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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第3章 トイレの紙さま

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トイレの紙さま(5)

翌日、七美が襲われた日について警察が生徒から話を聞きたがっているというので、全校生徒を体育館に呼び出しての聞き取り調査が行われた。
 体育館内に机と椅子とが置かれ、刑事たちが生徒の話を聞きながらしきりとメモを取っている。生徒たちは一列に並び、空いた席から順に進んでいく。
 手招かれ、空が着いた席の刑事は安達と名乗った。年は三十代後半、剛毛の天然パーマで、まるで鳥の巣を戴いているかのようである。
「事件あった日のことを朝から順を追って話してもらえますか」
 空の名前と学年、クラスを聞いた後、安達は抑揚のない調子で言った。すでに何十人もの生徒に同じ質問をし、返ってくる答えも似たり寄ったりなのだろう。メモを取るまでもないと言わんばかりに安達は机の上に片肘をついて、欠伸をかみ殺した。
「あの日は――」
 いつもと同じ一日だった。月曜日から金曜日まで、判で押したように同じ日が続く。決まった時間の電車に乗り、毎日ほぼ同じ時間に正門をぐぐって警備員の小野に挨拶をする。まさか友達が殺されるだなんて考えもしなかった一日だった。週末を楽しく過ごしてまた月曜日から学園生活が始まる。いつもと変わらぬ未来を少し退屈に思いながらも、その未来を疑ってもみなかった。
「何か変わったことは? 学園の周りを不審な人物がうろついていたとか?」
 これも定型文句なのだろう、安達は早口に言い進め、語尾は欠伸で聞き取れなかった。聞き取れたとしても、空の返事は変わらなかっただろう。空は黙って首を横に振り、安達は思った通りだといわんばかりにため息をこぼした。
「では、金曜日の午後一時から一時半までの間、どこにいましたか?」
「アリバイですか? 私、犯人だと思われているんですか?」
 思わずはしゃいだ声をあげ、空はとっさに口を塞いだ。
 期待していた応えとは違うものが返ってきたので眠気が一気に吹き飛んだのか、安達は目を見開いていた。
「皆さんにうかがっているんです。事件のあった時刻に誰がどこにいたのかを確認しておく必要があるので」
 安達はようやくペンを回す手を止めた。
「七美は一時から一時半の間に殺されたんですか?」
 空の質問には答えず、安達は手帳の上にペンを持った手を置き、自分の質問に対する空の返答を待っていた。
「一時から一時半なら――午後一限目の授業中でした」
「何の授業ですか?」
「英語です」
「というと、担当は――」
「白石先生ですけど、その日は教育実習生の大塚先生が授業をしてました。白石先生は教室にはいなくて、校内放送がかかった頃に戻ってきました」
「ああ、職員室にいたとかいう先生だね。それで、英語の授業を受けていた教室は?」
「一年B組の教室です」
「高等部一年の教室というと……」
 かたわらにあった学園の見取り図を引き寄せ、安達は空のいった教室の場所を確認していた。
「叫び声のようなものが聞こえませんでしたか?」
 音は下のものが上へと響く。七美が襲われたのは新校舎一階のトイレ、空がいたのは二階とあって、わずかな望みをかけただろう安達が尋ねた。
「いいえ、何も。授業が始まってすぐ眠くなって、たぶん、居眠りしてたと思うから……」
「昼飯の後の授業は辛いもんがあるからね」
 まるで自分の高校時代を思い出したのか安達は苦笑いを浮かべて鳥の巣頭を掻いた。それまで決まりきったフレーズしか口にしなかった尋問ロボットのようだった安達が人間性を垣間見せた瞬間だった。
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