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竜騎士から始める国造り 作者:いぬのふぐり

西国境建領編

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ロベールと呼ばれる子供

「ふぅ……」

 ストライカー侯爵は疲れに霞む目をほぐす様に、人差し指と親指で目頭を押さえながら唸った。

「ご子息の晴れ舞台に、心配で眠れませんでしたか?」

 それを見た隣に居た貴族が声をかけてきた。この貴族もストライカー侯爵と同じように、息子がカタン砦防衛戦の折り活躍した者の一人だった。

「それもあるが、主な原因はこの日の為に急いで仕事を終わらせて、そのまま飛んできたからだ。私の領地は静かで過ごしやすいが、皇都まで急いでくるとなると些か距離が離れており歳をとってからでは少々辛い物がある」

 歳とは言っても、ストライカー侯爵は30代半ば。話しかけてきた貴族の息子は末の子らしく、親の年齢は50近かった。その歳からすれば、ストライカー侯爵の言う歳のせいにされても笑うしかないのだ。

 今回の表彰式にはロベリオン第二皇子が新設した天駆ける矢(ロッコ・ソプラノ)と言われる軍隊が大きく活躍しており、ロベールもその天駆ける矢(ロッコ・ソプラノ)の一人として参加したとココに来てから聞かされた。

 その天駆ける矢(ロッコ・ソプラノ)では今までの竜騎士(ドラグーン)だから、騎馬騎士だからと言う垣根が存在しないらしく、能力のある者を取り立て仕事を与えていくというのが基本理念と言われている。

 だから、この控室には貴族ではあるが今まで見たことの無い貴族たちが多く居た。その全ての貴族に言えることだが、皆が皆、緊張の面持ちで出されている果実水すら喉を通らないような顔をしている。

「(いやな物だな……)」

 国の為に働くのは良いことだが、皇宮に新しく貴族が大挙して訪れるのは今まで培ってきた暗黙の了解が崩れそうでストライカー侯爵は恐ろしかった。
 それは他の、古くから国の為に働いている貴族も思っているようで、ここに居る良く見る貴族の中には新しく来た貴族を睨みつけている者も多かった。

 かと言って一人ずつ言い含めて歩くのも自分の性分でもなく、かつそれでは暗黙の了解ではなくなってしまう。
 たぶん、新しい貴族は今回だけなので今は良いとする。これからも随時参加してしまうのであれば、その時はその時で言い含めておけばよいだろう。

「失礼します。ストライカー侯爵様」

 謁見控室に控える新しく見る貴族たちの事を考えながら果実水を飲んでいると、ストライカー侯爵に声をかける竜騎士(ドラグーン)育成学校の生徒が居た。

「何だ?」
「私は、ストライカー侯爵様のご子息であるロベール様のそば仕え(・・・・)をさせていただいているミナと申します」
「ほう、お前が名誉士爵の娘か――」

 前に調べさせたところ、息子(ロベール)はメイドの代わりに名誉士爵の娘をメイドとして使っていると言う報告があった。
 歳は若いと言っても息子よりも大分年上だった。入学年齢がそれほどきちっとしていない竜騎士(ドラグーン)育成学校は、一度兵士学校に通った後に編入する事もあるのでそう言った後入学の生徒だとあたりをつけた。
 だから、ストライカー侯爵も名誉士爵の娘――と思っているミナの事をそういった物だと理解した。

「あっ、いえ、私はそのような名のある――」
「貴様、名は何という?」
「――ッ!? ミナ、と申します」
「姓は?」
「すでにありません」
「良い心がけだ」

 ミナの答えに、ストライカー侯爵は満足げに頷いた。
 侯爵家の息子にそば仕えに士爵の娘が居るとなれば、自分の家の地盤固めとしか見えなかったが、姓を捨てる覚悟――すでに捨てた状態で仕えているのであれば文句は無かった。

 そもそもミナは奴隷になったので姓を捨てざるを得なかったのだが、それをストライカー侯爵は息子(ロベール)に仕える為だと勘違いしたので上手くはまった状態となった。

「それで、何の用だ?」
「はい。ロベール様よりお父上のストライカー侯爵様へ言伝を預かり来ました」
「分かった。話せ」
「はい。では――『後で重要な、家の根幹を揺るがすほどの重要なお話があります。なので、私の姿を見ても絶対に驚くような事はせず、話を聞いていただけるようにお願いします』」

 昨夜、一言一句間違えないように覚えさせられた言伝を言い終えると、ミナは一仕事終えたと言わんばかりに一息ついた。
 しかし、ミナとは対照的にストライカー侯爵は意味が分からんとばかりに眉を寄せた。

「どういう意味だ?」
「そこまでは聞かされていないので、私には何とも……」

 とりあえず伝えてくれれば良い、とだけ言われているので、ミナにはそれ以上の事は言えなかったし、この話の意味も分からなかった。
 ストライカー侯爵も、ミナからそれ以上の意味を聞きだす事が出来ないと判断したのか、「下がって良いぞ」とぞんざいに声をかけて下がらした。

