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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第1章 怪談のタネ

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怪談のタネ(1)

「怪談で学園案内か。空にしちゃあ、面白いこと考えたじゃないか」
「でしょ? 四月のメルマガは新入生歓迎の内容と決まっているんだけど、さすがに毎年毎年『入学おめでとうございます』『学園へようこそ』と言い続けてきてマンネリ化もいいところ、かといって他にネタがあるわけでもなくて、学園に伝わる怪談を紹介することにしたの」
 目を輝かせながらメルマガを読んでいる御藏陸の反応は星野空の予想通りだった。この春から高校生になったというのに、いまだに小学生のようなバカバカしい言動を繰り返してばかりの陸なら、きっと面白がって読むだろうと思っていた。
 海はどうだろう――空は学園の図書室のコンピュータに釘づけになっている陸の肩越しに御藏海の横顔を見やった。
 陸とまったく同じ三日月形の耳、同じ傾斜角の鼻。まるで鏡にうつった陸の右側の顔を見ているかのような海の横顔はしかし笑っていなかった。
 画面に顔を埋めんばかりにしてメルマガを読む陸と同じ姿勢でコンピュータスクリーンに向き合っている海が読んでいるのは英語のウェブサイトだ。スクリーンに向かう姿勢を一ミリも崩さすに海は
「怪談で学園案内なんて記事、よく宮島先生が許可したね」と言った。
 宮島は月に一度配信のメルマガを発行しているマスメディア部の顧問だ。中等部入部以来、空はマスメディア部に所属して今年で4年目、高等部一年に進級し、ある程度重要な仕事を任されるようになっていた。
「宮島先生も面白がってるの。うちの学園は、いわゆるお嬢様、お坊ちゃま学校じゃない? いい子ちゃんばかりでつまらない。せめてマスメディア部ぐらい、尖っていてもいいって」
「校長はそうは思わないだろうな。宮島、今頃、校長にしぼられているんじゃね?」
 背の高い宮島が縮こまるようにして叱られているのを想像してか、陸はくっくと喉を鳴らした。
 顧問になって二年目の宮島は、まるで広報のようなお行儀のいいものではなく、学園の闇を暴くぐらいの気概で記事を書けと部員たちをたきつける。三十過ぎていまだ血気盛んで、ナマケモノのような外見とは裏腹の熱い気持ちの持ち主だ。
 たかだか学園新聞のウェブ版ともいえるメルマガに正義とか真実とか言うのは大げさだとしても、宮島に影響された部員の一人が去年の文化祭のレポートにちょっとスキャンダラスな内容の記事を書いた。当初とは違うゲストが招かれたのは、そのゲストの所属する芸能事務所の社長が生徒の父親だからだというもので、生徒たちは面白がっていたが、津田沼校長の気には障ったらしい。宮島を怒鳴りつける声は校長室の外の廊下にまで漏れていたというもっぱらの噂だ。
 怪談で学園案内という記事は、津田沼校長はきっと気にくわないだろうから、宮島はまたしても呼び出されて怒鳴られるのかと思うと、記事を書いた本人として空はほんの少し心を傷めた。
「他人事だから陸はそんな風に笑えるの。記事を書いたのは私なのよ。私のせいで宮島先生が怒られるのかと思うと、わたしは陸みたいに笑えない」
「だって他人事だもん」
 鼻柱に皺を寄せた陸の笑顔はソフトクリームみたいだ。人のお弁当を勝手に食べたり、プールの授業中に水中で足を引っ張って驚かせたり、カバンにヘビだのクモだのといったゴム製のおもちゃを入れたり、そんな時に絶対に浮かべている笑顔。いたずらは他にも数えきれないほどされてきているけれど、くしゅっとした笑顔に空はつい陸を赦してしまう。 
 親同士が学園の卒業生、偶然生まれた日も同じ、同じ病院で生まれた空と、御藏海・陸の双子とは生まれた瞬間からの付き合いといってもよく、もう十六年にもなる。いたずらは聖パトリック学園幼稚舎に入ったその日から始まって、高等部に進級した今も一向におさまる気配はない。もう十年近く、陸はくしゅっとした笑顔を浮かべるだけで、ごめんと謝ったためしがない。
 小さい頃は海も一緒になって空をからかったり、いたずらを仕掛けたりして、二人して同じくしゅっとした笑顔を浮かべてシンメトリーな光景がくりひろげられていたが、いつからか海は笑わなくなって、空をからかうこともいたずらもやめてしまった。たぶん小学部高学年ぐらい、それまでショートヘアだった空が髪を伸ばしはじめた頃からだ。
 それまで互いに入れ替わっては空や先生たちを混乱させて喜んでいたのに、ぴたっとやめたのも同じ頃だ。
 陸に間違えられるのが嫌になったのか、中等部に進学したら、海は伊達メガネをかけるようになった。太い黒縁のメガネをかけるようになってから、誰も陸と海とを間違えなくなった。
 それでも時々は入れ替わってはいるらしい。陸が海の伊達メガネをかけているのを、海がメガネを外して陸のふりで授業に出ていたりするのをたまに見かける。他の人は騙せても、空には見分けがついた。本人たちも知らない二人のほんのちょっとした違いを空だけが知っている。
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