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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第4章 嘆きのマリア

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嘆きのマリア(3)

 デジャブだった。
 制服姿ですすり泣く生徒たち、遺族にむかって深々と頭を下げる学園関係者たち……。何もかもが七美の葬式を思い起こさせた。聖歌の遺影でさえ、七美を思い出させた。長い黒髪、花開かんとする蕾のような可憐な笑顔――仲のよかった聖歌と七美は姉妹のようによく似ていた。
「自殺なんかじゃないわ」
 聖歌の遺影を遠くに見つめながら、空は呟いた。
 親友の死にショックを受け、その後を追った覚悟の自殺だった、聖歌の死はそう片付けられた。七美が死んでからというもの聖歌が学園を休んでいたのは周知の事実だったから、誰も自殺という見方を疑わなかった。
 聖歌は首を鋭利な刃物で切って死んだ。技術家庭科室から持ってきたと思われる包丁は祭壇の足元に転がっているのが発見された。
 しかし、空は、聖歌は殺されたのだと考えていた。聖歌自身が殺されたのだと空に訴えていた。礼拝堂に足を踏み入れた瞬間に見た聖歌の死に顔が空はいまだに忘れられない。聖歌は当惑したような表情を浮かべていた。なぜ自分が死んだのか分からずに混乱している、そう言いたげな死に顔だった。
「聖歌が自殺なんかするはずがない」
 焼香の列に一緒に並んでいた生徒たちの何人かが空を振り返った。
「空、ここじゃなんだから」
 海にたしなめられ、陸に促されて、空は焼香の列を離れ、境内隅の燈篭の陰に身を寄せた。
 苔むす燈篭の足元からはひんやりとした空気がせりあがってくる。強く漂ってくる線香の香りも湿り気にかき消されてしまうとみえる。新鮮な空気を貪るかのように空は何度も深呼吸を繰り返した。
「聖歌が自殺なんかするはずはないの」
「まさか、お前まで怪談の呪いだって言い出すんじゃねえだろうな」
 陸の言う通り、聖歌の死に関しては奇妙な噂がたっていた。聖歌は怪談に呪い殺されたという噂だ。聖歌が死んでいた礼拝堂には血を流すマリア像の怪談が存在する。マリア像が聖歌の血を求めたため、聖歌は死んだのだと、生徒たちは口さがなく噂した。
 動く石膏像の怪談のある美術室での津田沼校長の事故死、トイレの紙さまがいると噂のトイレで襲われた七美、そして礼拝堂での聖歌の自殺。事故、他殺、自殺と、死因はそれぞれ異なるが、怪談にまつわる場で死んだという事実が怪談の呪いという噂に拍車をかけた。
 三人は怪談の禁忌にふれ、祟られたという噂はあっという間に学園中に広まった。退屈しのぎに面白半分に噂話をしている生徒たちを学園内のあちこちでみかける。焼香を待っている今も、時間つぶしにとばかり、聖歌の死に関してあれこれと言い立てている生徒たちの姿がどこかしらにあった。
 尾ひれのついた話もいろいろと耳に入ってくる。七美、聖歌と共に茶道部員だったため、茶道部員だと呪われるだとか、女子高生だと狙われるだとか、七美と聖歌とに共通していた点を取り上げ、次の犠牲者も長い黒髪の持ち主で、色白な人間が選ばれると言われている。
「聖歌は自殺したんじゃない。もちろん、怪談の呪いでもないわ。聖歌自身は怪談の呪いを怖がっていたけれど……」
 生きている聖歌に最後にあった時のことを空は思い出していた。七美はトイレの紙さまにトイレットペーパーを渡さなかった、だから呪い殺されたのだと聖歌は本気で信じていた。そして次は自分が殺されると怯えていた。死にたくないから学園に行かないと言っていた聖歌が自ら命を絶つはずがない。
 トイレの紙さまに会っただなんて、たまたま誰かがトイレにいたというオチだろうに、そう考えて、空はひっかるものを感じた。確か、七美もトイレの紙さまなんていないと言っていたと聖歌は言っていた。怪談そのものを作り話だと証明すると言って、聖歌を学園中のトイレに連れまわしたのだとも。そもそも、七美は何故そんな事をしたのか。
 聖歌が怪談に呪われたと信じていたからだ。何故、聖歌は怪談の呪いを信じるに至ったのか――。
「いってぇ!」
 陸が呻き声をあげた。聖歌が感じていた恐怖を受け取った空がとっさに隣にいた陸の腕を強くつかんだからだった。
「陸、聖歌はあの日、美術室のそばを通ったの!」
「何だよ、いきなり訳わかんねえこと言い出して」
「聖歌はあの日、美術室のそばを通った。そして動く石膏像を目撃したために呪われたと思い込んでいたの」
「はあ? 石膏像に呪われた?」
「空、あの日って何時のことだ?」
 薄暗がりにほのかに浮かび上がる海の顔色が血の気を失ってますます青白く見えた。
「津田沼校長が美術室で亡くなった日! 陸、小野さんが言っていたこと、覚えてる? ほら、ちょうど津田沼校長が亡くなったと思われる時間帯に学園に戻った生徒がいるって話。あの生徒が聖歌だったの!」
 忘れ物を取りに学園に引き返したという聖歌から聞いた話を、空はかいつまんで語った。
「津田沼校長が殺されたぐらいの時間に茶道室にいたということは、山下は犯人を見ていたかもしれねえのか。茶道室は美術室の目と鼻の先なんだし」
「私も陸と同じことを考えて、何か見なかったのって聞いた。聖歌は動いているアグリッパ像と目があったって言ってた」
「それって、もしかして、犯人が石膏像を床に落としていたところか、下手すると津田沼校長を襲っていたところだったんじゃないのか?」
 興奮した陸の声がうわずっていた。
「山下、犯人は見なかったのか?」
「私も気になって聞いたけど、他には何も見てないって……。走っていたから、地震にも気づかなかったって」
「そうか……」
 陸が落胆するのも無理はない。ひょっとしたら聖歌は犯人を目撃したのではないかと空も期待していたから、何も見ていないと聞いた時は我知らずのうちに深いため息をついて、逆に聖歌に心配されたくらいだった。
「山下さんは何も見なかったとしても、犯人が山下さんを目撃したとは考えられないか」
 海の冷静な分析に、空は眩暈のするほどの衝撃を覚え、思わず陸の腕にしがみついた。
「急いでいた山下さんを見て、犯人は犯行現場を目撃して逃げるところだと思ったとしてもおかしくない」
「……それで聖歌を殺した――」
 混乱したような表情を聖歌が浮かべていたのは、死ぬとは思ってもいなかったからだった。聖歌は自殺に見せかけて殺されたのだ。
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