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竜騎士から始める国造り 作者:いぬのふぐり

領地開拓編

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雫機関

「お前はッ! お前は、どれだけ馬鹿な事を言っているのか分かっているのかッッ!!」

 その怒号に、隅に侍っていたメイドがビクリと肩を震わせた。
 この話に全く関係の無いメイドだが、絶対的な存在である主の声は――その上、怒声とあれば恐怖でしかなかった。

「何を持って馬鹿だと断じているのか理解できませんが、父上が常々言っていた通り、私は正しいと思える道を進んでいるだけです」

 怒声を受けているのは、声を張り上げている壮年男性の真向かいに座っている青年だった。
 青年の名はフォポール。昨年、竜騎士(ドラグーン)育成学校を次席で卒業し、今は天駆ける矢(ロッコ・ソプラノ)に所属するロベール竜騎士(ドラグーン)隊の副隊長をしている。

 対面に座っているのは彼の父親の、セルマン・ドゥ・エヴァン伯爵だ。
 エヴァン家は、過去にユスベル帝国軍主力の一翼を担う常勝の騎士と謳われていた(・・)エヴァン侯爵家から別れた分家のエヴァンだった。現在は侯爵の方のエヴァンが居なくなったので伯爵の方が本家を名乗るようになっている。

 だが、本家が無くなったから自らを本家と名乗る事は出来る筈もない。今のエヴァンは本家を名乗るだけの実力があったので、他の貴族は文句を言うことも無くセルマンの家を本家と呼んでいる。

「その道が正しくないと言っているのだ! 私の所にも皇帝陛下の直轄部隊である近衛聖騎士団から入隊の話が来ていた! しかし、どうだ! あんなろくでなしの子供の御遊び部隊に入るなど正気の沙汰とは思えない!」
「それは、本気で言っているのですか!? ならば、それこそ正気ではない! 彼は戦争を早期終結することで、本来であれば死ぬかも知れなかった末端の兵士まで救った竜騎士(ドラグーン)です。自分が彼と同い年の時に、彼と同じことをしろと言われても躊躇します。それを自ら発案し、実行し、成功せしめる。私は彼を尊敬すらしている!」
「お前は、エヴァン家の長男であると言う事を理解しているのか! 奴の竜騎士(ドラグーン)の構成を見てみろ! 上級貴族はお前だけ。その上、長男もお前だけだ! これが、他の貴族からどういう位置づけと思われているか理解できないお前ではないだろう!」
「エコール子爵家は長女です!」
「男と女の価値を考えろ! お前は跡継ぎなのだぞ! その様な末端の部隊に居ては活躍できるはずがない! 常勝の騎士と言われたエヴァン家に泥を塗る気か!」
「それは、家ではないでしょう。常勝の騎士はもう存在しません!」
「貴様ッッ!!」

 長男と長女では、長男の方が大切なのはどの世界でも同じだ。ロベール竜騎士(ドラグーン)隊に居る貴族の子供は次男や三男ばかりで、自分以外に長男は居ない。
 あらゆる手を使って家名を存続、増強するのは貴族の生きる意味でもあり、それは自分でも理解している。

 だからこそ、自分の子供――長男には国の軍に入り武功を収め、名を上げた状態で爵位を継いでもらいたい。それ以降の子供は予備として別の有名な指揮官の元で活躍してもらいたい、と言うのが親心と言う物だろう。

 だが、名を上げるだけであれば弟にでも任せておけばよい。
 自分は名を上げるだけではなく、帝国の為に力を揮いたいのだ――、とフォポールは常々考えていた。
 最近の貴族は一部を除き安全(・・)に名を上げ、責任を嫌う傾向にある。その結果、自分よりも勢いが強くなりつつある新貴族・下級貴族に対して横やりを入れ、活躍の場を奪うだけでは無なく足を引っ張りあう事をしているのだ。
 ロベール竜騎士(ドラグーン)隊の人員削減も、そう言った処が由来しているのだろう。

「例え目立つことが無く、自分が立てた武功すら他の軍隊に利用されることになろうとも、私は帝国の礎になりたいと思っています」
「お前は何を言っている!? 正気か!? 武功を他人にやるなど狂っているとしか言いようがない!」
「私は正気です。少なくとも帝国を売る様な人間よりはッ!」
「もういい! 頭を冷やして来い!」

