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竜騎士から始める国造り 作者:いぬのふぐり

領地開拓編

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商業組合発足

早く書きあがったので、投稿です。
ちょっとくどいかもしれないので、注意してください。
 学生寮。そこにある大部屋が俺の部屋なのだが、そこには俺以外にももう二人(・・)ほど住んでいる。
 一人はメイド兼護衛のミナだ。そして、もう一人は大鹿(ゴナーシャ)の一員のミーシャだ。

 昨年末に行われたラジュオール子爵邸襲撃作戦時に、大鹿(ゴナーシャ)からミーシャを含む3人の狩人を助っ人として借りてきた。
 山育ちの身軽な動きをする彼らは室内戦闘でも威力を発揮し、襲撃と拉致に一役買ってくれた。もちろん全員無事に帰ってきている。

 臨時の傭兵扱いとして雇いっていたので契約金も支払終え、三人は帰路に着いた。
 その際、ミーシャを除く2人は山での生活に必要となる物資をしこたま買い込んで帰っていたのだが、ミーシャは物欲のままに契約金を使い込み、予想通りと言うか山へ帰って数カ月後には皇都に再びやって来ていたのだ。

 いちど皇都での便利な生活を味わったもんだから山に帰ってから狩りをする毎日に飽きて、最終的には親と喧嘩をして飛び出してきたらしい。お蔭で大鹿(ゴナーシャ)での俺の評価は最悪の一言に尽き、族長の娘を(たぶら)かした悪魔などと言われているようだ。

 皇都に居る時からミーシャは将来的に山を出て、皇都かその周辺の近代化された町に住むだろうと思っていた。
 数日間ではあるが皇都で生活する際に、ユスベル人との摩擦を防ぐために町に合わせた服を着せていたのだが、他の二人は頑なに大鹿(ゴナーシャ)の飾りや装飾を付けていたのに対し、ミーシャは進んで皇都で流行っているお洒落着を着て楽しんでいた。

 その為、ミーシャは垢抜けた感じになったのに対し、他の二人はカブレた田舎もんになってしまった。
 しかし、皇都に来たは良いが今まで大鹿(ゴナーシャ)でやってきた仕事と言えば狩りくらいで、翼竜(ワイバーン)に乗る事はできるがドラゴンと運用方法が違うため皇都防衛にも役に立たない。それ以前に、愛翼竜のナハクックは村に置いてきたらしく、皇都防衛どころか狩りですら役に立たなくなっていた。

 働きに出た事もあったが、肉体労働はその力から全く苦では無かったそうだが、文化の違いから同僚たちのとのイザコザが発生して辞める事となった。このままでは本人にその気はなくともチンピラになってしまう可能性があったので、皇都へ引き込んだ手前見捨てるわけにもいかず俺の護衛として寮に住まわせている。

 これからの生活が大変――と思いきや、ところがどっこい言えばちゃんと聞くので問題なかった。
 そのイザコザが起きた仕事場が、「アレ、ソレ、コレ、ソッチ」といった抽象的かつ適当な指示しかしないうえ、同僚からは新人(ミーシャ)に対してイビリをしていたからだ。
 悪い慣習ではあったがこの世界では当たり前の事だった。だが、山出身のミーシャには関係ない話であり、かなり我慢したようだが最終的には喧嘩になった。
 結果はミーシャ圧勝。しかし、仕事場からはクビになるという事件となった。

 残念ながら犯罪でも何でもなく、あるところにはある程度の事だったので特に罰する事ができなかった。
 遠まわしにその商会を潰す事も出来たが、無暗に潰しては失業者が出てしまい、それに比例して浮浪者が増え犯罪件数が増加してしまうので、何もアクションを起こすことなく終了となった。
 その商会にはムカついたが、そのお蔭で適当な性格だと思っていたが実は言った事に対して素直に行動し、他者に――困っている人に親身に話しかける事ができると言うミーシャの魅力を発掘することが出来たので、終わりよければすべて良しと言う事で飲み込んだ。

「失礼します」

 ノックと共に入って来たのはミナだった。

「マフェスト様がいらっしゃいました。二階の談話室でお待ちです」
「分かった。ミナはお茶を頼む」
「お茶はアムニット様が張り切っていますが?」
「じゃあ、茶菓子を」
「そちらもアムニット様が……」
「――了解」

