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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第3章 トイレの紙さま

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トイレの紙さま(8)

「そういえば、空ちゃん、確かマスメディア部だったわよね?」
 放課後、事務室を出て行こうとした空は、幸子に呼びとめられた。全クラスの時間割をもらいにいった帰りだった。
「はい、そうですけど」
「ホームページで変更してもらいたい箇所があるんだけど、お願いしてもいいかしら」
 学園のホームページはマスメディア部が管理している。とはいえ、部員たちの好き勝手にしていいわけではなく、内容についてはすべてチェックされるし、学園からのお知らせといった事務的な内容に関しては、事務員の幸子たちからデータを渡されて、部員が処理するという仕組みになっている。
「ホームページに学園の見取り図があるでしょ。あれを削除してもらいたいの」
 学園案内のページには新校舎と旧校舎の見取り図が掲載されている。授業参観、文化祭、入園説明会などで学園を訪れる人々のために、教室や講堂、トイレの場所が記された簡単なものだ。
「削除するだけなら簡単ですけど……顧問の宮島先生に許可取らないといけないんです」
「宮島先生になら、もう話はしてあるの。相馬さんの事件が起こってすぐにお願いしておいたんだけど、まだ削除されていないのよ。きっと忘れているんだと思うから、空ちゃんからも、浅見さんが削除してほしいって言ってましたって伝えておいてくれる?」
「そういうことなら……。でも、浅見さん、何で見取り図を削除したいんですか?」
 すると幸子は、空の他には誰もいないというのに聞かれまいとするかのように声を低くして
「相馬さんが襲われた事件。犯人は誰にも気づかれずに学園に侵入して、相馬さんを襲った後も誰にも見られないで逃げてしまったわけじゃない? いくら授業中で人気がなかったにしても、学園内を知らない人がうろついていたら誰かが気づくと思うの。にもかかわらず、目撃者がいないってことは、犯人は学園内の様子をよく知っていて死角になる場所を選んで移動していたってことにならないかしら。犯人はきっとホームページの見取り図を見て学園内の情報を得たんだと思うのよ」
 子どもが描いたような単純な線の見取り図だが、出入り口の位置が記されているのだから、それだけでも学園に侵入しようとする悪意のある人間には十分な情報といえるだろう。事件が起こる前だったら危険だから削除しろと言われても笑って済ませただろうが、実際に七美が襲われてみると、幸子の主張は理に適っていた。もっとも、犯人が外部の人間だとするならばの話で、海の推理では犯人は内部の人間なので、学園内の様子に詳しいのも無理はないのだが。
「警察の話によると、相馬さんに最後に会ったのはどうやら私みたいなの。相馬さんは私と別れた直後に襲われたらしいわ。もしかしたら襲われていたのは私だったのかもしれないと思うと……」
 恐怖に肩を震わせ、幸子は両腕をこすった。
「あの日、相馬さんに電話があったことを伝えにPC教室まで行ったの。携帯を教室に置いてきたから取りに行くと相馬さんは言っていて、私たちは昇降口近くの階段下で別れたわ。きっと、その直後に犯人に襲われたのね、かわいそうに……」
「誰からの電話だったんですか」
 高まる鼓動を抑え、平静を装って空は尋ねた。校則で授業中は携帯電話の電源を切っておかなければならず、緊急の用事の場合は、教室の外で使用することになっている。犯人がそのことを知っていたら、七美に携帯を使わせるようなメッセージを残せば、教室の外に呼び出すのは簡単だ。
「相馬さんのお母様よ。お祖父さまが危篤だとかで、相馬さんに至急家に連絡するように伝えてくれって頼まれたの」
「確かに、七美のお母様でしたか?」
「ええ。女性の声だったから、お母様でしょう。他に誰がいるっていうの?」
「……」
 犯人が七美の母親を騙った可能性は捨てきれない。しかし、それ以上は空は追及できなかった。
「電話があったのは何時頃なんですか?」
「一時十分過ぎぐらいだったと。ちょうど、本宮さんがお昼休みを取ろうとしていたところだったんだけど、事務室を開けるわけにはいかないから、彼女に事務室に残っていてもらって、私はPC教室にむかったの」
「七美とは、昇降口近くの階段下で別れたんですよね」
「ええ。一緒にPC教室を出てそこまで一緒に歩いていったわ」
「階段下で別れて、その直後に七美は襲われた……。浅見さんは何か変わったことを見たり、聞いたりしなかったんですか? 七美の叫び声とか」
 幸子は眉根を寄せて、首を横に振った。
「警察にも訊かれたけど、相馬さんと別れて職員用のトイレまで歩いていったけど、誰にも会わなかった。もちろん、犯人を見てもいないし、相馬さんが襲われた時の叫び声なんかも聞いていないわ。叫び声をあげる間もなかったのかもしれないわね……」
「職員用のトイレ?」
「ええ。昇降口近くのおトイレに寄らなくて、よかったわ」
 眉間に寄せた幸子の皺はますます深くなった。
「トイレから出てきたら、職員室の前で市川先生に出くわしたわ」
 職員用トイレは職員室の向かいにあり、事務室からそうは離れていない。
「名簿を忘れたので取りに来たんだとかそんな話をしていたら、ものすごい叫び声が聞こえてきて、すごく驚いたの。トイレに行った生徒が倒れていた相馬さんを発見した時にあげた叫び声だったのね。でも、その時は何が起こったかわからなくて、とにかく何事かと叫び声の聞こえてきた方向へむかったわ」
「ひとりでですか?」
「いいえ、市川先生と二人ででよ。よく考えたら、まだ犯人が近くをうろうろしていたかもしれなかったのに危険だったわよね。でもその時はまさか相馬さんが殺されていたなんて思ってもみなかったから……」
 空の耳の底で救急車のサイレンが蘇った。
「トイレで倒れている相馬さんを発見して驚いていたら、富岡校長と保健医の野沢先生が来たの。私たちと同じで、叫び声を聞いて何事かと思ったのね。野沢先生は血だらけの相馬さんを発見して気分が悪くなった生徒を保健室に連れていったわ。市川先生は『美術室に生徒だけにしてきた』って廊下を走っていって。富岡校長と私とは慌てて事務室に戻って、急いで校内放送を流したの」
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