リベンジとボス戦
戦闘描写って難しい……
朝起きた俺は頭を打たないように気をつけながら【索敵】を使って辺りに魔物が居ない事を確認すると、土魔法で穴をあけて外に出た。
ちなみに俺は木の根元の地面に穴を掘ってその中で寝ていた。ハリー○ッターの暴れ柳の下の空間みたいのを想像してくれればいい。
穴から顔を出した俺は朝食としてオーク肉を焼きながら、今日の予定について考える。
「昨日は予想以上に時間を食ってしまったな。今日は最低でも10層くらいを目標に攻略できたらいいけど……」
上の階層でならば10層程度半日もかからずに行けただろう。しかし苦戦はしないとはいえ上の層とは比べ物にならない強さの魔物に広大なフィールド、更に太陽が見えなくて時間の感覚が分からなくなってきているので精神の方がどんどん削れていく。
「とにかく、ダンジョンを出て合流しないと意味ないからな。何十年もかかっていいってわけでもないし、何層あるのか分からない以上は急ぐにこしたことはないはずだ」
オーク肉をオーガソードで切って食べると移動を開始する。【魔力感知】と『劣化索敵』のおかげで食べている間に階段を見つける事も出来た。
出来るだけ敵の少ない所を通りながら出てきた魔物を吹っ飛ばして進む。ここのフィールドはウォーターウルフがほとんど、時々オークが紛れ込んでいるといった程度の分布だ。
しばらく進むと階段を見つけた。俺は片足を突っ込んで【索敵】で辺りを探る。
しかし反応は全くなかった。
「ん? ボス部屋か?」
ボス部屋は大体10層に一つくらいの割合である部屋で階段を下ると扉が、その中にゲームで言う所のフロアボスとか中ボスとか呼ばれる魔物が入っている。
ここに落ちてくる前にも一つだけあったが、二つ前の層のオークの方がよっぽど強い程度のレベルなのでクラスメイト達を見守っていた。決してサボっていたわけではない。
「ってことは実質これが初めてのボス戦ってことになるな……どのくらいつよいのかわからんし念のために万全の状態で挑んだ方がいいだろう」
ということで俺は魔力が回復するのを待つ。ステータスを眺めながらボーっとしていると、ある事に気付いた。
「あれ? いつもより若干回復が早くないか?」
確か起きている間の回復量は一秒あたり最大魔力の10万分の一、今の俺だと10分で4ほどしか回復しないはず。それなのに今眺めた感じでは10分で15近く回復している気がする。
そう言えばこの辺りはダンジョンの外や崖の上よりもずっと魔素が多いがそのせいだろうか? なんにせよ回復が早いのに越したことはないだろう。
それから一時間ほど、オーガソードを布で拭いたりして、適当に時間を潰しているといつの間にか魔力も回復していた。念のため身体強化の魔法をかけてから扉をあける。
「えっと確かここに手を当てると……お、起動したな」
俺が窪みになっている所に手を当てると横にある溝が下から光りはじめる。
これは扉が開くまでのカウントダウンのようなもので、開けた途端モンスターが出待ちしていた、なんて事が無いようにするためのシステムではないかと考えられているようだ。
俺は溝の光が上に到達する前に後ろに下がる。大体10秒あるかないかくらいの時間だが『身体強化』を施している体でならバックステップで100m近く下がる事が出来る。
俺はオーガソードを構えて扉が開くのを待ち構える。溝の光が天井に到達した瞬間扉がとてつもない速さで内側に開いた。それと同時に大きな人型の魔物の姿が見える。
後ろの部屋の光が強いせいでその顔は見えないが【索敵】を使うまでもなく相手が何者なのか理解できた。
5m、いや6mはあるだろうか。大きな体にガチムチの筋肉、さらに手にはその辺の剣よりずっと頑丈に見える長い爪。俺はすぐさま【鑑定】を発動させる。
[ソードオーガ(変異) lv180
【生命力】7500/7500
【魔力】500/500]
「リベンジマッチってか? 面白い!」
まあ別に俺が負けたわけじゃないんだけどな、ちょっと言ってみたかっただけだ。
変異ってのが何か知らんが、ステータスを見た感じでもこの間のソードオーガより余裕で強いはずだ。
魔力が多いのは魔法を使うからか? 念のためスキルも確認しておく。
[
◆スキル
[剛腕lv7]
[剣術 lv7]
[豪脚 lv6]
[夜目lv2]
[火魔法 lv6]
[威圧 lv3]
◆固有スキル
[火炎耐性lv4]
]
やはり魔法を使うのか。相手がどんな魔法を使ってくるのか分からんが少なくとも火属性は確定だろう。火炎耐性があるところを見ると火を纏うタイプか?