 そりゃ父親のカナターンが来れば、娘のアムニットも来るだろうな。こんな時くらい休めばいいのに、そんなにお茶が好きなのか。



「カナターン様、お久しぶりです」
「御久しぶりです、ロベール様。当商会の船乗りから、カグツチ()の目覚ましい発展は聞き及んでおります」
「これも、マフェスト商会の船あっての発展です。いやらしい話ではありますが、アムニットさんと知り合えて良かったと思います」

 ビジネスマン的な笑みを浮かべていたカナターンだったが、アムニットの名が出るとその笑顔に若干ヒビが入った。クラスメイトとは言え、女性の――それも娘の名前を軽々しく出すのはNGらしい。気を付けねば。

「そそそ、そう言っていただけると愛娘(・・)のアムニットも報われるでしょう」

 照れているアムニットとは対照的に、カナターンは今にも魂が解脱(げだつ)しそうな顔になっている。

「と、ところで、本日のご用件はニカロ王国の磁器技術に関しての話ですが、本当に当商会に卸していただいてよろしいのでしょうか? これは、アドゥラン第一皇子が技術交換で得た技術と聞いていますが?」

 アドゥラン第一皇子が発案し進行している、ニカロ王国との技術交換留学。この話は商人の間でも話のネタとなっており知らぬ者は居らず、また新しい商売の種として先行きの気になる話だった。

「技術交換留学で得られる技術内容は、まだユスベル帝国に入ってきていません。今からカナターンさんにお話しするのは、マフェスト商会の商人が見てきたニカロ王国での技術を元に私が考えた(・・・・・)磁器技術です」
「考えた……ですと!?」
「いえ、磁器その物ではなく、磁器を作るために必要な道具を作り出す技術ですね。私自身、磁器の原料となるのは珪砂くらいしか知りませんが、人の代わりとなる道具は考えだす事ができるので」

 初めはイスカンダル商会の人間を送りこみたかったのだが、まだ新しい商会で規模も小さく、所属している商人が少ないにも関わらず、カグツチ国で必要とする物資を一手に引き受けさせているので余力が無いのだ。
 そこで、アムニットに頼み父親が運営するマフェスト商会から腕利きの商人を農業技術者の見届け人としてニカロ王国に送りこんだ。

 ニカロ王国は客人でもある農業技術者を受け入れる為に、マフェスト商会の商人に住む家から仕事先、そして肝心の磁器製造所のさわりだけを見せてくれたそうだ。
 帰ってきてから、商人が見た風景を絵に起こしてもらったのだが、マフェスト商会の商人は俺が思った以上に優秀で、必要とする全てを風景として描いてくれた。

 そこには、明らかに外部向けの観光視察(・・・・)用の製造所が描かれていたのだが、そこは全く問題ではない。それらの風景と案内人の話から、アドゥラン第一皇子が磁器の何を技術として得るのかが見えてきた。
 その観光視察用の窯はユスベル帝国と同じ単一釜だったが、別の紙には山からたくさんではないが煙が昇っており、その煙の説明には炭焼き小屋とあった。
 商人によると、他国の炭焼きにも何かヒントがあるのではなかろうか、とニカロ王国の案内人に炭焼き小屋を見せてもらえるようにお願いしたのだが、危ないので客人を入山させることはできないと丁重に断られ遠目からしか見せてもらえなかったそうだ。

 そこから導き出された答えは、元の世界で社会の授業で必ずやる登り窯と言う存在だ。山の斜面に長い窯を作り、時代によっては中を幾つかの部屋に分けられていたりする構造をもつ。
 一つずつ部屋に火を入れていくのだが、一番目の窯に火を入れると、二番目の窯に余熱が伝わり乾燥が促進される。二番目の窯に火を入れれば三番目の窯に余熱が伝わり同じく乾燥が促進され、一番目の窯にも余熱が伝わり急激に冷える事によって発生する磁器の破損を防ぐ余熱処理が行われると言う寸法だ。

