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竜騎士から始める国造り 作者:いぬのふぐり

西国境建領編

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静かな待機

 曇天の元、俺はインベート準男爵領地に設営したテントで暖をとっている。
 冬に入り始めたこの時期に、インベート準男爵には申し訳ないが共に連れて来た兵士とドラゴンの為に食料を徴収させてもらった。

 この食料は後からやって来る輜重隊により補充されるのでプラスマイナス0の予定だが、この食料が次第に無くなる時期に食料をごっそりと持って行かれるのは、後から補充が来ると分かっていても気が気でないだろう。

 そもそも戦時に徴収した分が戻ってくるなんて事はほとんどなく、今回の徴収が滞りなく進んだのはインベート準男爵の娘であるブロッサム先生の口利きもあって実現された物だ。

「ロベール様、お茶が入りました」
「ありがとう」

 華やかさの欠片も無い、実用一辺倒な陶器に淹れられたお茶(・・)を飲むと、普段とは違う漢方系の臭みを感じる物だった。
 見た目も紅と言うより黒っぽい、健康志向のお茶な感じがする。

「余り口に合いませんか?」

 そう心配そうに聞いてきたのは、マシューで俺の代わりに町の指揮をさせていたミナだ。このお茶を入れてくれたのもミナで、本人が言うには風邪をひきにくく体を温める効果のあるお茶だそうだ。

 今回の作戦にミナを連れて来た理由は、ミナが近衛志望で宮廷剣術を学んでおり室内戦闘に慣れていたからだ。
 ただ実戦に関しては野戦――とは言っても、野盗の類を潰す簡単な作業――しか経験しておらず、室内戦は訓練でしか行っていないのが心配の種だ。

 しかし、そうは言っても宮廷剣術を極め室内戦に特化している近衛侍従隊の協力は、皇帝陛下から許可が下りなかったので他も学んで(・・・)いる兵士くらいしか引っ張って来られなかった。

「いや、初めて飲む味だから驚いただけだ」

 そういい二口目を口に含むと、ミナは優しい笑みを浮かべて毒見用(・・・)ではない自分の分を淹れはじめた。

「アバスは、お茶は要らんのか?」

 地図を広げた簡易テーブルの対面に座るアバスが飲んでいるのは、このお茶を入れる為に沸かした白湯だ。

「いや、いい。お茶はトイレを近くさせるし、そもそも俺は白湯の方が好みだ」

 なんだか、武士っぽいと言うよりお爺ちゃんっぽい奴だ。トイレが近くなるのは同感だが、やっぱり飲み物には味があった方が良いと思う。

「しかし、明日明後日には攻め込むと言うのに、あまり気負っている奴が居ないんだな」

 アバスは見えない外へ視線を向けながら、テントの外で各々休んでいる兵士や俺の意見に呼応してくれた竜騎士(ドラグーン)育成学校の生徒たちについて言った。

「緊張でガチガチになるよりはマシだろう。それに、ここへ来てもらったのは4年生や5年生が主で、その学年になれば学生であっても実戦に狩り出されている生徒も多くなる……と言うか、実戦が多くなって学校へ余り来なくなっている生徒を選んできたつもりだ。俺達よりも場数を踏んでいる分、力の抜きどころはわきまえているんだろう」

 アバスの言う通り、予想以上に静かなのは確かだ。4年5年は先ほどの考えで良いとして、1年や2年も楽しく談笑しているのが気にかかる。まぁ、初めに実戦には参加せず俺の作戦の数合わせとして呼んだだけなのでそれほど気負う事も無いのだが。
 しかし俺からしてみれば、初陣のはずのアバスがここまで落ち着いているのが驚きだ。

「あとは、ロベリオン第二皇子がどれだけ子爵兵をおびき寄せてくれるか、だな」



 数日前

「良い話なのか悪い話なのか……。さっき出て行った人間が直ぐに戻ってきて話す話は、今まで良かった試しがないからなぁ……」

 先ほど俺が訪れた時と同じようにルーディーと共に書類整理をしていたロベリオン第二皇子は、再び現れた俺を見るなりそんなことを言った。

「良い話なのか悪い話なのかは聞く人によって変わりますが、どちらかと言えばギリギリ良い話ではないかと言う物を持ってきました」

 どちらともつかない俺の物言いに困り顔をしながら、ロベリオン第二皇子は俺に座るように勧めてきた。

「それで、今度は何をしようと言うんだい?」
「とりあえず、これから説明するのは一つの案としてで、できれば怒るのは後でお願いしたいんですけど」

 チラッ、と見た先はルーディーだ。ロベリオン第二皇子は新しい考えを好む人のようだから俺の考えも噛み砕いて考えてくれると思うが、騎士のルーディーはキレるかもしれないからだ。

