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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第2章 女神の死の抱擁

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女神の死の抱擁(8)

「美術室の鍵?」
 海のふりをした陸にむかって、美術部長の石橋舞は眉をひそめてみせた。先輩たちに一目置かれている海に化けた方が何かと都合がいいからと伊達メガネで変装した陸と空は、高等部三年の教室を訪れ、美術部長を教室の外に呼び出した。事件前日の部活の様子などを尋ねた空にはいい顔をしなかった舞だが、海に化けた陸には愛想がよかった。
「事務室のキーボックスに戻したけど?」
「でも、なかったって。僕のクラス、美術の授業だったんだけど、市川先生が鍵がないって探し回ってました」
「そうだ、海くんが第一発見者なのよね」
 正確には海と入れ替わっていた陸なのだが、海が校長の死体を発見したことは学園中の生徒に知れわたっていた。舞はあきらかにその時の様子を訊きたがっていたが、相手が海とあって、遠慮しているようだった。学園一の天才として一目置かれている海にむかって、ワイドショーのリポーターのように根掘り葉掘り聞くのは気がひけるらしい。
「あの日、お昼休みが終わる少し前だったと思うけど、市川先生が教室まで来て、美術室の鍵はどうしたって訊かれたの。松戸先生にお願いして事務室のキーボックスに戻してもらったって言ったんだけど」
「松戸先生?」
 美術とはまるで関係のない生物を教えている松戸の名前を聞いて、空と陸は顔を見合わせた。
「ええ。授業もそうだけど、部活の時も美術室の開け閉めは市川先生がしてくれるの。でも、事件の前の日は市川先生は早退したとかで、戸締りは部長の私がしたの」
「校長が市川先生のかわりに美術部の部活を監督するって言ったらしいけど?」
「まさか、校長先生が部活の監督なんかするわけないし。口だけでしょ。本当に来られても嫌だし」
 舞は誰はばかることなく嫌悪感をあらわにした。美術部は女子部員の数が圧倒的に多い。実の父親でさえうっとおしく感じる年頃だから、他人のしかも父親より年かさの校長を煙たがるのも無理はなかった。
「市川先生は早退しちゃってたから、部活を始める前には事務員の浅見さんにお願いして鍵をもらって美術室を開けて。部活が終わったから返そうと思ったら、事務室は五時で閉まっていて。困っていたら、ちょうど松戸先生が通りかかったから、お願いして鍵を事務室に返してもらったってわけ」
「でも、事務室のキーボックスに鍵はなかった」
「変な話よね。確かに松戸先生にお願いしたのに」
「校長じゃなくて?」
「それは絶対にない」
 舞はきっぱりと言い切った。仮に事務室の前を通りかかったのが校長だったとしても、舞は鍵を戻してくれとは頼まなかっただろう。校長と口をきくのも嫌、それなら自宅へ鍵を持ち帰る、そう言わんばかりの校長への拒絶が垣間見えた。
「でも、鍵は校長がもっていたって」
 校長のスーツのポケットに入っていたと陸が説明すると、舞は首を傾げて
「なら、松戸先生が返した後、校長先生がまた使って美術室に入ったとか、そういうことじゃないの?」
「石膏像がちゃんと棚の上に戻されているかどうか確かめるために?」
 陸の質問には何の意図もなかったのに、その裏に別の意味を感じ取ったのか、舞はしかめっつらをしてみせた。
「石膏像が落ちてたから、私たちがちゃんと安全な場所に置かなかったって言うんでしょ」
「そんなつもりじゃないけど、でも、置いたんですか?」
「もちろん」
 鼻息荒く、舞は頷いた。
「教頭先生とか市川先生に、ちゃんといつもの場所に戻したのかってしつこく訊かれたけど、間違いなく棚の上の壁際近くに戻しておいたわ。地震なんかで倒れてこないように置きなさいって市川先生にいつも言われているんだから」
 教頭や市川は疑っているようだが、舞は嘘をついていない。石膏像が床に落ちていたのは、故意に落とされたからだ。
「でも、落ちていたのよね……」
 舞の勢いが急に弱まった。事故に偽装するためにわざと石膏像が床に叩きつけられたとは考えてもいない舞だから、地震で落下した以外の理由が見つからずに、もしかしたら自分たちの不注意があったのかもと悩んでいるのかもしれない。空は、殺人の偽装だと告白して舞の気持ちを和らげたい気持ちにかられた。
「やっぱり、石膏像が勝手に動いたってことなのかしら……」
 ぼそりと舞は呟いた。
「取材に来たくらいだから、空ちゃんは知ってるわよね。美術室の動く石膏像の怪談」
 空はこくこくと頷いてみせた。
「やっぱり石膏像が動いたのかな……」
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