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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第3章 トイレの紙さま

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トイレの紙さま(10)

 事件以来、聖歌は学園を休んでいた。幼稚舎の頃からずっと一緒にいて人生の半分以上の時間を一緒に過ごしてきた仲の親友が殺されたのだから、ショックを受けて不登校になるのも無理もない。
 聖歌の様子が気がかりで、放課後、空は聖歌の家を訪ねた。
 もともと色白の聖歌だが、しばらくみないうちにさらに白みが増していた。もともと大きな瞳が今は眼窩に落ち込んで、顔に開いた大きな二つの穴のようにみえる。まるで生気を抜けとられたかのようで、呼吸する動き一つをとっても緩慢で、今にも掻き消えてしまいそうに弱々しかった。
「わざわざありがとう」
 まるで一トンの鉄でも扱うかのように、聖歌は授業で配られたプリントの束を机の上に置いた。
「学園に行かないといけないってわかってるの。体が覚えていて、毎日起きないといけない時間になると目が覚めるんだけど、制服を着た途端、まるで制服が何キロにも感じられて体が動かなくなっちゃうの」
「あんなことがあった後だもの。学園に行きたくなくなって当然よ」
「犯人はまだ捕まらないの?」
 そのまま二度と目を開けないのではないかと不安にかられるほど、聖歌はゆっくりと目を伏せた。
「この間、刑事がきて、事件のあった日のことについて、訊かれたわ」
「私たちもよ。全員、体育館に集められて、事件のあった時、どこにいたとか、何か変わった事を見たり聞いたりしなかったかって」
「七美について、いろいろ訊かれた――どんな子だったとか、七美を恨んでいるような人間はいるかだとか。七美は誰からも好かれていたわ。だから、七美は人に恨まれるような子じゃないって言ってやったの」
 聖歌の大きく見開かれた瞳には怯えが光っていた。
「……空。私、刑事には言わなかったけど、七美が死んだことと、津田沼校長が死んだこととは関係があると思っているの」
「関係があるって、どんな?」
 できるだけ平静を装い、空は尋ねた。
「二人とも、呪い殺されたのよ」
 冗談にしては性質が悪く、そして冗談を言っている聖歌の顔つきではなかった。
「美術室の動く石膏像の怪談は知ってるよね?」
「メルマガに書いたくらいだから」
「津田沼校長の事故が実は石膏像による殺人じゃないかって噂については?」
「聞いてる。だけど、石膏像が動くわけないじゃない。津田沼校長は、地震で倒れてきた石膏像に運悪く押しつぶされたのよ……」
 空はやんわりと呪いを否定してみせたが、津田沼校長の事故が殺人事件である可能性については口を閉ざしておいた。
「七美も空と同じことを言ったの。津田沼校長は事故死だった。怪談なんてただの作り話だって言って……。トイレの紙さまなんて存在しないっていって、私たち、学園中のトイレをチェックしてまわったの」
「なんでそんなことを?」
「呪いなんかで死なないって証明するためよ。私、津田沼校長が美術室で死んだちょうどその時、美術室の近くを通って――。津田沼校長が石膏像に殺されたのなら、次に呪い殺されるのは私かもしれないって言ったら、七美は呪いなんかあり得ないって……。でも、七美はトイレで死んだわ。七美はトイレの紙さまに呪い殺されたのよ」
 泣きじゃくりながら、聖歌はトイレの紙さまに出くわした話を語った。たまたま、個室に誰かが入っていて本当にトイレットペーパーがなくて手を出しただけなのだろうと思い、実際に空は口に出してそう言ったが、聖歌は納得しなかった。
「違う! 本当に紙さまが腕を出してきたのよ。血だってついていた。私はとっさにトイレットペーパーを渡したけど、七美は何もしなかった。だから紙さまに呪い殺されたんだわ」
 絵の具か何かだろうと考えた空だったが、自分の推理を口にはしなかった。今の聖歌には何をどう言っても無駄だろう。それよりも気になることがあった。
「津田沼校長が死んだ時、美術室の近くを通ったって、さっき言ったよね」
 泣きつかれた聖歌がようやく落ち着きを取り戻した頃、空はある期待をこめて尋ねた。
「あの日、茶道部の部活を終えて下校して、駅まで行ったところで、帯留めを忘れてきたって気がついたの。ママに内緒で持ち出したものだったから、どうしても取りに戻らなくちゃいけなくて、警備員の小野さんに頼んで学園に入れてもらったわ。走って茶道室まで行って……後で聞いたら、ちょうど津田沼校長が美術室で動く石膏像に襲われた頃だった……」
「何か見たの?」
 茶道室と美術室は近い。すっかり頭に入った学園の見取り図を思い浮かべながら、空は高まる動機を抑え、言葉をひねり出した。
「アグリッパ像と目があった……。白いものが目の端に見えたから何かと思ったら、アグリッパ像が美術室のドアの小窓をスッと横切っていったの。地震で棚から落ちたところだったんじゃないかって、七美は言ったわ。でも、そんな動きじゃなかった。あれは、意思をもって動いている――跳んでいるって動きだった……。私、あの時に怪談の呪いにかけられたの。七美が死んで、次に死ぬのはきっと私。そう思うと、怖くて学園に行けないの……」
「聖歌……他には何か見なかった?」
 取り乱した聖歌が落ち着くのを待って、空は尋ねた。
 しかし、聖歌は弱々しく首を横に振るだけだった。
「走っていて、地震にも気づかなかったくらいだから……」
 また遊びにくるからと言い、空は聖歌の家を後にした。それが生きている聖歌に会った最後になってしまった。
 数日後、聖歌は変わり果てた姿で発見された。
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