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竜騎士から始める国造り 作者:いぬのふぐり

領地開拓編

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皆でお祝い結婚式

 最後の休憩を終えマシューへ向かう道すがら、俺は前を飛ぶ(・・・・)ヴィリアを後ろから見ていた。
 そのヴィリアの背には黒の外套――俺が良く被っている外套を被った小さな人影が、危ないからあまり動くなよ、と言う忠告を無視してモソモソと背中の痒い人のように動いていた。

 搭乗者はもちろんレレナだ。これから向かうマシューでちょっとした悪戯をしようと考え、今はレレナを一人でヴィリアに乗せている。
 遠かったマシューが徐々に大きく成って行き、次第にお祭り――ファナの結婚式会場が見えてきた。さらには、結婚式だけではなく収穫祭まで一緒にやる予定なのでかなり豪華な装いとなっている。

 しかし、気になる人が約一名。いや、その一名が連れている竜騎士(ドラグーン)は2人居るから、最終的には気になる人は3人だけど。
 チラリ、と後ろを見ると帝国の竜騎士(ドラグーン)部隊から天駆ける矢(ロッコ・ソプラノ)へ移ってきたバース隊長が居る。

 何でも、今度のユーングランド王国への停戦協定に随員として選ばれているそうで、その中で一度しか共に飛んだことの無い俺や、一度も一緒に飛んでいないアシュリーと(ハネ)合わせをしたいとの事だそうだ。
 俺やアシュリーとしては、自惚れではなく天駆ける矢(ロッコ・ソプラノ)のメンバーと飛んでも問題なく速力を合わせる事ができると思う。何せ、長距離飛行では俺達の右に出る物は居ないのだ。

 そう言ったのだが、真面目なバース隊長は頑なに首を縦に振る事は無かった。
 お蔭でレレナの姉であるファナの結婚式へ行く、この今、一緒に飛ぶ(ハネ)合わせをする事となったのだ。
 バース隊長には正直マシューに来てほしくなかった。技術云々と言う意味もあるが、バース隊長は先祖代々の禄を食むだけの生産性のないタイプの竜騎士(ドラグーン)なのでスパイの心配はそこまでしていない。

 どちらかと言えば、マシューの皆の心の平穏の為だ。せっかくの身内のめでたい日だと言うのに、俺以外の貴族が居ては緊張してしまい心から楽しむことが出来ないだろう。
 まぁ、俺がなぜマシューに行くか説明をしたら察してくれたらしく、必用時以外は家から出ないと言う約束をしてくれた。これで胸の支えが取れたと言う物だ。

「ヴィリアを先頭に降りるぞ。絶対に前へ出るなよ」
「了解!」

 と答えたのはアシュリー一人だった。バース隊が返答しないのは俺へ嫌がらせではなく、俺からの命令を聞かずとも動きを合わせられるように声が聞こえない程度に後ろを飛んでいるので返答ができないのだ。
 そして、俺の返答に答えたのだアシュリーだけだ。ロベール竜騎士(ドラグーン)隊の副隊長のフォポールは今回のマシュー随行とユーングラント王国への随行はお休みとなっている。

 本人は絶対に行くと意気込んでいたが、フォポールはまとまり始めたヴィットナー家のマリッタとの婚約話があるのでお留守番となった。
 マリッタは、ユーングラント王国へ行くのだから仕方が無いと言っているが、いつどこから横槍が入るか分からないので、俺としても善は急げと言う事で、早め早めで済ませて欲しかったのだ。

 マシューの竜騎場に降りると、すでに先触れと言う祝い金代わりの荷物を運びいれていたイスカンダル商会が俺の到着時間を言っておいてくれたようで、空の彼方に俺達の姿が見えた時から皆が待ってくれていたようだ。その中には、今日の主役であるファナやフレサンジュ家から直でやってきたミナも居た。
 しかし、皆の目の前に居るのは、そのファナの妹のレレナだ。小さな体に俺が飛行服の上に良く着る防寒着を着ている。顔も着用しているマフラーに埋もれているので、パッと見た感じは小さな俺だ。