余りのんびりと観察もしていられないので鑑定結果を消すと相手の様子をうかがう。
するとソードオーガが腕を振り上げたかと思うと一歩で距離を詰めて横薙ぎに振るってきた。
「フッ!」
俺はそれをしゃがんでかわすと腕に向かって短剣を振り上げるが、オーガソードは硬い感触と共に弾かれる。鉄をも簡単に斬り裂くはずのオーガソードが簡単に弾かれてしまった。やっぱりこいつは前のやつより強いと思う。
弾かれて一瞬だけよろめいた俺にソードオーガが蹴りを放って来た。俺はそのまま受け身を取りながら吹っ飛ばされる。同じ方向に飛んだおかげで、何とか衝撃を殺して距離をとれたようだ。
「水の刃よ 『水刃』
水の弾よ 『水弾』」
単純に筋力の問題で迂闊に接近戦をするべきではないと判断し、最早おなじみとなった水魔法を放つ。最近は水弾の方も詠唱を短くして打てるようになった。この際どうでもいいか。
しかし水刃の方はその長い爪で全て切られて水弾に至ってはその肉体で受け止められてしまった。
それを確認した俺はすぐに次の魔法を放つ。
「大地よ窪め 『アースデント』
大地の鎖よ 敵を縛れ 『アースバインド』」
一気に詠唱を続けて足元を狙う。これは前回ソードオーガを倒したときの方法だが簡単に引きちぎられてしまった。
「予想以上に強いな……消耗戦になったらまず負けるし早い所でケリを付けないとな――おっと!」
今度はこちらの番と言わんばかりに攻撃をしてくるソードオーガ。一撃の衝撃は強いが武器が大きすぎるために、なかなか俺をとらえきれていない。
こちらの【短剣術】もlv5しかないのでなかなか当てる事が出来ないが、少しずつ懐に入っていけば相手の弱点――目を狙う機会を見つけられるはずだ。
数十秒ほど――体感では数分ほど打ち合った気分だが――打ち合って一瞬ソードオーガに隙が出来た。俺は身体強化に通す魔力を増大させ、そのままオーガソードの眼にめがけて短剣を突き刺そうとした。
「熱っ!?」
あと少しで目に届くと思ったその時、オーガの目と俺の間に火が出現した。
俺はぎりぎりで短剣を戻すともう一度距離をとる。
「使ってこなかったから完全に忘れてたな……さすがにやばいぞ?」
俺が距離を取った直後、俺のいた鼻の上も完全に炎に包まれていた。それだけではない。爪も、足も、腕も、体全体が炎に包まれている。よく見ると俺の手もひどいやけどになっていて、少し服も焦げている。地球で同じ怪我をしたら多分すぐさま救急車だろう。
俺の動きが止まった瞬間、先程の接近戦の疲れが少しずつ足に伝わってくる。あの魔法が炎を纏うだけならなんとか逃げ回る事も出来るかもしれないが、他にも効果があったらやられる可能性の方が高い。
「土の壁よ 我が盾となせ『土壁』」
俺は壁を作って階段まで全力で走る。こいつ相手には分が悪い。戦略的撤退という奴だ。一個前の層でレベリングでもして強くなってから出直すべきだろう。
ここから階段まで約200mある。素のステータスが高いのもあるが、身体強化を使えば10秒もかからない。この距離なら逃げ切れる、と思ったその時。後ろから土の塊が飛んできた。
「おっと!」
ぎりぎりでかわしたため体勢が崩れる。しかしあと3秒もあれば余裕で階段にたどり着ける程度の距離しかない。一気に進もうと顔を前に向けるとそこに階段の姿は見えなかった。
代わりに見えたのは巨大な炎とその中に見える人型の何か。どうやら逃げ切れなかったようだ。
「全く……俺もことごとくついてないよなぁ。運300はどこ行った」
愚痴をこぼしつつもう一度ソードオーガを【鑑定】する。
[ソードオーガ(変異) lv180
【生命力】5500/7500
【魔力】300/500]
予想通り魔力と生命力が減少していた。
やはり火魔法lv6を火炎耐性lv4だけで完全に防げるわけではないようだ。ステータスも魔防御より魔攻撃のが高そうだし、現在進行形でどんどん生命力が削れている。
