挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
学校の怪談殺人事件 作者:あじろ けい

第2章 女神の死の抱擁

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

10/71

女神の死の抱擁(3)

 海にとめられたからといって、事件に無関心でいられる空ではない。むしろ、事故かもしれなかったのが殺人事件だなんて言われたものだから、かえって好奇心に火がついてしまった。
 事件を解決してメルマガの記事にしよう――海には内緒で、空は陸の協力を得て事件を探り始めた。
 新聞によると、津田沼昭夫校長の死亡推定時刻は、木曜日の午後七時半から八時ごろ。七時には校内を見回っている校長の姿が何人かの生徒に目撃されていた。地震が発生したのは七時三十二分、死亡推定時刻の範囲内であり、最後の巡回が行われた七時四十五分頃、警備員が美術室の石膏像が倒れていると気づいていることから、津田沼校長は地震で倒れてきた石膏像に押しつぶされて亡くなった事故と結論づけられていた。
 津田沼校長の死体が発見されたのは翌日金曜日の午後一時五分前、美術の授業が始まる直前だった。生徒たちは美術教師、市川章介が美術室の鍵を開けてくれるのを教室の外で待っていた。いつもなら授業開始の十分前には来る市川がこの日は五分前になってやっと姿を見せた。鍵が見当たらないと言っている間に、海になりすましていた陸と騒ぎを聞きつけた松戸とが体当たりでドアを開け、倒れている校長を発見した――。
「津田沼校長が最後に目撃されたのは午後七時ごろ。部活を終えて下校していないといけない時間だから、校内に残っている生徒がいないか見回っていたってところよね。警備員の小野さんが美術室を見回って石膏像が倒れているのに気づいたのは七時四十五分頃。石膏像が倒れたのは地震のせいではないとなると、小野さんが見回りに来た時には津田沼校長はすでに殺されていたってことだけど……小野さんは津田沼校長の死体には気づかなかったのかしら?」
 空はドアに嵌め込まれた窓から美術室の中を覗き見た。警備員の小野和彦は初老の小柄な男性で、身長は空と同じぐらいの160センチか、もしかしたら空より少し低いくらいかもしれない。ドアの上部にある頭二つ分ほどの大きさの窓からは教壇だとか黒板、作業台などが見渡せた。しかし、美術室の全体が見えるわけではない。作業台は全部で六台あるが、窓から見えるのはそのうちの半分だけだ。爪先立って覗き込むようにして見ても、美術室全体の様子は把握できなかった。
「津田沼校長が倒れていたのはちょうどあの辺なんだ」
 陸はドアの窓から対角線上にあたる部分を指さした。美術室の後方の壁と窓のある壁とがぶつかっている箇所で、手前にある作業台が邪魔して床が見えない。爪先立ってもやはり作業台の死角となって床部分は見えなかった。
 壁にはちょうど腰くらいの高さに作り付けの棚があり、絵の具やカンバスといったものが収納されている。棚の上にはギリシャ神話の神々や英雄たちをかたどった石膏の胸像が置かれてあったが、今はひとつも残っていない。ヴィーナス像やサモトラケのニケを縮小した立像も粉々になってしまったとかで、美術室は広々としてみえた。
「石膏像が棚から落ちてなくなっているのはわかったかもしれないけど、床が見えないんじゃ、津田沼校長が下敷きになっているなんてわからなかったわね」
「そう、教室に入ってから気づいたんだよな」
 海が、とはもう陸は言わなかった。はじめのうちこそ入れ替わっていたことをごまかそうと言いつくろっていたものの、この頃では開き直って、というか、入れ替わっていたことを忘れて、陸は死体発見当時の様子を物語る。海が、でしょとツッコミを入れたい気持ちをぐっと抑えて空も聞き流している。
「陸、津田沼校長は石膏像に殺されたんだっていう噂、知ってる?」
「ああ、聞いてるぜ。石膏像が動いて津田沼校長を押しつぶしたって話だろ」
 美術室で、よりにもよって石膏像による圧死という死に方をしたものだから、動く石膏像の怪談と結びつけて、津田沼校長は石膏像に殺されたという奇妙な噂が学園中に広まっていた。もちろん、本気で信じている生徒はおらず、面白半分に言い立てているだけだった。
「石膏像が倒れているのに気づいたけど、小野さんは美術室の中には入らなかったのね」
「鍵がかかってて、入りたくても入れなかったんじゃね?」
 空は再びドアの窓から美術室をのぞきこんだ。石膏像のない棚、作業台……みえるものはさっきと変らず、そして津田沼校長が倒れていたという場所の床部分は見えない。だが、空が今見ているものが、事件当時、小野が見た光景と同じとは限らないのだ。
「小野さんから話を聞いてみる必要がありそうね」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