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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第2章 女神の死の抱擁

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女神の死の抱擁(11)

「死んだ人を悪く言うのは悪いことだと思うけど……津田沼校長って相当嫌われていたのね」
 奈穂から聞いた津田沼校長の話は大体が玲子から聞いたものと同じだった。秘書らしく、奈穂は言葉を選んで津田沼校長をあしざまに言うようなことはなかったが、言葉の端々から嫌悪感だけは十分に伝わってきた。
「悲しんでいる人が誰もいないの。先生たちも生徒も口に出しては言わないけど、津田沼校長が死んでよかったと思ってる。そういう空気があるの。なんだか、みんなが容疑者にみえてきた」
「嫌いだからって殺すとは限らないだろ。そんなことしてたら、俺なんか大量殺人犯だぜ」
 ソファーに仰向けに寝転がってマンガ雑誌を読んでいた陸は、両足をバタつかせて笑った。
 梅雨が本格化し、朝から雨が降り続いて、サッカー部の練習が中止になったものだから、陸はマスメディア部の部室であるPC教室の準備室で油を売っていた。陸が部室に入り浸っていても、気にとめる部員は誰もいない。部員は全部で十五人だが、部活動や校外イベンドなどの取材で全員がそろうことは滅多になく、PC教室にいる部員はコンピュータにかじりついて記事を書いている。記事はホームページや壁新聞用のもので、ソーシャルメディアを使用しての情報発信もマスメディア部の部員が行っている。陸にかまっていられるほど暇ではないし、空も、富岡の校長就任の記事を書くのに忙しい。奈穂からもらった富岡新校長のプロフィールは紙に印刷された形でしかなくて、メルマガに載せるために打ち直ししているところなのだ。
「嫌いというだけでは殺さないとしても、その人さえいなければ、という思いは人を殺す強い動機になりうるのじゃないかな?」
 空はコンピュータスクリーンにうつる文章をじっと見つめていた。奈穂からデータとしてもらった挨拶文は学園と生徒のために尽力していくといった型通りの内容だが、どこか浮ついた感じがするのだ。奈穂と立ち話をしていた時に、ちょうど校長室へとやってきた富岡が見たこともないほど明るく振る舞っていて、二十歳は若い四十代ぐらいの中年男性にみえたせいかもしれない。シャツもネクタイも、それまでみたことのないような若向きのデザインのものだった。
「空は富岡新校長を疑ってんのか?」
「憎しみのために人を殺すのはためらうかもしれないとしても、自分の利益のためならリスクをおかしてもと思うのじゃない?」
「校長の椅子がそんなにも欲しいものなのかね?」
「わからないけど、会社でいったら社長のようなものでしょ」
「権力志向の強い人間だっていうんならな」
 ようやく陸はマンガ雑誌から顔をあげた。
「仮に、富岡教頭が津田沼校長を殺したとして、何で美術室で、なんだ?」
 空も同じ疑問を持っていた。
「学園内で殺したら、学園関係者が真っ先に疑われるだろ? 事故に見せかけていたにしてもさ。同じ事故に見せかけるんだったら、学園の外で殺して細工するんだけどな」
「私もそうすると思う。でも美術室でなければならなかった理由が一つだけ考えられると思うの」
 マンガ雑誌をパタンと閉じ、陸はソファーの上に居ずまいを正した。やっと空の話をまともに聞く気になったらしい。
「美術室の動く石膏像の怪談よ。犯人は、怪談を利用しようと思いついた。石膏像を凶器にして、さも石膏像が動いて殺人を犯したかのようにみせかける。実際、石膏像が津田沼校長を殺したって噂している生徒だっているわ」
「海には聞かせられない話だな」
「いいえ、逆よ。海に聞かせたい話だわ!」
 椅子を回転させ、空は陸にむきなおった。互いの膝頭がぶつかりそうになり、陸はソファーの上に乗ってあぐらをかいた。
「海の話、覚えてる? 火のないところに煙はたたない、怪談・奇談は論理的に解説できるって話。犯人は、石膏像があたかも動いたかのようにみせかけた殺し方をした。石膏像が動くわけはない。石膏像におしつぶされているという現象の論理的な説明は、保管が悪かったために倒れてしまったということになるのじゃない? 誰も殺人という意図を疑わないわ。それより、“事故”のほうが論理的だもの」
 空がまくしたてている間、陸はあぐらをかいた膝の上で両手を組み、顎を乗せて話に聞き入っていた。真剣な顔をしている時の陸は海にそっくりで、空はまるで海にむかって話しているような錯覚に陥り、途中から緊張で手に汗がにじみ始めていた。
「空、何だか、海みたいだな」
 海と同じ顔の陸がそう言って笑った。どことなく寂しげな陸の笑顔だった。
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