「うわーっはっはっはっはっは! 我が名は、ロベール・ドゥ(・・)()タイフ・ドゥ・ストライカーだぞぉ!」

 笑い声と「我が名は」と言う部分と名前で、いちいちポージングを決めるのはなぜだろうか。俺の真似とは言わせない。

「なぁ、あの気持ち悪いポーズは何の意味があんの?」

 あのポーズの理由を、隣に立つアシュリーに聞いた。

「一番カッコいいポーズは何か、と昨日まで練習していましたよ?」
「なるほど、あれがレレナにとってカッコいいポーズか」

 俺の目には鶴の構えとか、そう言った類のポーズに見えて仕方が無いが、レレナにとっては練習する程の物だったらしい。
 余りにも普段の俺とかけ離れた行動に、マシューの皆さんは困惑の表情を浮かべてレレナの後ろに立っている俺へ視線を投げかけている。
 やっぱりいくら服を同じ物にしても、背の高さからばれるようだ。

 レレナも周りの皆の雰囲気を感じ取ったのか、ポージングで上げていた腕をノロノロと下げると「えっ? この空気、どうするの?」と言った表情で俺を見てきた。自分で空気を冷却しておいて俺に振るとは、こいつやるな。
 秋とは思えないほど寒い風が流れる中、静かに立っていたファナが俺へ向かってお辞儀をした後レレナに駆け寄った。

 レレナがマシューを発って早3ヵ月くらいだ。仲の良かった姉妹だったから、駆け寄ってギュッとして「お帰り」なんて言うのだろう。
 ホームドラマにありがちなシチュエーションだけど、歳をとると若い時には馬鹿にしていたベタな展開と言うのがどうにも来るのだ。そりゃベタな展開がドラマや映画から消えない訳だ。
 ファナが駆け寄り、両手を広げたレレナがそれを待ち受け、感動的なシーンへ移行すると思いきや――。

「バカッ!」
「むぎゃっ!?」

 ゴズッ、と奥歯が抜けるのではないかと思わせるほど鈍い打撃音を上げながら、ファナはレレナの頭を握り拳(グー)で殴りつけた。

「なに馬鹿な事をしているのよ、あなたは! ロベール様の真似をするなら、もうちょっとマシな動きをしなさい!」

 論点のズレた注意をするファナに、レレナは鈍い音がするほど強く殴られたと言うのに全く堪えた様子もなく、頭をスリスリと撫でながらあーだこーだと言い訳を始めた。
 さすが田舎っ()。都会の子供と比べる事ができないほど耐久値に富んでいる。

「すまんな、ファナ。ポーズ以外(・・・・・)は俺が指示したんだ」

 うんうん、と俺の話に頷くレレナだが、ファナにペチンと頭を叩かれると赤ベコの様に頭が震えた。

「いいえ、そういう事ではありません。ロベール様のそば仕えとして家を出たのであれば、きちんとロベール様の意志に添えるように努力しなさい、と父は言いました。だと言うのに、ロベール様の真似もできない上に、さらには仕えているロベール様の名前を間違えるなんて……!」

 ファナさん、結婚を本日に控えてマリッジブルーなのか、えらく気が立っているように見える。
 久し振りの再会だと言うのに、ちょっと悪ふざけが過ぎたようだ。巻き込んでしまった――本人は楽しんでいるようだが――レレナには申し訳ない事をした。
 飛行帽とマフラーを脱いで顔を晒すと、仕切り直しと言わんばかりに大き目の咳を()いた。

「忙しい所、わざわざ出迎えをしてくれてありがとう。さっ、会場まで案内してくれ」
「はっ、はい。こちらです」

 レレナはファナの腕に巻きつくようにしがみ付き、俺やバース隊はその後ろを付いて歩いた。



 日差しが当たらず年間を通して気温が一定に保たれた洞窟から出された肉の数々を見ると、この結婚式には町の皆がどれだけ力を入れているかが良くわかった。
 とにかく量が凄いのだ。猪や鹿と言ったジビエ肉から、俺の知人から祝いの品として贈られた牛や豚と入れ替わりで、マシューで育てていた若干近親交配が進み、血が濃くなっていた牛を料理として出しているのだ。
 ただ、料理と言ってもBBQスタイルなので、結婚式と言うよりお祭り感が強い。だがしかし、素晴らしい。うん、素晴らしい。

「マシューが発展しはじめたと言うのは聞いていたが、まさかここまでとはな」

 炭火を起こしている間、貴族様を待たせるわけにはいかないとマシュー住民の好意によって俺やバース隊長や他4名の前にはエールとジャーキー(つまみ)が置かれている。
 バース隊長の言う発展と言うのは、マシュー住民達が来ている服や食材の豊富さから今飲んでいるエールを含めての物だ。

