異常とフラグ
昔読んでた小説が急に読みたくなったけどタイトルが思いだせずもやもやしてる今日この頃。
「仕方ない、一旦退くか――いや、すでにノワールは交戦状態だな」
ノワールの方はすでに二体のワイバーンと衝突していたようだ。一瞬援護に行こうかと思ったが、幻覚魔法を巧みに使いこなしてワイバーンを同士討ちさせているところを見る限り問題なさそうだ。
「それよりもこっちだな。退くにしてもいくらか数を減らしておかないとな」
【遠見】なしでぎりぎり視界に入る物だけでも二桁に上るくらいはワイバーンが飛んでいるだろう。いくら町に戻ると言ってもこいつらを引き連れて行くわけにもいくまい。
「それじゃあ……水の刃よ 万物を斬り裂け 『水刃』」
裸眼で捉えられる距離なら十分に射程範囲内だ。ワイバーンが硬そうだったので詠唱をつけてちょっと強化してみた。詠唱と共にいつもより大きめの水の刃がワイバーンに向かって飛んでいく。一体当たり三発が目安だ。
俺の強力ステータスによる魔力マシマシ、スキルレベル10の水魔法はあっさりとワイバーンの体を切断し、ワイバーンは墜落しながら光の粒子になって消えていく。結構遠くの方に落ちたのもあるので回収が面倒臭そうだ。
「相変わらず凄い威力だな……」
「ジョズは地上から来てる奴等を蹴散らせ。報告に行くにしてもこの量をトレインするわけにもいかないぞ」
いつの間にか地上からも魔物が来ていた。それもやたらと数が多い。
[フレイムボア lv21
【生命力】200/200
【魔力】75/75
◆スキル
[咆哮 lv2]
◆固有スキル
[火炎耐性 lv1]
]
見た目は毛の赤い猪でワイバーンよりも弱い。というか野生のワイバーンはこれを食べて生活している。
なのでワイバーンよりずっと弱い。弱いのだが……食物連鎖の法則はい世界でもしっかりと機能しているようで、ワイバーンと比較して圧倒的に数が多かった。今こちらに向かってきているだけでも30体はいる。
「何でこんな低い所にこんなに沢山いるんだよ! 火の精よ 地に眠りし炎を呼び起こせ 『爆炎』 火の精よ 敵を貫け 『火槍』!」
爆発で吹き飛び、さらに火の槍に貫かれるフレイムボアを見る限りあちらは問題ないだろう。まずは自分の目の前に集中する。
「ははっ、なんだか楽しくなってきたぜ!」
まだまだ押し寄せるワイバーンを見て、本気で戦ってもいい相手だと判断する。ダンジョンの中では死ぬ気で平和を願っていたのに、平和なところで過ごしていると本気で戦いたくなってしまう、随分と贅沢な悩みだ。
「さてと、久々にこいつの出番だ!」
短剣をしまい、腰に着けている木刀を抜く。一応使っている事は使っているのだが、暇な時に施しまくった改造を試す機会は久しぶりだ。これのおかげで【魔法陣魔法】のスキル上げだけでなく、【魔道具作成】のスキルまで取得してしまった
「まずは肩慣らしからだ! 『天牙』」
俺が技名を叫びながら木刀を振ると、斬撃が飛んでいく。ダンジョンにいたころからあった技だが、改良を加え、ついでに名前をつけてみた。斬撃を飛ばすというイメージが某少年漫画主人公の死神にしかなかったのでそれらしい名前を考えるのが一番苦労したかもしれない。
ワイバーンがあっさりと真っ二つになり落ちていく。続けて二発、三発と打つ。またまとめて落ちていく。
これが討伐ランクはB相当、Bランク冒険者が一人か二人で戦う相手だ。尤も、空を飛ぶ魔物に関してはあまり討伐ランクは信用できないらしいが。
「とはいえ、さすがにこの量を相手するのはきついぞ……」
発動させたままの【索敵】では地上、上空に関わらずどんどん数が増えている。どうやら火山の上から降りて来ているらしい。
このままではまずいと判断した俺はジョズに指示を出す。
「あー、これ無理だな。ノワールを連れてギルドへ報告しに行ってこい!」
「なっ!? そんなことしたら兄貴が!」
まあ、どう考えてもフラグ発言だよな。
「大丈夫だ。残念ながらまだまだ死ぬ気はないね。一応こいつの性能を試したいってのもあるし、やばそうになったら切り札だって持ってる」
たしかにきついはきついが、勝算は十分にある。もっと強い魔物まで出てきたら分からないが、その時は逃げよう。
「どっちにしろこのままだとガス欠を起こす。魔物が途切れないんだから片方が残るしかないだろ」
ジョズはしばし迷うが、俺を信じてくれたのかノワールにまたがる。
「二時間……いや、一時間半で戻ってくる! それまでなんとか耐えてくれ!」
「了解!」
ノワールは急加速して山を下りていく。ジョズが振り落とされないか心配だが……
「俺、この戦いが終わったら彼女と結婚するんだ――っと、『衝撃波』『水刃』『火矢』」
ふざけている場合じゃなかった。ジョズがいなくなった途端に押し寄せてくる魔物を吹き飛ばす。一発で何体も吹き飛んでくれるのでやはり戦闘力は高くないようだ。
とはいえ魔法だけだとさすがに援軍が来るまで持たないので接近戦もしなければならない。
「……ああもう、面倒くさい!」
木刀でフレイムボアを殴り、魔法で空を飛ぶワイバーンを撃ち落とし、再び迫ってくるフレイムボアに【豪脚】を使って魔物を蹴り殺す。それでも一向に減る気配のない魔物。肉体的、精神的な負荷が大きすぎる。
「やばっ! 地上に気を取られ過ぎたか、『刺天』!」
どちらかに集中しすぎると片方から魔物が漏れそうになる。フレイムボアから距離をとってワイバーンを『天牙』の刺突版である『刺天』で撃ち落とす。その隙にフレイムボアの群れが前進し、防衛ラインが下がってくる。そこで焦ると数匹が俺の後ろに抜けてしまい、魔法で片づけている間にまた魔物が前進する。
あ、思ったよりやばいかもしれない。