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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第4章 嘆きのマリア

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嘆きのマリア(5)

 テニスコートの隅に、学園を取り囲む生垣に埋もれるようにしてコンクリートの小さな建物がある。高さ一メートルほど、かまくらのような形をしていて、生垣にむかって入り口が設けられている。中には記念礼拝堂のマリア像を模倣した小さなマリア像が祭られていることから“マリアの祠”と呼ばれている。
 校舎に背を向けている格好の“マリアの祠”は、学園内にいる人間の目も届きにくい。外からは生垣に守られた祠は、人の目を気にする恋人たちにとっては都合のいい場となっている。入り口こそ中腰で人一人が出入りできるほどの狭さだけだが、中は二、三人が中腰とはいえ歩きまわれるほどの広さがある。恋人たちが肩寄せ合うには十分だ。
 だから、生徒たちの間で“マリアの祠”へ行こうと言うと、ちょっと気恥ずかしいような、色っぽい誘惑を意味していた。
「マリアの祠に一緒に行ってくれないかな」
 なるべく自然なふりで、空は海を誘った。
 海は怪訝な顔をしてみせた。
 頬が赤らむのを感じながら空は慌てて聖歌がマリアの祠に呼び出されたらしいから調べたいと説明した。
「犯人は海の名前を騙ったみたいなの。聖歌のケータイに履歴が残ってた。海からだと思ったから聖歌は信用して学園にむかったのね……」
 海と聖歌の親しさがどれくらいだったのだろうと空は気になったが、そんな態度はおくびにも出さなかった。
「化学実験室での授業で教室に置いてきた僕のケータイを使って山下さんにメールを送ったんだろう」
 自分のケータイが殺人に利用されたと知って、海にしては珍しく不愉快な感情をあからさまに顔に出してみせた。
「山下さんは僕のケータイで呼び出されたんだっていうんだな。行ってやろうじゃないか、マリアの祠に!」

「空、海!」
 テニス部が練習しているテニスコートの周りを歩いてマリアの祠にむかっていると、陸が背後から追いかけてきた。サッカー部の練習中に空たちを見かけたとみえて、ジャージ姿で息を切らしていた。
「どこ行くんだ?」
「マリアの祠だよ」
 憮然とした表情で海がそう言ったとたん、陸の顔色が変わった。
「なんで?」
「山下さんが呼び出された場所だからだ。もしかしたら、犯人につながる手がかりが何かあるかもしれない」
「海、お前、犯人捜しはやめろって俺たちには言ってたじゃないか」
「犯人は僕のケータイを使って山下さんを呼び出したんだ。そんなことをされて黙っていられるか」
「ふうん」
 空から詳しく事情を説明してもらって、陸はようやく話の筋がのみこめたらしかった。それでもどこかで、海と空とが別の理由でマリアの祠に行こうとしているのではないかと疑っているらしく、探るような視線を海にむけたままで、
「俺もいく」
「サッカー部の練習はどうするんだ? 抜けてきたんだろ?」
「練習くらい、どうってことねえよ」
 陸は先頭に立って、マリアの祠へと向かい始めた。
 マリアの祠に近づくにつれ、空はわざと足を大きくあげて地面を踏み鳴らすかのようにして歩き、海と陸にむかって大きな声で話しかけた。足音や声に気づいた恋人たちが、空たちがたどりつく前にマリアの祠を抜け出せるよう、気を遣ったつもりだった。
 空の思った通り、祠では恋人たちが親密な時間を過ごしていたらしく、まるで兵隊のような歩き方で遅れをとる空を海と陸があきれて振り返ったすきに、祠のかげからさっと人影が走り出していった。
「空、なんなんだ、その歩き方は」
「えっと、最近運動不足だなあと思って――」
「右手右足同時にあげるのって、運動になんのか?」
 腰に両手をあて、陸は呆れかえっていた。そうしている間に恋人たちは祠を抜け出しただろうと、空は海と陸のもとに小走りでかけていった。
「おい、お前たち。まさか“マリアの祠”に行こうっていうんじゃないだろうな」
 両手に海と陸を抱えて歩き始めた空の目の前に立ちはだかったのは松戸だった。
 年は三十少し手前、細身で背が高い。なで肩なので細い首の長さが目立つ。化学教師らしく常に白衣姿で、この時も白衣をまとい、ポケットに両手を入れ、口元にはうっすらと含み笑いを浮かべていた。
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