 陶器も磁器も材料が違うだけで製造方法は同じはずなのに、どこに技術交換の要素があるのだろうと思っていたのだが、なるほど窯技術かと変に感心した。
 他にはロクロ(・・・)だろう。絵には手びねり(・・・・)での制作風景が描かれていたが、パスティナからプレゼントとして貰ったコップは明らかにロクロを使っての製品だった。
 ならば、こちらとしてはいち早く登り窯を作ると共にその使用方法を確立し、足ではなく水車動力によるロクロを作ると共に、型を使用した型打ち成形を使えば安定した製品供給ができる。

 合わせて、この風景画には描かれておらず、また商人が資料として買ってきた磁器にも無かった鋳込み成形で細かな細工の施された人形などの製品を作り出せば一大事業だ。
 まぁ、そんな事を急にやってしまえばニカロ王国と戦争待ったなしだけどね。その前に御上に止められるだろうけど。
 いいじゃない。面白いじゃない。

「では、それらの方法はニカロ王国からの技術供与ではなく、自らの力で得た物だと……!?」
「技術と言う物は応用で何とかなる物が多くあります。人の必要とする動きを考慮し機構を考えると自ずと答えが見えてきます。このように――」

 見せたのは、登り窯と新しく作る磁器製作所の予想図とそこに使用する機械の原案及びそ設計図。水車などの巨大な木造物の設計はやった事が無いので、強度判定はプロにお願いするにしてもほぼ修正なしで使用できるはずだ。

「これは……」
「失礼します」

 カナターンは渡された設計図を驚きながら傍に控えていた秘書の様な男性に渡した。
 秘書は磁器製造所の予想図と道具の設計図を照らし合わせて行き、それが本当に可能な物なのか判断するように数字を指でなぞりながら判断していった。

「これは、素晴らしい物です。今まで見た設計図の中でも群を抜いて分かり易い」
「ありがとうございます。ですが、畑が違うもので最終的にはプロに修正しながら作っていただくことになると思いますが」
「これならば、その修正もすりあわせ程度で問題ないと思います」

 その秘書の言を信じると、細かく交差の描かれた設計図でも読み取れる人間がマフェスト商会の囲う人間には居る様だ。そもそも、この秘書自体読めているのが驚きだが……。

「ところで……」

 と、設計図の細かさに驚く秘書に驚いている俺へ、カナターンは静かに聞いてきた。

「これほどの一大事業を、自分ではなくなぜ私にやらせようと思ったのでしょうか?」
「本当なら自分でやりたかったのですが、カグツチ()にマシューでの生産管理など多忙の為、手が全く足りていない状況です。ただし、その程度であればマフェスト商会に頼むような――敵を育てる様な事をしたくはありません」
「敵……ですか。まるで商人の様な事を仰いますね」

 ()と発言したことにより、カナターンはもとより秘書も顔が強張った。この場で(こちら)側ではない人間で表情が変わらないのはアムニットくらいだった。

「商人……えぇ、確かに商人ですね。私は貴族ですので、商人になろうとは思いません。ですが、将来的に貴族と言う存在だけでは食っていけない時代が来ます。それを考えると、貴族として踏ん反り返っていては足をすくわれ転んでしまう。転ぶだけなら立ち上がるだけですが、転んだあとに落っこちては目も当てられません」
「不躾な質問で大変恐縮ですが、ストライカー侯爵家はユスベル帝国の国議会にも参加できるほどの有力貴族。その嫡子であり皇帝陛下の覚えもめでたいロベール様が何を恐れる物があるのでしょうか?」
「この世の存在全て、と答えられたら哲学的に恰好が良いのでしょうが、直近の恐ろしさで言えば商人でしょうね」
商人(われわれ)……ですか? 申し訳ありませんが、おっしゃられている言葉の意味が私には理解が……」

 俺の言葉の裏を考えようとしているが、その考えが思いつかないようでカナターンは答えに窮し詰まってしまった。

「それは、貴方が商人である前に皇帝陛下を敬うユスベル帝国の一員だからです。確かに、今現在ではそのような考えに至らないと思いますが、私の予想では今後、貴族の力が強くなり国の力がそれらを下回る時代が来ます」
「そんなまさか!? ですが、その話だと貴族が問題であって商人は関係ないように思いますが……?」