「……私を見たのは、浅慮な人間だと言いたいからか?」
「いえ、決してそんなことは」
「なら話してくれ。話を聞いた後で判断する」

 その後で(・・)ってのが恐いんだよ。まぁ、こんな所で時間を食う訳にはいかないので、さっさと概案を説明するか。

「二人も知っての通り、私は先の物資投下作戦時に退却のさいに敵陣へ火炎瓶を投下しました」 

 この事はカショール大将からの報告書が挙がっているので、新しく大将となったロベリオン第二皇子も目を通しているはずだ。確認の為に視線を送ると、二人ともコクリと頷いた。

「あのあと敵竜騎士(ドラグーン)に付かれたので戦果確認をしておりませんが、低空飛行から一つずつ確実に天幕へ向けて投下したのでそれなりに戦果は上がっているはずです。そこで、今回のカタン砦防衛作戦には過剰に竜騎士(ドラグーン)を配したいと思います」
「なるほど。その火炎瓶を敵陣へ多量に落とすと言う事か」

 予想通り、ロベリオン第二皇子は考えてくれているが余り良い顔はしてくれない。ルーディーも漏れずに顔はしかめっ面だ。

「良い考えだと思うが、それは騎士の流儀に反する戦い方だ。……いや、確かに自軍の兵士の命を考えればそのような作戦になるのは分かるが、我が父皇はそういったのが嫌いでな。ロベールの事も、学生であの作戦を思いつき参加したことは評価していたが、その後の攻撃はディルマンのせいもあったとはいえ心証はあまりよろしくないようでな」

 おっと、それは困る。今度の作戦を成功させ、皇帝陛下からお褒めの言葉を頂くのが今回の最大目標だ。これは別に、突然愛国心に目覚めた訳ではなくストライカー侯爵を呼び寄せる(・・・・・)口実にするためだ。
 なるべく皇帝陛下の心証を悪くすることなく、兵の損耗率を最低限にしなければならない。

「いえ、爆撃(・・)は今回なしにします」
「ではなぜ竜騎士(ドラグーン)を増やす?」
「あの時の攻撃で、敵は帝国の竜騎士(ドラグーン)が多ければ『また火炎瓶を投下されるのでは?』と考えます。それだけで夜警の兵士を多くせざるをえなくなり、万が一攻撃された場合の延焼を防ぐためにテント同士は離すことを余儀なくされとっさの行動が遅れ、それ以前に兵士に非常に強いストレスを与えることができます」
「過剰な竜騎士(ドラグーン)と言うのは、私が君に言った数合わせと言う事か?」
「はい。実際には飛ばさず、敵にその姿をさらすことで先にも言った『また火炎瓶が投げ込まれるのでは?』と思わせる事に意味があります」

 考える事数秒。自分でも悪くは無い考えだったので、ロベリオン第二皇子もすぐに了承してくれた。

「よし、その案は良い。それで、兵士に精神的な攻撃をするのは良いとして、そうすると竜騎士(ドラグーン)に対抗してあちらも竜騎士(ドラグーン)を出してくると思うが、そうなった場合はどうするんだ?」

 いやらしく質問するのではなく、もちろんそれは考えがあっての事なんだろう?と言う表情でロベリオン第二皇子は言う。
 もちろん、敵子爵領地の竜騎士(ドラグーン)を少なくするのが今回のメインだ。

「ドラゴンに選抜した少数の兵士を乗せて子爵邸を襲撃し、目標の子爵を捕縛します」
「なっ!? 陽動ではないのか!?」

 自分達の予想と違ったのか、俺の意見に驚いたロベリオン第二皇子は絶句し、ルーディーは驚きの声を上げた。

「陽動?」
「そうだ。カタン砦へ敵竜騎士(ドラグーン)を集めておいて、騎馬を中心とした別働隊で子爵領地を叩くのではないのか!?」
「それも良いかもしれませんが、それでは結構死傷者が出ますよね? 私の考えた方法であれば、危険ですがすぐにでもカタン砦から子爵兵を撤退させることができますよ?」

 危険ではあるが、手っ取り早い方法であることには変わりない。
 総大将を討てば後は有象無象と言うのがこの世界――いや、軍隊の基本だろう。死傷者を少なくするには、どれだけ早く将を討つかだ。
 否定的な顔つきで悪夢を振り払うように頭を振るうルーディーとは対照的に、ロベリオン第二皇子は静かに思考している。
前に登場したブロッサム先生の父親の領地で、味方からの報告を待つ主人公たち。
歩兵と足並みを揃える+敵竜騎士(ドラグーン)を呼び寄せるのに時間がかかるので待っていますが、何やら生徒たちの間では弛緩した空気が……。
これは一嵐ありそうですな……。ないかもしれませんがw

12月11日 誤字修正しました。
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