「どういう意味だ……?」

 口の中でごちていると、皇宮の案内役が控室に入ってくる事で思考が停止した。
 そろそろ始まるようだ。



「ロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカー。そなたは――」

 つらつらと皇帝陛下は、ロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーと呼ばれている子供(・・・・・・・・)にお褒めの言葉をかけている。
 敵地へ少数で攻め入り、最小限の被害で子爵を拉致し戦争を早期終結へと導いたと言う輝かしい功績を褒められているにも関わらず、そのロベールと呼ばれている子供は眉一つ動かすことなく、堂々とした様子で(こうべ)をたれている。

 他にも敵竜騎士(ドラグーン)と一騎打ちして勝った者等も居たが、それらはその他大勢という括りで、宰相経由で褒められていたが、ロベールと呼ばれている子供は皇帝陛下の目前まで呼ばれ皇帝陛下直々に賞賛の言葉を贈られている。

 それを見ている貴族の一部は異例の事に驚くと同時に、これだけの武勲を挙げれば納得と言った感情と同時に恨めしそうに見ている者も多かった。
 しかし、その中でも今にも倒れてしまいそうなくらい驚いている人物が居た。

「(だっ、誰だあいつは!? なぜ、あんな奴が息子(ロベール)と呼ばれている! 私の息子はどこに行った!!)」

 心の中で叫びながら、ストライカー侯爵はその他大勢の中に息子を探すが、どれだけ見渡しても見つけることが出来なかった。

「(なぜ誰も気づいていない!? あれは、本物のロベールではない! おかしいと思わないのか!!)」

 目が血走り、顔が真っ赤に染まっていくストライカー侯爵だったが、陛下の言葉に耳を傾けているこの場で気づく者は誰も居なかった。
 そもそも、ロベールは夜会に出席することがほとんど無かったためその顔を知る者は少なく、また第二皇子を始め竜騎士(ドラグーン)育成学校の関係者は、現ロベールはストライカー侯爵が送り込んだ人間と言う認識だったので誰も不思議に思わないのだが、それを知らないストライカー侯爵は自分がおかしくなってしまったのではないかと言う錯覚に陥った。

 瞬間、ここへ来る前の謁見控室で会ったロベールから言伝を持ってきた士爵の娘(・・・・)が言った事を思い出した。
 ――後で重要な、家の根幹を揺るがすほどの重要なお話があります。なので、私の姿を見ても絶対に驚くような事はせず、話を聞いていただけるようにお願いします――

「(このことかッッ!!)」

 あの時は何を言っているのか分からなかったが、今この場になれば理解できた。
 言を弄しあざ笑われているような気がしてストライカー侯爵は憤るが、それと同時にこの異様な場の雰囲気に自分の息子が何か仕出かしてしまったのではないかとも考えた。

 この学校へ来る前は腕白が過ぎる所もあり、学校へ行かせる前に落ち着かせたはずだったが、学校(こちら)に来て早々皇族の不興を買い殺されてしまったのではないか……。

 そうであれば、自分に何の連絡も無しに他の貴族を言い含め、知らない事にし、この様な異様な雰囲気を持つ場を形成することもできる。
 もしそうであれば、すぐにでも真実を確かめに皇帝陛下に直接謁見し問いたださなければならなかった。場合によっては、ユスベル帝国との関係も考え直さなければならない。

 ストライカー侯爵はそう心に決め、ロベールと呼ばれる子供と皇帝陛下を睨みつけた。
 皇帝陛下は玉座から立ち上がりロベールに近づくと同じように立ち上がらせ、あろうことか手ずからロベールの肩を持つと一回転させて皆の方を向けた。

「この者はユスベル帝国国民を思い、戦争による死傷者を最小限にするために我が息子ロベリオンが創設した軍から少数の兵を引き抜き、敵の猛攻をかいくぐり、敵将を連れ去ると言う武功を挙げた。正規の竜騎士(ドラグーン)ですら二の足を踏んでしまうような作戦を思いつき、それをやってのけたのは竜騎士(ドラグーン)育成学校に通う学生だ。私は嬉しく思う。竜騎士(ドラグーン)発祥の国として、学生でありながらこれほど勇猛果敢な生徒が居てくれると言う事を!」

 語尾を強くしながら切ると、感極まったのか誰かが勇んで拍手した。誰だ誰だと言う雰囲気が上がると同時に、同じように感極まっている他の人間が次々と拍手を始め、謁見の場が壊れんばかりの拍手が行われた。
 しかし、皇帝陛下がロベールの肩に置いていない手を挙げるとすぐに収まった。

「それだけでも素晴らしい功績と言えるが、この者のやった事は他にも多くある。このユスベル帝国の旧都がある現在はマシューと呼ばれている町だが、そこは寂れた山間の町へと成り下がってしまっている。この者はそこをあえて準統治領として選び、かつての活気を取り戻す為に尽力し、ただの農村だった町に産業を生み出し旧都と言うだけではない価値を生み出したのだ」

