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学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第2章 女神の死の抱擁

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女神の死の抱擁(4)

 正門をくぐるとまず最初に出会う人間、それが警備員の小野和彦だ。正門右脇にある小屋の小さな窓口から顔を覗かせ、小野は登校してくる生徒たちに挨拶をする。生徒たちも、登下校時には小野への挨拶を欠かさない。
 小野は六十代ぐらいの男性で、小柄で小太り、絹のような見事な白髪の持ち主だ。いつ見かけても優しい笑顔を浮かべているので、警備員というよりは近所の子供たちを気にかけている親切なおじいちゃんといった感じの人物で、威圧感はまったくない。それでは警備員としては失格かもしれないが、生徒たちに安心感をもたらすという役割なら十二分に果たしている。
「最近は遅刻しなくなったみたいだな」
 陸の顔を見るなり、小野はしわくちゃの笑顔で話しかけてきた。
 中等部の頃はほぼ毎日のように遅刻していた陸は、授業開始時間になると正門を閉める小野とはすっかり顔なじみの仲だ。
 下校する生徒たちの背中を見送りながら、小野は空たちとのおしゃべりに付き合ってくれた。
 小野によると、警備員の仕事はスケジュールがかっちりと決まっているものらしい。午前七時に昇降口と正門を開け、午後七時に閉める。正門を閉めた後、異常はないか確認するため学園を巡回し、午後八時には帰宅の途につく。朝番と遅番のシフト体制で、何人かいる学生アルバイトと交代で勤務にあたる。学生たちが朝が弱いのか、年寄りの朝が早いのか、どちらの理由にしろ、小野は朝番を務めることが多いらしい。
「校長が死んだ日、小野さんは美術室を見回って石膏像が倒れているのに気がついたんですよね。他に何か変わったことには気づきませんでした?」
「校長先生だろう」と小野は陸をたしなめた。
「警察にも訊かれたけど、他に特に変わったことはなかったね。残業している先生がひとりもいなかったくらいで。いつもなら校長先生か松戸先生、白石先生なんかが遅くまで残っているんだけどね。校長先生に一声かけてから帰ろうと思ったら、校長室には鍵がかかっていてね。てっきり、校長先生は帰ったんだとばかり思ったんだよ。まさか美術室で石膏像の下敷きになっていたなんてねえ……。石膏像が倒れているのに気づいた時に美術室の中に入っていれば、津田沼校長を助けられたかもしれないのに」
「どうして美術室に入らなかったんですか?」
 純粋な疑問からの空の質問だったが、小野は少し気分を害したように目をむいて
「倒れている石膏像を元に戻そうかと思ったよ。でも、鍵がかかっていて中に入れなかったんだ」
「鍵がかかっていた……ドアが閉まっていたから、そう思い込んだってことは?」
「いや、ちゃんとドアノブを回して閉まっているのを確認したよ。鍵をもってこようと事務室に行ったら、キーボックスには鍵がなかったんだ」
「鍵がなかった?」
 空と陸とは、不可解な表情で顔を見合わせた。
「ああ。よくあるんだよ。戻し忘れるってことがね。後で市川先生に石膏像が倒れていると報告すればいいと思って、その晩はうちに帰ったんだ」
 小野に丁寧に礼を言い、ふたりは正門を出て、帰宅の途についた。
「やっぱり、鍵が閉まっていたのね」
「そして、鍵はすでになくなっていた。小野さんが美術室を通りかかった時には犯人はすでに鍵を持って逃亡してたってことだ」
「そうね」
 そう言いながら、空は何かひっかかるものを感じていた。
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