 実際、今現在でも貴族が力を付けてきて皇帝陛下の意に沿わない発言をしている者も多く居る。この「意に沿わない」と言うのが皇帝陛下の我がままではなく、国として必要な事であっても従わない――のらりくらりとかわす事が問題なのだ。

「その次に台頭してくるのが商人です。貴族に抱えられている商人は大きな(チカラ)を持っています。大きな力を付けた商人は貴族の庇護を必要としなくなり、貴族は名前だけを商人から必要とされるだけの存在に成り下がります。その貴族達も、現在は自前の兵力を有していますが、今後は人数を調整できる傭兵が主力となっていくでしょう。今は傭兵でも誇りだのなんだのと言っている輩が多く居ますが、主義主張のない傭兵は金払いの良い方を雇い主として選びます。自尊心(プライド)が高く戦に名誉を求める貴族は、そうではない傭兵を上手く扱うことが出来ず、商人は利益を求め必要な傭兵に必要とするだけの金を上手く払う事が出来ます」

 いつくらい先になるか分からない未来の話に、この予想が本当に起こりうる事なのかそれぞれ考えるカナターンと秘書。
 信じられない――信じたくない話ではなるが、その予兆と言うか懸念材料は自らが孕んでいるいる事をカナターンは思い至った。

 自分が偽物貴族と他の貴族から誹りを受けながらも名誉士爵位を買ったのは、商売をする上で箔の他に、自分にはこれだけの(カネ)があるのだと周囲に知らしめる、おいそれと喧嘩を売られないようにするための行為だった。
 この爵位を買うに至った経緯は、勢いを伸ばしている自分を疎ましく思った商会がマフェスト商会を潰すように動き出したからだ。しかも、その中には貴族も多く存在し、今思い出せばよく生き残ったと思うような状況だった。

 だからこそ、貴族に頼らず自らの力だけで商会を作り上げたいと考えたカナターンは貴族に負けない力を付ける為に商会を大きくし爵位を買ったのだ。
 ロベールの言っているのは、この「貴族に負けない」という部分にあるとカナターンは思った。それは多くの商人・商会が抱えている思いであり、巨大化した際には見返してやる(・・・・・・)言う危険をはらんでいるのだから。

「では、ロベール様はそんな商人たちに対抗する為に商人の様な事をしていらっしゃると言う事ですか?」

 今は子供もできて安定した地位に就くことが出来ているカナターンだが、一歩間違えば危険な思想を持っていたのだと背筋が寒くなる思いでロベールに聞き返した。

「いえ、求むのは私個人の利益ではなく帝国の安寧です。私は私が受け持つ事となったカグツチ領に商業組合を作り、強弱問わず商会・行商人を庇護下に置き大商会や貴族から守る事を倫理として持ち、迎えたいと思います。この商業組合の存在意義は、商会を守るだけではなく商会の在り方として道標となる事で力を持った商会の暴走を防ぐことを目的としています」
「では、この磁器技術に関してはその商業組合に入る事を前提として渡す事ですか? まだ形もハッキリしておらず、かつ理想でしかない物に対しての」
「そうです。まずは大商会であるマフェスト商会が入る事で他の商会にとっては「危険な組織ではない」と理解してもらえると思っています。できれば、支店の一つでもカグツチに置いてもらいたい。それの前金として渡したいと思っています。もちろん、お断りしていただいても構いません」

 「その場合は、磁器で得た利益の2割を頂きますが」と付け加えたが、カナターンは乾いた笑いを返しただけだった。
 国家機密級の書類を見せておいて、それを作り出した貴族の話を蹴って自らの主力商品としても利益の2割を払うだけで目を瞑ると言われても、それを100%信じる事なんてできないだろう。もちろん俺だってできない。

「しかし、そうであるならばこの設計図こそ国に渡すべきでは?」
「国家主導では必ず貴族から横やりが入ります。技術は散り散りとなるか、それとも一強となるかは分かりませんが、互いに足を引っ張りあうようになる事は確実です。であるならば、それほどの技術を持っていながらも驕らず国の為になるように動く商会が存在すれば、それに追随する商会も多く現れます」
マフェスト商会(われわれ)にその先頭に立て、と?」
「そこまで難しく考える事はありません。「我々は、これだけの技術を自らで作りだす事が出来るにも関わらず、驕ることなく国の為になるように働いている」と言っていただけるだけで構いません。その代わり、私だけでは守り続ける事が出来ないので体力と伝手のあるマフェスト商会に頼むのです」