 ドアを指さしセルマンは叫ぶように怒鳴った。
 フォポールも、これ以上話すのは良くないと理解したのか静かに部屋を出て行った。

「御坊ちゃま……」

 部屋を出たところで、始まりからそこに居たのであろうメイドが声をかけてきた。

「御坊ちゃまはよしてくれって言っただろ? もう、そんな歳じゃないんだ」

 それに、メイドはフォポールよりも明らかに年下だった。年下の娘から御坊ちゃまと言われるのは、体裁的にもあまりよろしくなかった。
 余り今迄居た部屋の前に長居をしては、出てきた父親と鉢合わせになってしまってしまう。
 そうすれば先の続きになるだけではなく、目の前に居るメイドにも飛び火する可能性があったので、とりあえず歩きながら話すことになった。

「それで、こんな所でどうしたんだ?」
「マリッタ様がお来しになられるそうです」
「マリッタ様が……」

 マリッタは隣のヴィットナー侯爵の孫娘だ。まだ婚約までは至っていないが、家を盛り上げるための政略結婚のためそれも時間の問題だろう。
 ヴィットナー侯爵家とエヴァン伯爵家(うち)は昔から仲が良く、最近はフォポールが竜騎士(ドラグーン)育成学校で忙しくしているので会う事が少なくなっていたが、マリッタとも幼馴染と言っても差支えの無い間柄だった。

 さっぱりとした性格でお転婆。同性であれば良きライバルとなったであろう人物だったが、神様はマリッタを女として生まれさせた。
 それが良いことなのか悪い事なのかはひとまず置いておいて、フォポールはどうした物かと考えた。

 ヴィットナー侯爵は父親(セルマン)とは違い、武を貴ぶ性格を持つ。その結果が孫娘(マリッタ)だが、祖父の教育が災いしてかウジウジとした性格の者を強く嫌う。またいくら味方であっても褒められた物ではない作戦を平気で用いる軍人を毛嫌いしている。

 つまり、自分の大将であるロベールとは会すことが出来ない。会う事は無いと思うが、話すことも控えておいた方が良いだろう。
 初めに彼と行動するようになったのはラジュオール子爵邸襲撃作戦の頃からだが、あの時はまるで物語の英雄譚に出て来る勇者の様な存在だった。特に演説が良く、あれほど心奮えた瞬間は生まれて初めてだった。

 だから、自分は父に反抗してまでロベール竜騎士(ドラグーン)隊に入ったのだ。彼の目指す先へ共に歩みたい。そう思いながら。
 共に行動するようになり彼の本性と言うか人間性を垣間見るようになって、それが英雄ではなく一人の人間だと思い知らされた。

 それは全く悪い事ではなく、逆に自分が何とかしなければと思わせてくれる人間臭さなので良い。
 ただマリッタは良く思わないだろう。それに伴いヴィットナー侯爵も良くは思わなさそうだ。

「すまないが、私はすぐにでも皇都に戻らなければいけない」
「えっ!? マリッタ様にはお会いになられないのですか?」
「会いたいのは山々だが、私は雫機関(・・・)による勉強会がある。この勉強会は、この領地の発展を左右する程の物だ」
「そっ、その様な勉強会に出席されるのですか!?」
「そうだ。だから、マリッタ様に会う事は出来ない。弁解は君からしておいてくれ」
「分かりました! マリッタ様には、何とか理解していただけるように努力します!」

 真剣な眼差しでお願いすると、メイドは熱にうかれたような顔つきで神妙にうなずいた。
 雫機関での勉強会は夕方から。場所は通い慣れた竜騎士(ドラグーン)育成学校の一室を借りての講習なので、今からだと着くのは早すぎるくらいだ。
 しかし、マリッタから逃げるには今を置いて他にはない。



 雫機関とは、ロベールが講師をする農業技術を広めるための教育機関だ。
 これはフォポールの勧めで始めた事で、ロベールに対して悪印象を持つアドゥラン第一皇子派の貴族の懐柔の為に始めた。
 今までは、ロベールの知る農業技術を享受できるのはクラスメイトのみとされ、他の者はクラスメイトからの又聞きとなっている状態だった。

 フォポールの調べによると、反ロベール派の人間で多くの者が口にするのは「騙された」と言う言葉だ。それは、口もはばかられる()を使った革新的農業技術を真似たところ、その多くが枯れて死滅した為にある。
 一部ではこの冬餓死者が発生するほど酷い有様となったが、その一方でロベールが行った準統治領のマシューは笑って過ごせるほど食料があり、またカタン地方方面の準男爵領地では、量こそ増えなかったものの普段よりも色艶が良くしっかりとした作物ができたと言う。

