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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第4章 嘆きのマリア

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嘆きのマリア(6)

「マリアの祠に行ってはいけませんか」
 陸が噛みつくと、松戸はまるで獲物を狙うフクロウのように大きな目をぎょろつかせ、
「どういう場所か知らないとは言わせないぞ」
「どういう場所なんです?」
 海が不思議そうな顔で尋ねた。
 驚いたのは松戸だけではなかった。陸と空は同時に海をみやったが、海は怪訝な顔で二人を見つめ返した。マリアの祠がどういう場所であるか、どうやら海は知らないとみえる。
「松戸先生こそ、テニス部の顧問でもないのに、どうしてテニスコートの周りをうろうろしているんですか」
「そ、それは……」
 陸に喧嘩腰に言い寄られ、松戸はしどろもどろになった。目が左右に泳ぎ、両手を入れたポケットがもぞもぞと動いていた。
「不審者が学園にいやしないか、見回っていたんだ。生徒が襲われたばかりだしな」
 吐き捨てるように言い、その場をそそくさと立ち去ろうとする松戸の背にむかって、海が尋ねた。
「松戸先生。相馬さんが襲われた時、どこにいましたか」
 振り向くことなく、松戸は足を止めた。顔が見えないので表情は読み取れないが、目は左右に泳いでいるのは確かだろう。白衣の腰のあたりがざわめいているのは、ポケットにつっこんだ両手を結んだり開いたりを繰り返しているからだ。
「どうしてそんなことを君に言わないといけないのかな」
 振り返った松戸は、体全体に殺気をまとわせていた。それでもひるむことなく、海はたたみかける。
「教育実習生に授業をまかせて、教室にはいなかったそうですけど」
「別に問題はないだろう? 少しの間、席を外していただけだ」
「少しの間? 生徒の話だと、教育実習期間中、実習生に授業をまかせきりで授業中ずっと教室にいないことが多かったとか。実習生の授業の様子を監督しているべきなのに、事件のあった日も、相馬さんが襲われるという非常事体が起こらなければ授業中ずっと席を外しているつもりだったんじゃありませんか」
「まるで私がサボっていたかのような言い方だね。いいか、御藏くん。教師にはいろいろとやらなければならないことがあるんだ。生徒にはわからないだろうけどね。あの日は職員室にいて、次の授業の準備をしていたんだ」
 威圧するかのように、松戸は薄い胸をはりだしてみせた。
「職員室にはひとりで?」
「証人なら、いる。白石先生だ」
「事件現場と職員室は近いですけど、何か変わった様子に気づきませんでしたか? 何か変わったことを見たとか、聞いたとか」
「気づいたとしても、そういう話は君じゃなく、警察にするよ」
 唇の端に皮肉な笑みを浮かべ、松戸は身をひるがえした。
「倒れている相馬さんを発見した生徒があげた叫び声を、職員室の前にいた浅見さんと市川先生が聞いています。職員室にいた松戸先生と白石先生も、叫び声を聞きましたか?」
「もちろん!」
 松戸は再び振り返った。
「何事かと外の様子を確認しようとはしなかったんですか? 事件現場からこれまた近い保健室にいた野沢先生は保健室から出てトイレへむかっています。そうして事件が発覚したわけですが」
「異常な事があったとはわかっていたよ。だからといって無暗に職員室を出て外の様子を確かめるのは無防備じゃないか? 犯人がそこらをうろついていたかもしれないんだ。野沢先生は第二の被害者にならずにすんで運がよかったんだ」
 唾をとばしながら、今にも海に噛みつきそうな勢いでまくしたてる松戸だが、その目は左右に激しく動いていた。
「それに、白石先生がひどく怖がってね。それで職員室から出られなかったんだ」
「そうですか。でも、変な話ですね」
 もはや嘘の上塗りの材料が尽きたか、松戸は陸に何も言い返せなかった。
「ああ、市川先生。ちょうどいいところに!」
 海は帰宅の途につこうとしていた市川を目ざとく見つけ、声をかけた。
「市川先生、相馬さんが襲われた日のことについてお聞きしたいんですが。先生はあの日、名簿を取りに職員室へ戻ったんですよね?」
「ああ、そうだよ。うっかりしていてね」
 市川は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「事務員の浅見さんの話だと、職員室前で叫び声を聞いたそうですが」
「ああ。それで何事かと浅見さんと様子を見に行ったんだ。そしたら……」
「職員室の前で叫び声が聞こえたのなら、職員室にいた人物にも聞こえたはずですよね」
「多分、そうだろうね」
 市川は怪訝な表情をしてみせた。
「御藏くん、一体何が知りたいのかね?」
「松戸先生は白石先生と二人で職員室にいたそうなんです。叫び声を聞いて様子を見に出てきてもよさそうなんですけど、浅見さんの話だと、松戸先生も白石先生も職員室からは出てこなかったとか」
「……そうだね。職員室には誰もいなかったようだったが」
 松戸を見る市川の目が猜疑心で満ちていた。
「異常者がいつ職員室に入ってくるとも限らないから、気配を殺していたんだ。僕はもう失礼するよ。君たちの探偵ごっこに付き合っている暇はないからな」
 ようやくのことでそれだけ言うと、松戸は足早に校舎へと戻っていった。相変わらず、白衣のポケットは膨らんだり、しぼんだりを繰り返していた。
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