 最後まで聞き終えたカナターンは悩んだ。磁器技術に関して話があると娘から連絡があり来たのだが、その中身は恐ろしいまでの壮大な計画だった。
 ただの商業組合だけの話を聞いていれば子供の夢だとお土産だけ置いて帰る事が出来たが、渡された道具の設計図はマーロウも感心するほどのできだった。間違いなく使えるとみて問題ないだろう。
 それだけの物を出せる力を持っている人間――貴族が言う話ならば途端に現実味を帯びる事となる。しかし、行うには問題が山積みだ。

「仮に、商業組合が成立したとしてロベール様の――ストライカー侯爵様の息のかかった組織になる事はありませんか? せっかく商人が商人の為に作られた組織であっても、それが貴族様の操る組織となっては今までの物と同じになってしまいます。それに、磁器技術はアドゥラン第一皇子がユスベル帝国の竜騎士(ドラグーン)の技術と交換することで得る技術です。それを一介の商会が取りあつかっては目を付けられるどころの騒ぎではありません」
「前者に対して問題は無い、と私の口から言う事しかできません。実際、問題なく運営できるようになったら私はトップから退きます」
「そんな話が……いえ、申し訳ございません」

 秘書マーロウが「信じられません」とつなげそうになったところで、カナターンが制す事で切る事が出来た。熱くなっているのか、相手が貴族であることを忘れた言葉づかいになっていたのだ。

「その通りです。信じられないのが普通であり、一から十まで何も考えることなく純粋に信じられては、こちらがそちらに対して本当に信じられるのか疑ってしまわないといけなくなりますからね。なので、この事に関しては監視していただいて構いません。むしろそうして頂いた方が皆さんも安心して過ごせるのではないでしょうか?」

 笑って答える俺に対し、首がつながったと安堵するマーロウ。

「後者に関しては、まずは技術を確立する事を前提とし大きく動かなければ問題はありません。国が技術を交換する以前に、ユスベル帝国でも陶器を作る文化は在ります。そこから派生したと言えば、帝国から問いただされたとしても文句は無いでしょう」

 その為には、ニカロ王国の様に観光視察用の製作所を作る事になるが。

「ですが、先にも言った通り帝国に全ての技術が行ってしまっては、我々で培ってきた全てが自分の利益のみを欲する強欲貴族に吸い取られてしまいます。帝国の御旗を汚さぬよう、かつ自らの利権を守るように繊細な行動が要求される事業ですが、どうか私に力を貸してください」

 テーブルに頭を付けるか付けないか位まで頭を下げた。それを見た瞬間、カナターンとマーロウは大慌てで立ち上がった。

「ッ!? お止め下さい、ロベール様! 我々の様な者に頭を下げるなど、貴族様のやって良いような事ではありません!」
「これが私の気持ちであると共に、お二人に対して今できる最大限の意思表示です。今の私にできるのはこのくらいしかありませんので……」
「だとしても、これはやり過ぎです。えぇ、えぇ、やらして下さい。これはまさに天啓。私が昔から望んでいた在り方(・・・)でもあります。他の商会にはできない、いや、やらせたくない事業です。共に国を影ながら支える(・・・)事が出来るように頑張りましょう!」
「はい! 共に国を作って(・・・)いきましょう!」

 カナターンは感激しているのか目尻に涙を浮かべながら俺の手を握った。その手は熱く、カナターンの心そのものを映しているようだった。


――カナターン 馬車にて――

 自分達は娘のアムニットに会いに来たと言う事になっているので、ロベールとは室内で別れを済ませた。
 その後、竜騎士(ドラグーン)育成学校から皇都にある別邸までの帰り道の馬車の中、今日ロベールと話した事に付いて秘書のマーロウと話し合った。