 つまりは、不確定な情報による適当な育て方によって起こった不作だ。これがキチンとした情報の元、言われた通りの方法を取っていれば餓死者どころか雪山ですら笑って過ごせる冬が来るのだ。
 その訴えによって嫌々だが動き始めたロベールだった。

「俺の講義は凄い人気だな」

 自虐的に呟き視線を覗き窓から見える教室内に向けると、そこには老若男女問わず顔ぶれがそろっていた。
 貴族服から文官風の奴。果ては軍服を着ている奴までいた。規制をしてこの人数なのだから、元がどれだけ人数が居たのか恐ろしくもある。

 この講義に参加している人の選考は、これを企画したフォポールに任せた。しかし、おかしな考えの奴は来てほしくなかったので、この講義を受けるにあたって素性調査と作文を書いてもらった。

 結果、300人居た希望者が素性調査だけで90人まで減り、作文選考で35人まで減らす事となった。
 選考基準の問い合わせが多く来たが、そこは企業的な受け答えでお祈り手紙(・・)を送っておいた。前世では炎上待ったなしの対応だが、この世界では礼儀正しいと概ね高評価だった。くっそ笑えるぜ。

「それにしても、問題なのは最前列に居るお姫様(・・・)だな」

 教室の最前列のど真ん中には、ニカロ王国第六王女のパスティナが座っていた。
 農業技術を船と交換したのだから、何の見返りもなく享受しようとする者を……いや、教えようとしている俺に対しての牽制のつもりか、きちんとしたルートで講義に参加する念の入れようだった。
 元から堆肥作りと水の重要性以外教えるつもりは無かったので問題は無いのだが、講義が始まる2時間前から最前列に陣取っているのは恐れ入る。

「そろそろお時間です」
「分かった」

 教室の覗き窓から室内を窺っていると、フォポールから時間が来たことを知らされた。
 教室に入ると静かに会話をしていた生徒たちはすぐに背筋を伸ばし、入ってきた俺へ対して目礼した。
 こうも注目された状態で話をするのは、前世で工業高校生の遠足を対象とした会社説明以来だった。

「初めまして。そうでない方も居ると思いますが、今は他の生徒の方々と合わせてください。今回、この講義を企画したのは前年から巷で広まっていた(フン)を堆肥に変える方法が間違った状態で広まり、酷い所では冬に餓死者が出ると言う痛ましい事故(・・)が発生した事に由来します。ここでは、堆肥の作り方を完全に覚えていただき、間違った事をしているにも関わらず騙されたと言わせないように(・・・・・・・・)するための講義です。私は、真剣に皆さんに教えようと思っています。真剣に受講する気が無い方は今すぐ出て行ってください」

 一人ずつ目を配っていくと、受講生の全てが真剣な眼差しで目を逸らすことなくこちらを見つめ返した。

「分かりました。そうであるならば、私は真剣に講義するだけです。ではまず、野菜を育てる為の土についてですが――」

 こうして、ユスベル帝国竜騎士(ドラグーン)育成学校の一室で雫機関が静かに動き出した。
 講義は週に一回。質問はその都度受け、講義終了後も一時間だけ質問タイムを設ける。ただし、その他の時間には一切の受け答えを拒否する事にした。

 そうしなければ、四六時中質問攻めにあうからだ。それを破った者は退講。オンとオフは大切にしたいからね。
 それと、受講者が受講できなかった者に講義する事で発生した被害については、俺は何の保証もない事を言い含めた。

 『知らない事には手を出すな』と。この他にも様々な原則(ルール)があるが、講義内容は時間を追って――つまり堆肥製造や漉き込みや作物の成長具合に合わせて行っていくつもりなので、俺の講義に沿って物事を進めていけば大きな失敗はない。
 それでも失敗するのであれば、どこかで勝手な解釈をして適当に行った事が原因だからだ。
 これに関して、文句を言ってくる受講生は居なかった。皆素直でよろしい。



 ――と考えていたのもつかの間。別な方面から文句が入った。

「なるほど……。しかし、他の貴族たちの言い分も分かる。そこを何とかして、もう少し制限人数を増やすことはできまいか?」

 すでに定員となっている雫機関の講義に異を唱えたのは、ユスベル帝国の徴税部の人間だった。収穫量が増えれば国の収益が増えるので当然と言えば当然だが。
 富国強兵につながる俺の講義に理解を示し、それに伴う教育機関――雫機関の創設も二つ返事でOKしてくれたのにも関わらず、ここへ来て俺のやり方に口を挟んできたのだ。