 平民が飲んでいるような気の抜けた甘いだけのエールではなく、発酵時に出る炭酸を液中にしっかりと封じ込めた発砲エールだ。さすがに洞窟ではそれなりにしか冷えていないが、苦みがあるのでキレは良くなっているはずだ。
 ファナの結婚の為に、フレサンジュ家で修業をしていたミナはマシューへ前乗りしていたらしく、ラジュオール子爵の子供達と共に来た胃痛メイド――最近はずっとなっていないそうだが――と共に飾りを作っていたそうだ。

 ファナが着ている、お洒落な少しだけフリルの付いたワンピースにあしらわれた布の花がそうらしい。お蔭で華やかさが何倍にもなっている。
 対する旦那は、御先祖様が戦争で活躍した際に当時の皇帝陛下から贈られた肩章を付け、服もやや草臥(くたび)れた感が否めないが軍服を着用している。
 これは御爺さんが着ていた物の様で、綺麗なのは事務官だったかららしい。何でこんな田舎にたどり着いたかは推して知るべし、と言ったところか……。

 久し振りに会ったミナにお酌をしてもらいながら、結婚式と言う名のお祭りを見た。
 貴族の結婚式は盛大で、家格にもよるが司祭を呼んで宣誓をたてる。政略結婚の多い貴族の結婚に病める時も健やかな時も~、と言った物に意味があるのか分からないが、一応はそう言った物があるらしい。

「ロベール様。一言お願いします」

 石鹸工場を仕切り、今回の結婚式の司会進行もしている女性に言われ、俺が頼んでおいた一言を言わせてもらう番が来たようだ。
 俺が下に居るせいで簡易舞台から降りようとする二人を止めて挨拶をする。

「この度は、ご結婚おめでとうございます」

 その祝福に、困ったような本当にうれしそうな顔をした。

「私がこのマシューを準統治領としてから、一年と少しが経ちました。その間、マシューの皆様にはよくお世話になり、特に新婦であるファナには町長の娘と言う事もありお世話になりました。新郎のエルゾは製紙工場の指揮と言う難しい仕事を、私の想像以上に上手くこなしてくれています。そんな二人が手を取り合えば、今後どのような苦難が来ようと乗り越えてくれると思っています。繰り返しになりますが、この度は誠におめでとうございます。これからのマシューをよろしくお願いします」

 お祝いの言葉を送ると、一斉に拍手が起こった。今まで呼ばれた結婚式ではクラスメイトの一人としてだけで、こんな風にお祝いの言葉を送る事が無かったからな。新鮮かつ大緊張の連続だぜ。

「それと、もう一人からお祝いの言葉が届いているので、ついでに紹介させていただきます」

 予定外の言葉に司会進行役の女性が目をパチクリさせているが、そんな事は関係なしに懐から筒を取り出し、蝋封を剥がして中身を取り出した。

「この度は、ご結婚おめでとうございます。これから、お二人の前には辛く厳しい道のりが待ち構えているかも知れません。しかし、それ以上の幸せが待っていると私は確信しています。帝国の幸せと共に、二人の新しい門出にこの言葉を送らせていただきます」

 マシューの皆さんの頭の上には『?』マークが付いている。もちろん、ファナや司会進行役にもだ。

「――ユスベル帝国第一皇子、アドゥラン・ユスベルより」

 ガタン! とバース隊長がテーブルに膝をぶつけた。他の貴族連中も目を見開いて驚いていた。
 それもそうだ。未だ皇位継承をしてい無いとは言え、皇子が平民に対して祝言を送る事などあり得無いからだ。
 ではなぜ書いてくれたかと言うと、俺が高度交渉術と言う体を張った交渉を行って書かせたからだ。お蔭でアドゥラン第一皇子の言う事を聞かねばならなくなったがな。

 それに、渡す相手は『俺がお世話になった人』としか言っていないので、まさか平民だとは夢にも思うまい。
 実際は皇帝陛下に書いてもらおうかと思ったが、何やかんや忙しいと適当な理由を付けられて取り次ぎもしてもらえなかった。忙しいと言っても皇帝陛下が書くわけじゃないんだから部下に書かせて皇帝の紋章だけ押してもらえればいいのだ。