 現在の旧都について知る者は少なく、知識では山の中にある町か村か、そもそも人がまだ住んでいるのか分からない分からない土地と言う認識だった。
 そんな土地を準統治領として選ぶのは、旧都であると言う箔だけで行ったのだろうと商いに聡い貴族は考えるが、そこで新たな産業を生み出したと言う話を聞き驚きの声を上げた。

 その内、何人かの貴族はその産業と言う物に当たりをつけた。出所(でどころ)が不確かな商品がいくつか市場に出ていたからだ。

「私は、ユスベル帝国皇帝として彼の功績に応えようと思う。そして、彼には子爵位を与えると共に、領地を与える」

 領地を与えると言われた瞬間、ロベールの口角が少しだけ上がった。しかし、余りにも小さすぎる変化であり、また皇帝陛下に皆は注目しているのでその変化に気づく者はいなかった。

「だが、この者は侯爵領地を引き継ぐと言う話だ。なので、与える新しい(・・・)領地は準統治領とし、この者が家の領地を引き継ぐと共に学校へと返還し、新しく入学した竜騎士(ドラグーン)育成学校の生徒に任せる事とする」

 皇帝陛下が領地を与えると行った時、貴族たちの顔にやや影が差した。それは、自分の領地が、とりわけ準統治領を差し出している物をそのまま割譲されるのではないかと言う危惧から来たのだが、『新しい領地』と言った事により人の立ち入っていない場所を領地として与えるのだと皆は安心した。

 そして、与えられた領地は準統治領として扱われるので最終的には国に返さなければならない領地なので、学生が立てた武勲としては異例だったがそれに応えるには大きすぎる報奨に反感を抱いた一部の貴族の溜飲も降りた。

「もうすぐ私の誕生日である。その素晴らしい日を迎える前に、懸念であった西方の砦の建設が問題なく行えるようになったことを嬉しく思う」

 と、突然、皇帝陛下は話を変えた。
この国では年が変わると共に、人の年齢は一つ上がる。しかし、皇帝陛下は誕生日と言う日が存在し、国民総出でその日を祝うのだ。
 一月の終わり辺りがそれに当たる日なのだが、確かに誕生日前に火種を取り除けたことで、大手を振って誕生日を祝えるだろう。

「少々気が早いと笑われてしまうかもしれないが、そなたにこれをやろう」

 そう言って皇帝陛下はそば仕えに視線を向けると、綺麗な絹で包まれた板の様な物を台座に乗せた状態で近づいてきた。
 皇帝陛下はそば仕えからその絹に包まれた板状の何かを掴むと、その絹を捲り取った。

 中は綺麗に装飾された鞘に納められた(つるぎ)だった。その美しく自身を魅せる能力に秀でた(つるぎ)を見た貴族たちは、その鞘を見ただけでうっとりとしたため息を出した。

「これを受け取った瞬間から、そなたは成人したと認められる。そして、そなたには皇都内だけではなく、城内でも帯剣することを許そう」

 皇都内で帯剣を許されているのは多く居るが、城内で帯剣を許されている人は限られている。理由は言わずもがな。
皇帝陛下は何を考えているのだろうか、と謁見の間はざわつくがそれもすぐに終息した。
 それは、ロベールがひざまつき(こうべ)を垂れて、両掌(りょうてのひら)を上に向けて頭上より高い位置に持ってきたからだ。

「この(つるぎ)に恥じぬ人と成れ」

 トン、と置かれた(つるぎ)は想像以上に重く、危うく前のめりに倒れそうになったロベールだったが、頭を勢いよく振りあげる事で転倒を防いだ。

「ありがとうございます。この(つるぎ)を授けてくださった陛下のお気持ちを裏切ることなく、わが身はこの(つるぎ)の様に気高く、ユスベル帝国をあらゆる外敵から守る(けん)となることを誓います」

 その言葉を聞いた皇帝陛下は満足そうに頷いた。
 すると、今度は先ほどの先走りの拍手とは違う、満場一致の祝福の拍手がわき上がった。
 中には「まだ早すぎる」「学生だから、あの程度で(つるぎ)を与えられたのだ」と言った考えを持った貴族も居たが、それでも顔に出すことは無く拍手している。

 学生と言う子供であろうと国を思っている事は皆同じであり、先ほどの宣誓は目を見張るものがあったのも事実だった。
 だから、この場に居る者は祝福をする。ただひとり、ストライカー侯爵を除いて。
皇帝陛下=ユスベル帝国で一番偉い人。誕生日が1月らしい。
ストライカー侯爵=ロベール(本物)のパパン。
ミナ=騎士学校に通っていた、元騎士候補生。現ロベールの奴隷。


パパン、初めてロベール(偽)を見る。
今まで息子は頑張っているんだと思っていたら、それが全くの別人だったと知ったらどうなるんでしょうか。
周りからおかしいんじゃないかと言われていたにもかかわらず、親馬鹿で重要視しなかったパパンにも問題がありますが……。

1月27日 誤字修正しました。
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