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竜騎士から始める国造り  作者: いぬのふぐり
西方領域攻防編
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訓練場と女の子

「うしうし、別段おかしくないよな」


 ダンブール鍛冶屋の裏にある、手動ポンプ付きの井戸から出した水を張った桶を覗きこみ、俺は自らの姿がおかしくないか調べた。

 服は、さきほどブロッサムから貰った物で、変装の為に髪の毛の色を黒色からオレンジ色に変えている。


 ブリーチやヘアカラーがないこの世界でどうやって髪を染めたかと言うと、染粉と言われる水溶性の粉があり、これは日本で言う白粉(おしろい)と同じ使われ方をする。


 汗や多少の雨では落ちることなく、お湯を使うと比較的簡単に落とせることから、人気のある化粧品だ。ただし、貴族の婦人方は人造人間の様な白色の塗り方をしている。


「とても良く似合っていますよ」


 俺が満足したのを見てから声をかけてきたのは、マシューから出てきたミナだ。

 彼女は、普段俺の家で着ているようなメイド服ではなく、動きやすさを重視したパンツスタイルで、色遣いも地味だ。


 その服はところどころ土で汚れていて、昼間に激しい訓練をしていたのが見て取れた。

 髪の毛は俺と同じく染粉を使って色を変えており、淫乱ピンクになっている。ピンクと言っても本気の桃色ではなく、ブロンドメインで明かりの下でピンク色になるように調整している。


 俺は今からミナの通っている訓練場へ行き、一介の平民として訓練をしてもらうのだ。そして、俺とミナの関係は姉弟(きょうだい)と言う設定になっている。


「まぁ、ゴテゴテした服よりかは着やすいな」


 装飾もなく、麻のTシャツにハーフパンツ。動きやすいことこの上ない。


「それでは、向かいましょうか。先生も、ロベール様が来ることを楽しみにしていましたから」

「俺の名前は覚えているよな?」

「はい。行きましょうか、ロンくん」


 姉が弟の名前を『様』付けで呼ぶのは当たり前だがおかしく、またロベールと言う名前はそれなりに有名なのでロンと言う偽名も用意した。

 余りに違う名前だと、俺が自分の名前だと理解できずに無視してしまう可能性があるからだ。


 ちなみに、ミナはミレニュースと言う偽名になっている。略名はミレだ。

 おいおい、もう少し捻った名前にしてくれよ、と思ったけどミナの本名はミナヌュスと言い、ミレニュースの帝国読みだそうだ。なにそれ、滅茶苦茶かっこいいやん。



「ねぇねぇ、ロン君ってどこで働いているの?」

「自宅警備員」

「お家の警備って事は、(おっ)きな商家の子供なの?」

「いや、普通の家。俺の言っている自宅警備員は、普通の警備員とは違うんだ。常に、見えない敵――とりわけ、自分の心の中に巣くうナニカと戦っているんだ」


 って、友達が言ってた。そいつは、大学卒業後に就職に失敗して、ずっと自室で警備員の仕事を続けている。

 コミュ障ではなく、友人もまあ多いのだが、なにぶん就職先に対する理想が高すぎてなかなか仕事にありつけない現状だ。いやいや、現実逃避先に昔の生活を思い出すのは止めよう。


 俺に話しかけてきている女の子は、俺の練習相手として先生から付けられたクリント幼少訓練場の生徒だ。名前は、ルティスと言う。

 ここへ通いだしてから、すでに2週間。兵士になることを想定しているこの訓練場はそれほど大きくなく、この訓練場に通う人間とはあるていど顔見知りになれた。


「ふ~ん。じゃあさ、今度遊びに行っても良い?」

「ダメ」

「何で?」

「何でだろうね?」

「ッ――!」

「いてっ!?」


 グーパンで殴られた。一っこ下のくせに体格が良く、俺の方がよく年下にみられる。そんな奴が軽々しくグーパンするから、俺の体は訓練と相成ってボロボロだ。


「痛いなぁ。そうやって直ぐに殴る癖は治せよ」

「ロン君がいつも適当なこと言うからでしょう? なんで、そうやって意地悪するの?」


 面倒臭いからです。とは、口が裂けても言えなかった。そんな事を言った日には、俺の体はボロ雑巾になることは確定してしまう。


 しかも、ルティスの兄貴は帝国の百人隊長で、それだけなら「なるほど、百人隊長ですか。とても頑張ったんですね」で終わるが、ただの平民の一兵卒から百人隊長に成り上がった強者(もさ)だ。


