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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第3章 トイレの紙さま

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トイレの紙さま(7)

「海!」
 海の背中目がけて声を投げかけても、海は振り返りもせず、ひたすら前を向いて歩き続けていた。
 空はスピードをあげた。体育館にやってくる生徒たちの人並みをかきわけ、やっと追いついた海の腕を引くと、海は幽霊にでも出会ったかのように驚いてみせた。
「空か」
「何度も呼んだのに」
「悪い、考え事をしてたから」
「考え事って、七美の事件のこと?」
「まあ、ね……」
 ポケットに両手を突っ込んだままの海の腕に絡みつきながら、空は体育館を出た。
「刑事と話をしたわ。警察は七美が狙われて殺されたと考えているみたい」
「そうみたいだね。僕も、相馬さんが殺されるようなことに心当たりはないかと聞かれたから」
「海も?」
「ああ。授業中に教室を抜け出した生徒はいなかったかって、しつこく訊かれたよ」
「それって、生徒の誰かが七美を殺したんじゃないかって警察は疑っているってこと?」
「授業中の学園内には人気がない。教室の外にさえおびき出してしまえば、誰に目撃されることなく相馬さんを襲えたんだ。現に、目撃者は今のところひとりもいないようだし、事情聴取を続けたところで出てくるとも思えない。だって、生徒も先生たちも教室にいたんだから」
「でも、生徒も先生たちも授業で教室にいたというのなら、生徒が犯人であるはずがないでしょ」
「それが犯人の狙いなんだろう。授業中なら教室にいるのが当たり前だとみんな思っている。もし、誰にも気づかれずに教室を抜け出すことができたら、アリバイは完璧といっていい」
「誰にも気づかれずに教室を抜け出す……そんなことができるかしら」
「授業中に誰が教室にいるかなんて、いちいち確認していないだろう? そこが盲点なのさ」
 海の言う通りだった。あらためて事件のあった日、教室に誰がいたかを思い出そうとした空だったが、誰と誰とがいたとはっきりとは覚えていなかった。全員いたはずだとしか言えないのだ。校内放送が入った直後、教室は混乱の渦に巻き込まれた。その間にこっそり教室に戻ってきた生徒がいたとしても、誰も気づかなかっただろう。
「七美は狙われて殺された……」
 空が急に足を止めたので、歩き続けようとした海の腕がポケットから抜け落ちた。すれ違った生徒の何人かが空たちを振り返って怪訝な顔をしてみせた。余程、空は奇妙な顔をしていたらしい。
「空、ここじゃなんだから……」
 海は空の腕を取り、体育館から新校舎へと続く渡り廊下を足早に駆け抜けた。
 教室には戻らず、空たちは校庭の隅へとむかった。走ってきたわけでもないのに、校庭の隅に佇む鉄棒に寄りかかった時には、空も海も荒い息でしばらく口がきけないでいた。
「刑事に、あの日、事件の起こった時間にどこで何していたか、いろいろ訊かれただろ?」
「うん。午後の一限目の授業が始まったばかりだったのよね。英語の授業で教室にいたって言ったら、叫び声のようなものを聞かなかったかって訊かれた。七美が襲われたのは新校舎一階のトイレで、私が授業を受けていた教室は二階だから、何か聞いてないかと思ったみたい」
「それで、聞いたのか?」
 伏し目がちに空は首を横に振った。
「お昼食べたばかりで眠くなっちゃって……。パトカーのサイレンで目が覚めたくらいだから」
 海の表情が和らいだのは一瞬で、すぐにまた険しい顔つきに戻ってしまった。
「僕は美術室で美術の授業だったんだ」
「美術の授業って、自由な感じだものね。みんな勝手に好きなことしているし。それで、刑事に、教室を抜け出した生徒がいるかって訊かれたのね」
 水彩、油絵、デッサンなど課題を与えられてはいるものの、人によって進み具合が異なるものだから、さっさと課題を済ませてしまった生徒の中には、別の教科の勉強をしたり、マンガを読んでいる生徒もいる。市川先生は自分も絵を描いたりしていて、目が届かないものだから生徒たちはしたい放題なのだ。
「でも、さすがに市川先生だって、勝手に教室を出て行こうとする生徒がいたら気がつくし、注意するでしょ?」
「どうだろう。トイレに行くんだろうぐらいに思って何も言わないんじゃないかな」
 苦笑いを浮かべてみせた海に、空は反論できなかった。創作に没頭している時の市川は心ここにあらずといった感じになってしまうのだ。
「そもそも、市川先生は美術室にはいなかったんだ」
 海はさらりと言ってのけた。
「授業が始まって十分ぐらいした時だったかな、職員室に名簿を忘れてきたので取ってくると言って市川先生は美術室を出て行ったんだ。事件が発生して、市川先生が慌てて戻ってくるまでの間、美術室のドアは開けっ放しだったんだ……」
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