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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第4章 嘆きのマリア

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嘆きのマリア(4)

「空ちゃんにもらって欲しいものがあるの」
 山下夫人はテーブルの上に桐の小箱を差し出した。
「聖歌が好きだった珊瑚の帯留めなの。あの子が二十歳になったらあげようと思っていたのだけれど……」
 促されて箱を開けると、花模様の帯留めが綿布団の上に鎮座していた。椿と薔薇をあしらった模様で、艶やかな桃色が華やかさを一層引き立てている。聖歌が母親に内緒で持ち出した帯留めとはこれだろうと、空は思った。手に取って身につけずにはいられない、そんなどこか悪魔めいた魅力のある帯留めだった。 
「そんな大事なもの、いただくわけには……」
「空ちゃんに使ってもらったら、あの子も喜ぶと思うの。だって、あの子はもう……」
 リビングの片隅に飾られた聖歌の写真に目をやり、山下夫人は涙ぐんだ。
「聖歌だと思って身につけてちょうだい。あの子の分まで、人生を楽しんでもらいたいの」
 泣きつかれてしまい、結局空は帯留めを使うと約束させられてしまった。
「そうそう、空ちゃん。海くんて子、よく知ってる?」
 たわいもない話をしながら、別れの挨拶のタイミングをうかがっていた時だった。山下夫人が思いがけず海の名前を口にした。
 いぶかしがりながら、空は幼なじみだと答えた。
「その海くんて男の子、聖歌とはだいぶ親しかったのかしら?」
 友人以上の関係だったかと山下夫人は暗に尋ねているらしかった。彼女がいるとは海の口から聞いたことはなかったが、彼女と呼ぶ人間がいてもおかしくはない。それが聖歌だったとして、あり得ない話ではない。そういう人がいたのなら言ってくれてもいいのに――胸に小さな疼きを感じながら、空は「さあ」と言葉を濁した。
「聖歌からも海からも何も聞いていませんけど。何か気になることでもあるんですか?」
「そうなの。実はね……」
 山下夫人はちょっと失礼するわと言って席をたち、数分後、携帯電話を片手に戻ってきた。
「聖歌がいなくなったその日なんだけれど、その海くんっていう子からメールが来ていたの」
 聖歌のママは、テーブルの上に携帯電話を置いた。警察から渡された聖歌の遺品にあったものだという。
「聖歌がそこにいるような気がして、メールを見返していたの。そうしたら……」
 携帯電話を操作し、山下夫人はメールの映しだされた画面を空に見せた。
「海くんから来たメールだけど、ちょっと変わっていると思わない?」
 空は画面に顔を近づけた。聖歌は海のメルアドを登録していたようで、差出人には「海くん」と表示されてあり、件名には「呪いを解くには」とあった。
「『マリアの祠、零時』とあるけれど、一体何のことなのかしら」
「チェーンメールです。学園で流行っているんです。いたずら心で送っただけだと思います」
 早口でとっさに思いついた嘘をまくしたて、空はそそくさと聖歌の家を後にした。
 あれほど外出を嫌がっていた聖歌が一人でそれも夜中近くに家を抜け出したこと、学園で発見されたことの謎がするりと解きほぐれていった。
 メールにあった「呪い」とは怪談の呪いを意味するのだろう。聖歌は怪談に呪われていると信じこんでいたから、呪いを解くと言われたなら、それが悪魔の手だろうとためらわずに取っただろう。実際に、メールは悪魔から送られたものだった。
 外出を拒んでいた聖歌は、おかげで犯人の魔の手から逃れられていた。目撃者である聖歌を亡きものにしようと企んでいた犯人は、忸怩たる思いでいただろう。そして、聖歌を家の外に出すには彼女が最も望むものを餌にするしかないと考え、呪いを解く方法といって聖歌をおびき出し、殺害した。
 メールは海から送られたものではない。聖歌を殺した犯人が送ったものだ。
 自分の推理に頭を熱くさせながら、空は興奮気味に小雨のふりしきる中、傘もささずに足早に駆けていった。
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