トレントと木刀
文章を書くのって難しいですよね。(今更
森の中を赤い人が火を噴きながら闊歩する。一見すると環境破壊だが、実際は違う。ここにある木はほぼ全てがトレント――木の魔物だ。だから環境を破壊しているわけではない。
そして肩には俺、誠一です。
俺達は出会った所から二層ほど進んだ先の森の階層に来ていた。ここに出てくる魔物は主にトレント。ネット小説なんかでも割と有名なあれだ。
普通は木に擬態しているためしっかりと調べないと本物の木と変わらないためになかなかみつからない上に近づくと枝を振り回してくるかなり危ない相手だったりする。
が、俺には【魔力感知】に【索敵】、そのほかにも相手を見つける魔法がある。 そこでここらの森を調べてみたところなんと95%以上がトレントだった。
それなら多少の環境破壊も仕方ないだろうと考えサイクロプスに森を焼き払ってもらっている。
時々出てくるエルダートレントという。トレントの上位種以外は全部サイクロプスの火魔法によって焼き払われて行く。おかげで俺も楽が出来た。
俺は振り落とされないように魔法でサイクロプスに自分の体をくくりつけると、オーガソードとエルダートレントのドロップ品「トレントの木材」を使って木刀を作っていた。
木刀を作る理由はまず近接武器が短剣しかなかった事。これは近づきすぎて何度かヒヤッとした事があったので前から長めの武器がほしいと思っていた。
もう一つは魔法の力が込められた木刀という素晴らしさに心を奪われたからだ。
どうやらおれにもまだ中二病の心が残っていたようだ。まあオリジナルの魔法を使うのにも記憶から言葉を引っ張り出していたし今さらといえるだろう。
「取りあえず形は出来たな、でもこっからどうすっかなぁ……取りあえず魔石をコーティングして――」
サイクロプスの肩の上も随分と慣れたので、結構なペースで作業が出来るようになっている。
その後も森林破壊は続いて行き次の層への階段を見つける頃にはサイクロプスにも多少の疲労が感じ取れた。
「じゃあ次の層の確認だけしたら今日はもう寝るか……お、次はボス部屋か。じゃあ下行って寝るぞー」
次の層がボス部屋のようだったのでボス部屋の前で睡眠をとる事にする。ボスの前で呑気に寝るのはどうかと思うが、フィールドよりボス部屋の前の方が安全というのが現実なのだ。
尤も、人が多く出入りするダンジョンだったら盗難などにも気をつけなければならないのでその限りではないが。
そうして下の層に行って自作の布団を敷こうとするとある事に気付いた。扉に文字が書かれていたのだ。
「ん? なんか書いてあるな……って読めないし、ラオスティアの言葉じゃないのか?」
俺はスキルのおかげでこの世界の言語は理解できている。しかし扉に書いてある文字は読めなかった。
全く理解できないので日本語でも英語でもドイツ語でもないし、ロシア語や韓国語とも違う。さすがにインドの準公用語のひとつとか言われたら自信がないが多分違うだろう。
「ってことはこの世界の古代文字とか? まあいいか、どうせ読めないんだしボス部屋である事に変わりはないから問題ないだろ」
俺はすぐに解読を放棄して布団をアイテムポーチから取り出すと、掛け布団にくるまろうとする。するとサイクロプスがじっとこちらを見つめてきた。
「あ? どうした? さすがにおまえの分は無いぞ? 毛皮ならあるからそっちでいいなら貸してやる」
だがどうやら違ったようでサイクロプスは地面に横になるとそのまま寝息をたて始めた。多分5秒くらいで寝たと思う。何という早業。俺にも欲しいわその力。
俺は手に持った毛皮をポーチに戻すと荵のパンツを被り眠りに就いた。
翌日、目を覚ました俺は朝食もそこそこに木刀の作成を始める。久々に見つけた安全地帯のおかげで次々とアイデアが浮かんできた。
トレントから採れる木は魔力の効率がいいため少し加工すれば杖として使うこともできる。
杖は先端に魔石をはめ込んだもので手持ちから魔力を流すと杖を通り魔石に魔力が伝わって魔石の中で魔力が使いたい属性の魔力に変換されるので魔力効率が上がるとか何とかと本に書いてあった。
そこで俺は【魔石加工】を使い木刀の刃の部分を魔石でコーティングし氷で覆われた剣のようなものをイメージして作っている。
「えっとここをこうして……これじゃ魔力が流れないか、じゃあこっちをこうして……そもそもこれどうやって魔力が流れてるんだ? じゃあとりあえず師菅に流れてると仮定して……」
その後数時間ほどかけて木刀が完成した。まずは素振りをしてみる。
「……よし、取りあえずは問題ないか」
どうやら【剣術】スキルやダンとの訓練の感覚が残っているおかげか、綺麗な素振りをする事が出来た。このスキルが地球にいるうちにあればよかったのにな……
次は木刀に魔力を込める。すると表面にうっすらと魔力が流れるのが分かった。その状態で素振りをしてみる。これも問題なし。
次は外に行ってトレントの木を木刀を使って倒してみる。木刀はトレントの攻撃にも折れずにしっかりと耐えた。更にこめる魔力の量を増やすと魔力が刃の形を作った。
その状態で切るとトレントの枝はバッサリと切れる。切り口を確認したがどうやら綺麗に切れているようだ。
もう何度かトレントを切り裂きつつ切れ味を確認した後、もう一度木刀を点検する。どうやら目立った損傷もないようで大丈夫なようだ。これからはこの木刀がメイン武器になると思う。
木刀の試し切りを済ませた俺はボス部屋に戻る。俺が戻ってきたのを見たサイクロプスは俺の下までやってくる。
俺は扉に向かって魔力を流す。すると扉の溝が下から上に向かって光り出す。
俺はすぐに後ろに下がり戦闘の準備をするが溝が一番上まで届いても扉は開かなかった。代わりに扉に書いてあった文字が変化して長い文字列になっていく。
「なんだこれ? やっぱ全然読めねえな」
これ本当に大丈夫なのか? 読めない奴を適当にクリックしていった結果詐欺に引っ掛かったなんて話も日本じゃよく聞くし結構不安なんだが……
暫くすると文字は消えて扉が開いた。俺は木刀を構えるが目の前に現れたのはボス……ではなく草原。ボスのボの字も見えない。
念のために【索敵】で探ってみたものの、辺りに雑魚のような魔物がいるだけでボスのようなでかい反応は見られない。
「これは……どういうことだ?」
辺りを見回してみるがどう見ても草原。魔物もゴブリンやオオカミ型の中でも弱い奴しかいない。
それでもここがダンジョンの外では無い事は直感的に分かった。ちゃんと調べると魔力の流れなどが中と外で違うのだが今の俺にそこまでは分からない。
「取りあえずここがボス部屋なら何らかのアクションがあるだろうし、ただのフィールドだったら階段があるはずだ。とにかく進んでみるか」
どっちにしろ進まない訳には行かないので、俺はサイクロプスと共に草原の中を歩きまわった。
――これから襲い掛かってくる試練に気付かないまま。
そろそろダンジョン編も終盤、次回は例のあいつが出てきます。ヒント、スライムじゃないです。