このまま逃げ回って倒れてくれればいいのだが、さすがにそんな甘い相手じゃない。なんとかして倒す方法を探さなければいけない。
しかしもちろん相手が考えている間待ってくれているわけでもなく襲い掛かってくる。もちろんこちらは逃げる以外に選択肢が無いので全力で逃げ回る。途中で苦しまぎれに鉄の剣の破片を投げつけてみたが、一瞬にして融解した。もしかしたら蒸発しているかもしれない。少なくとも1500℃はあるだろう。
オーガソードならば炎にも耐えられるかもしれないがこれを失ったら武器がなくなってしまうし、接近して試そうとすれば先に俺が黒コゲになる。
「水の弾よ 『ウォーターバレット』!」
苦し紛れにはなった水弾は一瞬で蒸発して消える。もしかすると『身体硬化』がなかったら俺もこの距離から熱でやられていたかもしれない。
(どうする? 考えろ、何かあるはずだ。こいつの弱点は何だ? 炎を纏った時に出来る弱点は? 風魔法で火力を上げて燃やすか? いや、多分その前に俺がやられる。ならどうすれば?)
思考をまとめるために【思考分割】を発動させる。余計な物を考えなくなった思考は打開方法を考える。今の攻撃をかわすのは分割されたもう一つの施行に任せればいい。とにかくこの状況を乗り切る何かが必要だ。
そして俺は一つの方法を思いつく。分割された思考はすぐさまもう一つの思考に結合され魔法を唱え始める。
「清き光よ 全てを照らせ 『閃光』!」
魔法が発動すると部屋が光で満たされる。早い話が目くらましだ。
俺も目が見えなくなるが、【索敵】と【魔力感知】、『劣化索敵』のおかげでそれ程問題にならずに移動できる。
運の悪い事にソードオーガが丁度階段の真ん前に居るので階段を上ろうとした瞬間灰になってしまうだろう。これもすでに想定範囲だ。俺は片腕で目を隠したまま最後の魔力を振り絞って詠唱を開始する。
「大いなる水よ 穢れを落とせ 闇を祓え 汝の罪も洗い流さん 『懺悔之滝』!」
壮大な詠唱を唱えたが効果は単純、大量の水を落とすだけだ。穢れを払う効果なんてのは一切持ってない。一度これを小屋の中でやった時は水浸しになってしまったが今はダンジョン、遠慮はいらないだろう。
突然の光に目を押さえているソードオーガの真上から、大量の水が滝のように振ってきた。
しかしいくら量が多いと言ってもあの火を消せるほどの量があるとは思えない。だがそれでいい。
俺はボスの部屋の扉の陰に隠れると、しゃがんで耳を塞ぎ衝撃に備える。
その直後、とてつもない音が響いて空気と扉が揺れる。衝撃がこちらにも伝わってきているが魔力切れを起こして力が入らない。
なんとか手元にあったオーガソードを地面に突き付けて飛ばされないように踏んばるが思った以上に衝撃が強く腕がちぎれそうだ。
少しオーガソードの付け根が変形して来た辺りで衝撃が止まる。硬い地面に突き刺して無理な方向に力を入れたせいで曲がってしまったようだ。
俺は無理やり短剣を引っこ抜くと這いつくばるようにしてソードオーガがいた所に行く。【索敵】からはまだ生存反応が弱弱しく出ているが手足はほとんど千切れ、左目が完全につぶれている。このままなら死ぬのは時間の問題だろうが念のためにひんまがった短剣を右目に突き刺しておく。
「そう言えば前回は完全に自力で倒したとは言い難いんだよな……」
それならリベンジマッチでも合ってるかもな、などと最後にどうでもいい事を考えると意識を手放した。
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“レベルがアップしました”
“レベルが規定の値に達したため【芽】が成長します”
“【強欲の芽レベル1】が【強欲の芽レベル2】に進化しました”
“レベルが1に戻ります”
最後にレベルアップとスキル進化の描写を加えました。
なんか最近終わり方が大体寝るか気絶するかになってしまった……文字数的にどの辺がちょうどよくなるだけなんです。嘘じゃないよ!
次の更新は来月になるかもです。