「そうしたいのは山々ですが、人手が足りません。それに、講義の方法が確立していない状態で裾野を広げては、再び事故が発生し今冬も餓死者が出ますよ?」
「それならば、マシューから技術を知る者を呼び寄せれば良いのではないのか? ニカロ王国にはそう言った人材が向かったと聞くが?」

 別の徴税部の人間からも声が上がった。この部屋では、徴税部の人間五名による俺フルボッコの体で話し合いとなっているので、傍から見れば営業ミスした中堅社員が役員に問い詰められている感じだろう。

「やると教えるは全く違います。それに、ニカロ王国へ向かった人間もただ理解が深かったと言うだけで、決して技術講師として育てた訳ではありません」

 ニカロ王国と俺の間で交わされた約束事は、アドゥラン第一皇子が証人となって交わされた物なので、皇帝陛下直轄の徴税部の人間は深く知らない。
 先ほど言った「理解の深かった人間」と言うのは全く嘘ではないが、必用外の――契約外の技術を聞きだされない(・・・・・・・)ように頭の回る人間を選んだのだ。

 つまりは、ただの農民ではなくこのマシューでの俺の立ち位置が確立してから半年で育て上げた腹心だ。どれほど通用するか分からないが、基本的に人当たりの良い性格なので問題を起こすことなく色々と調べてくれるだろう。

「枠が無いなら技術を書物にしたためて、それを配る事はできんのか?」
「帝国の誇る竜騎士(ドラグーン)技術を書物にしたためて、各国へばら撒けるのであれば可能でしょう。まぁ、可能であっても私はやりませんが。そもそも、話は聞いていると思いますが前年から今年にかけての冬に餓死者が発生したことは、方法を理解しないまま又聞きで適当な事をしたからです。また同じ事をして同じことが発生しても私は責任を負えません」
「なら、今回の講義に参加出来た者の選考基準を教えてもらいたい。選考の基準が分からなければ、こちらとしてもそれ相応の人材を送れないと言われて困っているんだ」
「選考の基準は()密です。そもそも、必用としているのであれば必然と出て来る回答での選考なので、落ちた方々はまだ(・・)必要が無いと思っています」

 下手に出ることの無い拒絶に、徴税部の役人も皆しかめっ面になった。
 ここで強固な姿勢に出ないのは、俺が皇帝陛下から直に言葉を貰い、アドゥラン第一皇子とニカロ王国第六王女と面識があり、ロベリオン第二皇子と懇意にしている事が大きい。
 そうでなければ、今ごろ侯爵家の人間では無い事をについて強く突かれているだろう。

「君の言い分も分かる。――が、こちらにも言い分はある。君は技術指導を行うための組織……え~と、雫機関だったかな? それを作る理由の一つに富国強兵とあった。食料事情を改善すれば餓死する者は居なくなり、十分な食事をとる事で体つきが良くなり仕事量も増える……と。しかし、フタを開けてみればどうだ? 講義を受ける事のできる者は少なく、これではいつ君の話にあった事が実現できるのか分かったもんじゃない」
「それは、軍や国家機関でも同じことが言えるのではないでしょうか? 有象無象を全て一緒くたにしては進むものも進みません。まずは足並みの揃う者を集めそれを指針とし、後学の手本とするのが基本ではありませんか?」

再び徴税部の人間は黙った。間違った事を言っていないが、若造に言われては癪に障ると言う顔が伺えた。

「それに、ニカロ王国との協定がありますし、そもそも知的財産なのでそれを何の見返りもなく無償で放出している時点で国に対して損は無いと思いますが?」
「ならば、無償でなければ枠を増やすのか? 増やさないであろう? そもそも、そんな技術があるあらなぜ先に国に開示しない? 徴税部(われわれ)に任せておけば、素早く広く技術を浸透できたはずだ。今からでも遅くは無い。その技術を我々に渡しておいた方が国の為になるんだ」
竜騎士(ドラグーン)候補生が、(クソ)を土に混ぜれば土壌が良くなるなど言って、貴方がたはそれを信じる事が出来ましたか? 広く素早く技術を開示し、それに伴い失敗が多くなり今回の冬より大量の餓死者が出た場合、その責任の所在はどこになるのですか? まさか、それを思いついた私とは言いませんよね?」

