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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第1章 怪談のタネ

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怪談のタネ(2)

「俺さ、七つ目の怪談知ってるぜ」
 涼しい顔で陸はさらりと言ってのけた。
「空は?」
 首を激しく横に振ってみせた空の怯えた表情に満足したかのように陸はニヤっと笑って、
「なんだ、知らねえの? 知っててわざと六つしか紹介しなかったのかと思ったぜ」
「怪談で学園案内をしようと思いついた時知っていた怪談は、骨格標本、八角の間、開かずの部屋、トイレの怪談の四つだけ。血を流すマリア像と美術室の動く石膏像の話は取材して知ったの」
「ははあ。さては取材しているうちに七つ知りそうになったんで怖くなって取材をやめたな」
 図星だった。七つ知ると死ぬという話を、空は中等部に入学したばかりの頃に聞いた。それ以来、怪談は出来るだけ聞かないようにしてきたが、部活の夏合宿や修学旅行の夜はどうしたってその手の話で盛り上がる。耳を塞いだはずの指の隙間からどうしたって聞こえてしまう。
「だって、ねえ……」
 空の目が宙を泳いだ。怪談を七つ知ると死ぬという噂を本気で信じていたわけではなかったが、いざ取材をはじめてみて、知っている怪談の数が増えていくにつれ、もしかしたらもしかするかもという恐怖が強くなっていった。
「陸は怖くないの? 七つ目の怪談を知ったら死ぬって話よ」
「空は信じているんだ、七つ目の怪談の呪い」
「信じているわけじゃないけど、なんかこう、気味が悪いっていうか――」
「怪談を七つ知ったからって死ぬわけねえって。それなら、俺、中一でとっくに死んでるって」
 オニキスのように真っ黒な陸の瞳がキラキラと輝いていた。
「サッカー部の先輩から、合宿の時に聞かされたんだ」
「ということは、サッカー部の人たちは全員、七つ目の怪談を知っているってこと?」
「そうじゃねえって」
 恐怖心より好奇心が勝った空にむかって、陸は首を横に振ってみせた。
「先輩たちが知っていたのは三つか四つ、多くても五つだけ。でも、全員が同じ怪談を知っているわけじゃない。いろんな先輩から聞かされて、あー聞いたことあるなって話もあれば、これは聞いたことねえなって話もあって、面白がっていたら、いつの間にか七つ知っていたんだ」
「そういうことか」
 空も陸と似たようなものだった。マスメディア部の先輩やクラスメートを中心に取材してくうちに知っている怪談の数が増えていった。ほとんど全員が知っていた怪談は、八角の間、骨格標本、トイレの紙さまの三つで、マリア像と石膏像の怪談はほんの数人しか知らなかった。共通していたのは、誰も七つは知らないということだった。

「七つ目の怪談、教えてやろうか」
 もったいぶった素ぶりの陸の視線が何だか艶めかしい。すぐに首を横に振って意思表示をしたつもりの空だったというのに、首を動かすまでにかかったほんのわずかな時間をついて陸は首を伸ばしてきて、上目づかいで空の顔を覗き込んだ。
「本当は空も七つ目が知りたいんじゃねえの?」
 言いたくて仕方ないという陸の気持ちが目の奥からジンジン伝わってくる。実は空も七つ目が知りたくてさっきから背中のあたりがウズウズしていた。隠したつもりでも、物心つかない前からの付き合いの陸には空の好奇心などお見通しだった。
「七つ目を知ったって死なないって。現に俺は死んでないわけだしさ」
 言いたくてしょうがない陸は、しかし自分からは言いたくはないらしい。空に「聞きたい」「教えて」と言わせてから話し出したいので、空がそう言い出すのを今か今かと待っている。そうなると空のほうでも何がなんでも言うものかと意固地な気になるが、かえって知りたい気持ちが強くなっていく。
「陸の知っている怪談が、知ると死ぬという七つ目の怪談だとは限らないだろ」
 空に「教えて」と言わせたい陸と、陸から話し出してもらいたい空。無言の睨み合いを続ける二人にむかって、海が冷静なひと言を浴びせかけた。
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