 それだけで箔がつきまくりで、これから永代続いていくであろうファナの一族の家宝的な立ち位置で置いておいてもらおうと思ったのに。
 しかし、第一皇子と言えど皇族。しかも直筆&紋章付きなので、皇帝陛下より格段に下がるとはいえ箔がつく。
 後でファナ達に渡しておくように司会に頼むと、脂汗を垂らしながら震える手で受け取ってくれた。皇都とつながりが希薄だったこの町でも、皇族の威光は健在のようだ。

 後は、祝儀として贈られた物の説明に留めた。マフェスト家からは絹織物が30束にミシュベルからは貯蔵された蒸留酒――しかも、帝国が認めた事を示す刻印付き――にフレサンジュ家は牛を10頭にフォポールはいつでも換金できる宝石を幾つかにアシュリーは髪飾りを送っている。ついでに言うと、レレナの姉と言う事でノッラも宝石付きのネックレスを送っている。

 俺からは羊50頭を送らせてもらった。これは綿業を起こそうとしている町民に、羊毛もその選択肢に入れてもらうためだ。
 初めは何をプレゼントしようか迷っていたのだが、「ファナから町を良くしてもらえたのに、これ以上貰えません」と拒否られたから、町の為なら良いだろうと考えての羊だ。

 牛と羊は、皇都から馬車で4日の道程を3週間かけて来たそうな。それを皆からのプレゼントだと思っていたファナは、今明かされるお祝いの品の数々に戦々恐々としていた。



「お前は恐ろしい奴だな」
「……どういう事ですか?」

 何が恐ろしいかは大体見当が付いているが、とりあえず知らんふりをしてみた。

「自分の欲求を満たす為に、皇帝陛下の身内すらも祝い事の道具として利用するか」
「まさか? 私はアドゥラン第一皇子にお願いをしただけですよ。書いてもらう代わりの条件も聞きました。これは互いにより良い条件で交わした話にすぎません」
「だと良いがな。お前のやり方じゃ敵を作り過ぎる事になるぞ」
「肝に銘じておきます」

 敵が増えると共に味方も増えている。現に、雫機関に参加している貴族達から俺の真似をしている貴族が現れたと言う情報も入ってきている。ちょっと前には無かった出来事だ。
 貴族らしくない消費するだけの貴族であるバース隊長だが、帝国国民として皇帝陛下を蔑ろにされる事は我慢できないのか?
 それにしては、貴族と言う肩書にそれほど執着していない印象も受ける。まぁ、どちらでもいいが。

「お酒のお代わりはいかがですかぁー?」

 雪山で遭難者を探すセントバーナードの様に、首から鏡開きされたミニ樽を下げたレレナが柄杓片手にやって来た。

「皇様に認められた食べ物だけが押せる刻印付きの、他じゃ飲めない美味しい美味しいお酒ですよー」

 どうですか、と聞きながら、レレナは俺とバース隊長のコップにお酒をドンドンと注いでいく。

「バース隊長は、レレナと話しました?」

 ビビリのレレナは、注ぐ以前に知らない貴族に近寄る事は無い。これは平民すべてに言えることだ。
 しかし、恐れることなく注ぐと言う事は俺が知らない間に何かあったと言う事だ。

「初めは参加しないつもりだったから、お前の家をそこの子供に案内してもらった。その後は、お前が挨拶をしたりしている時に、料理を取りに行ってもらったりしていただけだ」

 うむうむ、と蒸留酒を呑みながら説明してくれた。

「あとは、何かに付けてハイタッチをするお前の部下の真似をしたらあのようになった」

 今もお酒を注いでハイタッチを交わすアシュリーとレレナを見て、バース隊長は思い出したように言った。
 平民と分け隔てなく接する貴族の鑑だな、バース隊長は。

「明日には皇都に戻らないといけないんで、お酒は程々にしておいてくださいね」
「分かっている。この程度の酒で私がどうにかなる物か」

 それ……フラグっすよ。
ユーングラントまで書けなかった……。

ラジュオール子爵=去年の暮れに起きたカタン砦防衛戦の際の敵方の大将。
         
胃痛メイド=本名カペッサ。最近は胃痛がなくなったもよう。

バース隊長=山岳警備隊隊長の子爵。貴族であっても必死で金を稼ごうとは思って居ない。


9月15日 誤字・脱字修正しました。
      ロベールのお祝いの言葉を編集しました。
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+注意+
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