんだろ? 俺ら、そんなこと気にしねえけどな」
 陸たちは声高らかに笑った。
「松戸先生は?」
「まだだぜ」
「珍しいわね、松戸先生が遅れるなんて」
 空は生物室のドアに手をかけた。ドアノブは手の中でじっと動かなかった。鍵を持った松戸が今もやってくるかと、空は職員室の方に顔を向けた。
 八角の間を貫いてまっすぐのびる廊下の先に職員室がある。見通しのいい廊下だから職員室を出た松戸の姿を見落とすわけはなかった。しかし、空が見たのは、八角の間を抜け、生物室にむかってくる白い影だった。
 空はとっさに陸の背後に身を隠した。
「何だよ」
「ゆ、幽霊、はっかく……」
「何?」
「幽霊、八角の間……」
「何言ってんだ? 長谷部だって」
 恐る恐る陸の背中から顔を出して八角の間を見やると、生物室にむかって理科主任の長谷部が歩いてくるところだった。八角の間で幽霊を見たなんて話を聞いたものだから、白衣姿の長谷部が幽霊に見えてしまったらしい。
「長谷部先生、化学実験室は新校舎ですって。ここは生物室。方向間違えたんですか」
 陸がからかうように言うと、長谷部は「校舎内で迷う奴がいるか」と陸に言って返した。
「松戸先生は今日は休みだ。教室に戻って自習しとけ」
 長谷部がそう言った途端、野太い歓声があがった。長谷部は「静かにだぞ」とたしなめた。加えて「教室で」と何度も繰り返し強調しつつ、長谷部は自分の授業があるのでと新校舎へと引き返していった。
 わかりましたと殊勝な返事をしていた陸たちだが、教室に戻る気はさらさらないとみえ、長谷部が新校舎側に渡りきるなり、廊下を駆けだした。
「どこいくの? 教室に戻るんじゃないの?」
「自習たって、やることねえし、マカベに行ってくるわ」
 マカベとは“真壁ベーカリー”という名のパン屋である。駅前にある店内はいつでも焼きたてのパンの香ばしい匂いで満ちている。種類も豊富で、そのどれもがおいしいので、近所の人間だけではなく、わざわざ遠くから買いにくる人間もいるほどだ。
「マカベにいくなら、コロッケパン買ってきて!」
 空は走り去ろうとする陸の背中に向かって叫んだ。陸はスピードは落とさず、わかったと手をあげてみせた。
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