 執着地点の見えない平行線に辟易としていると、徴税部の人間で一番年かさな男が盛大なため息を吐いた。

「今日の所はこれで終わる事にする。君は、早急に農業技術を広める事ができる講師を用意しておくように」

 言い逃げと言っても過言ではないほど、その男は席を立つとさっさと部屋を出て行った。
 言いたいことを言うだけの、全く実りのない話し合いとも言えない場だったが、これで当分の間、徴税部からとやかく言われる事は無いだろう。
 あるとすれば、雫機関の講義に参加できなかった貴族達からだろう。



「ロベール様! あぁ、良かった」

 皇城の敷地から出て来ると、駆け寄ってくる男性が居た。
咄嗟に剣へ手が伸びそうになったが、駆け寄って来たのがマフェスト商会の人間だと言う事を思い出すとギリギリの所で止める事ができた。

「何か問題でも?」

 マフェスト商会の人間にしては珍しく焦っており、若干ではあるが顔色も悪かった。

「磁器製造所へ物資を運ぶための商隊が襲われました」
「なに?」

 ユスベル帝国で珪石が採取できるところは限られており、マフェスト商会は俺から磁器製造についての話が来てから直ぐにその周辺の抑えにかかった。
 今の所、露天掘りができる場所は3ヶ所と限られており、その3ヶ所とも帝国の所有物だ。

 これはアドゥラン第一皇子がニカロ王国へ技術交換留学に行く際に発せられた所有宣言で、これにより珪石採掘地で何かしらが起こると予想した貴族のお抱え商人たちがこぞってその採掘地に殺到した。
 マフェスト商会はやや出遅れた方なのだが、水力を使用する為に川の近くへ陣取る事を優先したので問題なく支店を置くことが出来たそうだ。
 まだ磁器フィーバーは起きていないので、カグツチ国と同じ開拓の域を出ない土地であるにもかかわらず、多量の荷物を運びこもうとしたのが原因らしい。

「被害は?」
「幸い死者こそ出ておりませんが、職人の多くが負傷しました。その為、あちらへ向かう職人たちが居なくなり、他の職人を集め様にもすでに憶測と言う形で話が広まっているようで希望者が全く出ないようです」
「くそ……、こんな時に野盗か……。製造所で使う道具は大丈夫だったのか?」
「はい。そちらは皇都(こちら)で作り、向こうで組み立てるだけにした状態で運ぶつもりだったので、今回の荷には積み込まれていません」
「それは良かった」

 職人には悪いが、それは俺達にとって不幸中の幸いだった。
 まだ下調べと言う段階の珪石採掘地にあって、他の商会は自分達の支店を作るための土地の確保や、情報が入り次第流してもらうための布石の準備段階であるにもかかわらず、マフェスト商会はすでに何かを作るための施設を建てる準備をしているので話に登ったら大変だった。

「今まで、あの辺りでは野盗の話など聞いたことは無かったのですが」
「ここ最近、活気づいてきたそうだから野盗も寄って来るだろう」
「そうかもしれませんが、規模も大きく対応した傭兵が言うには練度はそれなりに高かったと言っていました」
「兵士崩れか? にしても、最近戦争があったのはあのカタン砦の一戦だけだし、ユーングラントとは結構前だしな……」

 その時から野盗として活動していて、そいつらが珪石採掘地へのルート上へ流れ着いたと言えばそれまでだが。

「あの、それでロベール様……」

 言いにくそうに口を開くマフェスト商会の人間。

「どうした?」
「あの商業組合発足から、我々マフェスト商会はロベール様の庇護下に置かれる事となりましたが、今回の一件についてロベール様から何らかの援助をしていただけるのでしょうか?」
「あぁ、なるほど」

 カグツチ国を本拠地とする商業組合。それを発足する上で、まだ形を成していない存在を守るために俺が後見人になった。
 そうすることで他の商会は手が出しにくくなり、貴族からもおいそれと手は出されなくなる。

「任せておけ。こちらからは、俺の竜騎士(ドラグーン)隊を出す」
「ありがとうございます」

 細かな状況に着いてはまた後日話し合う事になった。
 ラジュオール子爵邸襲撃作戦後、ロベール竜騎士(ドラグーン)隊にとって初めての戦闘になった。
3月16日 誤字修正しました。

5月17日 アシェナをマリッタに改名しました。
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+注意+
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