「彼の様な人を「才ある者」と言うのでしょうね。私には壮大過ぎて、思っても口に出す様な事は到底できません。もちろん、自分が貴族だったとしてもです」

 マーロウは久しぶりに会ったロベールをそう評した。前評判が悪すぎたストライカー侯爵家の長男だったが、竜騎士(ドラグーン)育成学校に入ってから成長したのか帝国人として、国士として素晴らしい人物となっていると感じた。

「あぁ、そうだな。ロベール様の言った事については、私も感じていた事が多く含まれていた。確かに来る未来の話。帝国の未来を思い夢想する者は数多く居れど、彼の様に確固たる意志と裏付けを持って話し合いに臨める人間は数少ないだろう」

 学生でありながら国の為に従軍し、戦果を挙げたと言うのは良く聞く話だ。そこが、彼の思想の――国士としての在り方を裏付ける要因となった。

ご実(ストライカー)家やイスカンダル商会には申し訳ないが、今回の商業組合の先陣はマフェスト商会(われわれ)が切らせてもらおう」
「そうですね。あれだけ期待をかけていただいたのです。これは絶対に成功させなければいけません」
「商会に戻ったらすぐに仕事の振り分けを始める」

 強い意志を感じさせる瞳で、カナターン・マフェストはまだ見ぬ帝国を見ていた。


――ロベール 私室にて――

「それでは、お茶を淹れてきますね」
「あぁ、頼む」

 アムニットには申し訳ないが、カナターンと話し続けていた為、折角淹れてくれたお茶を飲むことが出来なかった。
 残念そうにしていたが、父親と話していては仕方が無いと言った様子でお茶を持って帰るアムニットに謝りつつ部屋に帰り、再びミナにお茶を淹れてもらうように頼んだ。

「ふぅ……」

 静かになった部屋で一息つき、これからの事を考えた。
 磁器技術に関して人手が足りないと言うのは本当だ。やろうと思えば仕事を振り分ける事が出来るのだが、イスカンダル商会は休みなしとなってから5ヶ月以上経っている。

 それに見合う給金を出しているのだが、これ以上給金を弾むのも難しく、またこれ以上働かせてはそろそろ倒れて過労死する人間もでそうで怖かったからだ。
 ちなみに、商業組合は本気で作ろうと思っているが、ユスベル帝国を思ってなんて微塵もない。磁器技術をマフェスト商会に渡し、帝国が技術交換で得た磁器を売り出すとともに、そこで自前の技術を使って作った磁器を安く売ると言う横やりを入れようと思っただけだ。

 もちろん本気でやったら前に言った通り戦争になるので、ちょろっと程度だが。
 これを行う理由はカグツチ国を発展させると共に、ユスベル帝国のアキレス腱にするためだ
 カグツチ国に商業組合の本拠地を置くことで物流の拠点とし、カグツチ国を商業都市として確固たる存在にする。輸出入の拠点となり、初めは中立の立場を守っていれば他国からも簡単には手を出されなくなるだろう。
カグツチ国(ここ)を潰されてはユスベル帝国にとって大いなる損失になると分からせることで、この国を守る他ないようにするのだ。

 しかし、これらは商業組合を作る理由でしかない。
 磁器技術をロベリオン第二皇子に渡せば、ロベリオン第二皇子はその立場がさらに強くなるが、それをしなかった理由は天駆ける矢(ロッコ・ソプラノ)で俺が揃えても良いはずだった兵力がたったの10人に減らされたからだ。

 兵員の選定に入ったころに突然横やりが入ったらしく、ロベリオン第二皇子からは申し訳なさそうに言われたが、それを躱すのがお前の役割だろうと憤ったものだ。
 だからこれはそれに対する嫌がらせだ。ただの自己満足とも言えるが。
 とにかく、この商業組合が成功すればカグツチ国は少なくとも簡単に倒されるザコ国になる事は無い。その為にマフェスト商会には頑張ってもらわないといけない。
ミーシャ=ユスベル帝国から蛮族と呼ばれている大鹿(ゴナーシャ)一族の一人。
カナターン=アムニットの父親。名誉士爵。
マーロウ=秘書であり、アムニットが関わると周りが見えなくなるカナターンをいさめる立場にいる。

3月4日 誤字修正、文章の書き足しをしました。合わせて、後書きの話を活動報告へ移しました。
3月5日 誤字脱字修正。文章の編集を行いました。
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