低融点合金殺人事件
毎日突拍子もなく起きる事件に走り回る警察は暇がない。今日も例外でなくそのような事態は起こっていた。練馬署管轄の事件だった。
練馬のビジネスホテルでのことだった。ある一室で殺人事件がおきたという。その捜査に乗り出すべく、大橋薫と市川稔は事件現場に来ていた。当然惨たらしい現場を自分の目で見ることになるのだが。
「ほら、大橋、部屋に入れっ」
「嫌です、嫌だっ。また吐きますよ、いいんですか」
大橋は現場である部屋に入ることを拒んだ。その理由とは、昔カラオケボックスで起きた殺人事件の捜査をしたとき、あまりの異臭に催したのだ。それを引きずって今に至る。
「いい、おまえの吐くとこなんか見たって、何とも思わん。おまえは何しにここへ来たんだ。捜査のためだろうが。いいから入れ。何か奢るから」
「え、本当ですか? やった、じゃあ頑張ります」
そして何とか市川は大橋を部屋に入れたものの、部屋のカーペットは血で赤く染まり、血の生臭い臭いが鼻を衝いた。えもいわれぬような異臭が部屋の中に充満している。市川の隣で大橋は青ざめた顔をしている。
遺体の前で二人は合掌をした。拳銃で射殺されているようだが、鑑識によれば拳銃と銃弾が見つからないらしい。しばらく部屋の中を見て回ったが、三十分ほどで切り上げた。これ以上見ても鑑識が証拠がないと言えば、それまでだ。
ホテルの外に出て、市川は身体を伸ばした。大橋は道路端のドブだまりで咽ていた。市川はそれを横目で見ながら声をかけた。
「おい、大丈夫か。飯食いに行こうぜ。奢るから」
そういって彼が連れて行ったのは、寂れた定食屋だった。寂れてはいるが、味は確かなものらしい。
「でも……なぜ拳銃を使ったあとがあるのに、銃弾がなかったんでしょうか」
「知らん。俺にはわからんな、意味が。少しだけ金属反応があったらしいが、銃弾でぶち抜けばそれぐらいは検出されるらしい。だから然程矛盾はないみたいだぜ」
「もしかして、融点が常温の金属で加工されてる銃弾だったりして」
「まさか」市川は唐揚げを口に放り込んだ。とにかくあの現場を見て、少なからず気分が悪くなった。
後日、捜査は急展開を迎えた。検出された金属を良く調べると、難波金属会社という金属会社で作られている特殊金属だということが判明した。その名も、低融点合金アルファ-U16。低融点、ということは物質の融ける温度が低いということだ。実際に大阪まで行って調べてみても、それは確実なものだった。
捜査会議でそのことが取り上げられたとき、市川と大橋は顔を見合わせた。あの時定食屋で大橋が言った、「融点が常温の金属で加工されてる銃弾だったりして」それが当たっていたのだ。
「低融点合金アルファ-U16は、16度が融点の金属です。で、この事件が起きたのは冬です。銃弾が風を切れば、人間で言う体幹温度は氷点下でしょう。ですから、融けることはありません。着弾したときに初めて、人間の体温に触れ、融けるわけです。そして死後硬直をし、窓を開け放しておけば部屋の中も当然気温が16度以下になります。そこで、固まった金属を取り出し、窓を閉めて逃げれば何とかなります。ですが犯人は大きな過ちを犯しました。それは、ドアノブに手をかけるとき惜しくも手袋を嵌めていなかったみたいなんです。なので、僅かながら指紋を検出することができました」
その捜査会議によって、事件は大きく進展した。
まさかあのときのあの一言がこの事件の鍵だったとは、思いもしなかった。そもそも、そんな金属がこの世の中にあることも知らなかったのだ。犯人もよくこの金属を加工することを思いついたなと市川は不意に思った。
もしかしたら警察なんかよりも一般人の方が知恵があるのかも、しれない。
科学モノにチャレンジしてみました。拙くてすみませんでした。
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