 歳は、現在20歳。先のユーングラントとの小競り合いのさい、敗走する時の殿(しんがり)部隊に居たルティスの兄は、その部隊の隊長が死ぬと代わりに部隊をまとめ上げ、わずか110人と言う少ない兵力で、追撃部隊300強人を打ち破ったのだ。


 それだけでも勲章ものだが、追撃部隊を打ち破るだけでは飽き足らず、その後ちりじりになっていた兵士を吸収し、ユーングラント国境沿いに駐屯していたベルガート北西領域警()隊800名をその半分ほどの人数で打ち破るという快挙を成し遂げた。


 そんな奴と同じ血が、俺の横に居るルティスにも流れているのだから、俺が色々と警戒するのもみんな理解できるだろう。


「適当じゃないさ。すぐに暴力に頼る奴が嫌いなんだ」

「んじゃ、何で訓練場(ここ)に通ってるのさ? 強くなりたいからじゃないの?」

「強くなるのと、すぐに暴力を振るう奴は全く違う生き物だ」

「じゃあ、私の事が嫌いなの?」

「暴力を振るうならな。振るわなければ、別に何とも思わない」


 俺の回答の何が気に入らないのか、ルティスは頬をフグの様に膨らませた。暴力を振るわない代わりに無言の抗議なのか、ルティスは足で器用に土を掘り返すと俺の足に盛り始めた。


 聞かれた事に対して、真摯な回答をしたはずだ。子供にも分かりやすく、具体的にも言った。

 小学生なんて、とっくの昔に辞めた俺にとって、ルティスとの会話は大変困難を極めた。


「ロンくん。お待たせしました」


 ルティスとの会話に苦慮していると、訓練を終えたミナがこちらにやってきた。


「ルティスちゃん、ロンくんと訓練してくれてありがとうね」

「ううん。新しく入った子は、先輩が教えるのがここの習わしだから!」


 今までの抗議活動が嘘のように、ミナに明るく答えるルティス。

 おいおい、ミナさんよ。すでに埋葬されてしまった俺の足に注目してはくれまいか?


「さぁ、遅くなる前に帰りましょうか」

「うん。分かった」


 子供らしく元気に返事をしながら立ち上がり、サンダルの中に入ってしまった土を取り除くと、ミナが手をつないできた。

 あまり気にしていなかったので知らなかったが、仲の良い家族は手をつないで歩くそうだ。本当か、と思いながら当たりを見渡すと結構つないでいる子供が多かった。

 皇都は安全とは言っても、人さらいなどは多少なりとも居るので、そう言ったもの対策もあるんだろう。


「またな、ルティス」

「明日もちゃんと来るんだよ! さぼっちゃダメだからね!」


 竜騎士(ドラグーン)育成学校にマシューのブラック行政もある。そう頻繁にはこれないよ、と言いたいところだけど、身分を隠しているためいう事ができない。

 だから、俺は曖昧に頷くだけに留めた。


 貴族や大店商人は、ちゃんとした靴を履いています。中級市民や商人(行商含む)はサンダル。下層市民は裸足です。

 奴隷の時代は裸足だった主人公ですが、ロベールに成り代わってから靴を履くようになり、それから裸足での行動は無くなりました。

 しかし、靴を履いて訓練しては身分を偽る意味がなくなる。しかし、裸足で訓練は嫌だ、と言う事でサンダルで訓練をしています。


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