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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第3章 トイレの紙さま

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トイレの紙さま(6)

「私と同じクラスで、叫び声を聞いた生徒がいるんですか?」
 安達の気のゆるんだ隙をとらえ、空は尋ねた。警察の事情聴取と聞いて、それなら逆に情報を収集してやろうと企んだ空は、事情聴取に素直に応じるふりで、自分が質問する隙をずっとうかがっていたのだった。
「今のところは誰もいないけど、誰か何か聞いたという生徒がいたら、教えてくれると助かるよ」
「はい、もし何か知っている子がいたら刑事さんにお知らせします。あの、それで、目撃者とかいないんですか? 七美は学園内で襲われたんですよね? いくら授業中で教室の外には誰もいなかったとしても、誰か何か見ていそうな気がするんですけど」
「今のところは目撃者という人物はいないけど、犯人ではないにしろ、何かを見ている人間はいるだろうと思っているよ。ただし、見た人間はそれが事件と関係があるとは思っていないだろうね。だから、こうしてみなさんに話を聞いて、何でもいいから思い出してもらっているんだ。どんなつまらないことでも、もしかしたら事件と関係あることがあるかもしれないからね」
「ああ、それで、おもしろくもない私たちの学園生活の話をきいているんですね」
「おもしろくもない、か。まあ、そうだね」
 苦笑いをかみ殺し、安達は剛毛のくせ毛をしきりに撫でつけた。
「刑事って、もっと刺激的な職業なのかと思ってましたけど、ひたすら人の話を聞くだけだなんて、案外地味な仕事をしているんですね」
「参ったね。まあ、犯人を取り押さえたり、カーチェイスだとかそういう派手なことはテレビや映画の世界の話でね。実際は地道に人の話を聞いて情報をひたすら集めるのが仕事のようなもんだよ。話のうまい人ばかりとは限らないし、ゴミみたいな情報のかたまりから重要な情報をさがしだすのは一苦労なんだ」
「あーわかります、その気持ち。私、マスメディア部で、生徒や先生にインタビューをする時なんか、相手が話上手とは限らなくて、後で記事にする時に困るんです。何かいっぱいしゃべってくれたけど、実がないなーっていう」
 何がそんなにおかしかったのか、突然、安達は涙がにじみ出るほどの勢いで笑い出した。
「実がないか。こりゃいい。声がでかい奴の話ほど中身はすっからかんってことも多いしな」
 独り言のように言って、安達は腹を抱えて笑った。思い当たる人物がいるので余計におかしいといった感じだった。
 空は津田沼校長を思い出していた。津田沼校長も声が大きく、何だかいろいろしゃべる人間だったが、中身はうすっぺらだった。
「あの、事情聴取はもう終わりですか」
 いくら何でも笑い過ぎだと空がむっとしていると、安達は目尻をぬぐいながら首を横に振った。
「君は亡くなった生徒と同じ学年だけど、その子とは親しかったのかな?」
「仲は良かった方だと思います。学園はエスカレーター式で、幼稚舎で入ってきて、初等部、中等部、高等部、長くて大学までの付き合いになるし。中等部では入試で入ってくる生徒もいますけど、七美とは幼稚舎からの知りあいだから」
「そう。それで、相馬七美さんて、どんな子だった?」
 最初の頃に比べれば人間味のある訊き方になったとはいえ、やはり安達は刑事に違いなかった。
「どんな子だったって……」
 あらためて聞かれると返事に困ってしまった空だった。
「普通の女子高生でした、としか。七美のことなら私より聖歌に聞いてください。すごく仲が良かったから」
「サヤカ?」
 口の中でつぶやきながら、安達はメモを取っていた。
「山下聖歌。サヤカは聖なる歌と書きます。私と同じグラスの子です。七美が死んだのがショックで、事件の日以来、学校を休んでますけど」
「その子にも話を聞くとして。君の知っている範囲でいいんだが、相馬七美さんがいじめられていたとか、逆にいじめる側だったとか、何か知っているかな。誰かに恨みを買われるようなことをしただとか」
 聞き慣れたセリフだった。ただし、映画かテレビ、小説といった虚構の世界で聞いたことがあるだけで、目の前の鋭い探るような安達の視線は初めて体験するものだった。
「いじめとか恨みを買うだとか、そんなこと……」
 空は膝の上で両手をぐっと握りしめた。
「刑事さん、一体何が知りたいんですか? 恨みを買っていたかって、まるで……まるで七美が狙われて殺されたような言い方じゃ……」
「殺されるような理由が被害者にはあったのかな?」
 あたかも逃亡者を探しあてようとするサーチライトのように、安達の目は空をじっと見据えていた。しかし、空が嘘をついている様子がないとわかると、安達はあっけなくスイッチを消し、少し間の抜けた感じのする中年男の顔に戻ってしまった。
「七美は狙われて殺された、警察はそう思っているんですか?」
 今度は空がサーチライトで安達を探る番だった。
「あらゆる可能性を否定せずに、捜査しているだけの話だよ。だから何か思い出したことがあったら、いつでも警察に連絡してください」
 急に事務的な口調に戻り、安達は連絡先を記した名刺を差し出した。
 不幸な事件だとばかり思っていたものが意図的な殺人事件となると話は変わってくる。犯人の目星はついているのだろうかだとか、もっと情報を聞き出したいと居座る空を横目に安達は次の生徒に来るように手招きをした。
 後ろ髪ひかれる思いで空は席を立った。ちょうど、斜めの机で事情聴取を受けていた海も席を立ったところで、空は急いで後を追った。
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