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教会と作戦

 いつの間にか一年が後二ヶ月しか……もう少し更新頻度を上げる予定です。

 勇者の話題になるとムングさんは一つ咳払いをして話を始める。


「まず、勇者は間もなくこの街に到着する。本当はその後すぐに呼び出して作戦を話し合わせたいが、教会が勇者を出迎えるパーティーとやらをするそうだ。尤も、時間も無いのは事実だから信者の連中に勇者の姿を見せびらかせるだけだが」


 この小さな歓迎パーティーは基本的にどの街でも行われ、勇者を見せびらかすことで教会の権威を上げるために行っているらしい。逆に言えば、このパーティーをさせてくれない街には事前に教会が手を回し、勇者が通らないようにしている。尤も、勇者が来るだけで国民の不安は解消され、それに関する商売も活発になるので断るところも殆ど無いのだが。


そう考えていると、更にムングさんがつまらなそうに続ける。


「それで、今回の件で足元を見てきやがった教会と領主の間で汚い金のやり取りがあったわけだが、そのついでにオークロードの首は勇者が取ることが決まった」


……まあ、これは今までの流れで予想が出来ていたことだ。そもそも、この討伐に参加した理由として勇者の存在を市民に知らしめるための意味合いが大きい。ここで教会がオークロードの討伐を勇者にやらせると言ってもおかしなことではないだろう。


 すると、槍を持った男が口を挟む。


「今までの情報によると、オークロードの巣に飛び込んでも大丈夫そうな奴は勇者をまとめている奴だけのようだが? もし他の奴らが巣に入れば、下手すれば死ぬぞ」

「とりあえず落ち着け。最初は教会も全員巣での戦闘に参加させろと行ってきたが、そのあたりは俺がちゃんと譲歩させた。これからその話をする」


 ムングさんは男を手で制すると、椅子に深く座り直す。そして大きな溜息をついて話し始める。


「今ハスタが言ったとおり、勇者のうち一人を除いたら戦力としては大したことはない。おそらく、この先も魔王とまともに戦えるようになるのもその一人だけだろう。その時他の奴らを教会がどうするのか知らんが、とにかくそいつらがロードがいる巣に入ったら、ほぼ確実に死者がでるだろう。だから、そいつらはオークの巣の周りに配置する」


 そう言うとムングさんは取り出した一枚の紙の上にペンで大小二つの円を書く。


「お前ら五人は全員こっちの小さい入口から入ってもらう。最初に一人が被害者を救出しに行く。それが完了、または感づかれたら同じ入口から勇者ともう一人がロードのいる部屋に、更にもう二人が同じ入り口から入って援軍が来ないようにオークのいる方の部屋を塞ぎつつオークの群れを引っ掻きまわしてもらう。そうすればオークたちは、こっちのデカい入り口の方から大量に逃げ出してくる。そこを残りの勇者とSランク冒険者を中心に討伐隊を組んで迎え撃つ。ダンジョンの中ならともかく、外でなら数で押し切れる。その外側に取りこぼしを処理する冒険者を多重に配置する。まあ、そっちの方は別に説明するが、まずはお前らの方だな」


 説明をしながら矢印や線を書き込んでいく。ロード達は少数精鋭で倒して、雑魚のオーク達は数の力で処理するということか。


「一応こちらで人員の配分も決めてあるが、問題があれば各自で調整してくれて構わない。まずは隠密能力に長けているミュウは被害者の救出を頼みたい。男が行くと警戒されるしな。そして今回の作戦に適した土魔法を得意とする『鉄壁』のテッラ、広範囲殲滅魔法の使えるクロム達に任せたい。その場合、ミュウには被害者の救出が完了し次第二人と合流してもらう」


「――鉄壁?」


 ムングさんが真剣な表情で作戦を説明しているが、俺は思わず別のところに反応してしまった。不意にテッラさんと目が合うと、彼は苦笑まじりに肩をすくめる。


 この『鉄壁』と言うのはまあ、テッラさんの二つ名なのだろう。やっぱり魔導師くらいになると二つ名が与えられるのだろうか。中二心をくすぐる二つ名におもわずときめいてしまう。……と、思考がそれた。


「ゴホン――それでは、俺達は勇者がロードを処理できるようにナイト達を倒すと」


 声を出してしまったことをごまかすように俺がムングさんに尋ねる。


「そうだ。『竜殺し』のハスタと、SS-になって日は浅いものの、魔物の氾濫を抑えた上に火竜を出し抜いた実績があるセイイチの二人に、オークナイトとジェネラルの処理を頼みたい。セイイチについての情報は少ないが、この中では貴重な万能型だからな――尤も、これは仮の人選だから各自で変えてもらって構わないが」


 そう言ってムングさんが言葉を切ると、槍を持った男――どうやらハスタさんというらしい――がこちらをジロジロを見た後、


「俺は構わねえよ」


 とだけ言った。一瞬、「こんなモヤシみたいなガキと組めるかよ」とか言われるのかと思ったので拍子抜けした気分だが、別に諍いを起こしたわけでもなかったので一安心だ。


「まあ、私の能力を考えるとこの状況でジェネラルの相手は厳しいでしょう」

「まあ、この役は私が一番適任だし、その後でクロムと連携しながら戦うならそっちのほうがやりやすいですからね」

「僕も、勇者さんの邪魔にならないようにするよりは雑魚を蹴散らす方が得意だからね。ミュウとの連携を考えても」


 などと、他の面々からも文句は出ず、オークの巣に突入するメンバーの構成はこれで決定した。


 それを見たムングさんは続きを話す。


「決まったようだから続きを話すぞ。それでさっき説明した通り、残りの勇者達はSとS-ランク冒険者と一緒に、入り口で追われて出てきたオークを迎え撃つ。こいつらの指揮は俺の信頼しているS+ランクの奴らが数人で当たる。その外側ではA+やAランク冒険者を配置する。そこではA+ランクの中でも秀でた冒険者に指揮を任せているが、その中の一人にジョズと言ったな、お前に任せたい」

「……へ?」


 今まで俺たちの話をしているところを、場違いそうに聞いていたジョズは素っ頓狂な声を出す。


「でも何で俺なんです? 他にも適任は多くいるでしょう?」


 突然話を振られたことで混乱しているジョズに、ムングさんは説明をする。


「第一に、この場で説明を聞いているから状況を正しく理解しているということだ。A+ランクの連中はもちろん一流の冒険者だが、周りを率いるほど状況を理解出来ているのは少ない。第二に、セイイチの従魔ではあるが、あれだけ力のある馬を乗りこなしているということだ。ハーメルンのギルドマスターの報告でも、騎乗に関しては類まれなる実力を持ち、緊急事態の報告のために足場の悪い火山をものともせずに駆け下りてきたと書かれている」


 確かに、俺が無理矢理に乗せたていた事もあって、ジョズはノワールが本気で走っても振り出されないくらいには乗りこなすことができる。火山を全速力を駆け下りたことは知らなかったが、ジョズが乗りこなせない馬などそうは居ないだろう。


「情報伝達の方法は色々あるが、あらゆる自体に備えて指揮をする人間は馬に乗れたほうがいい。何よりも目立つしな。今回他に指揮をするものの中にも魔物を使役している従魔師がいるが、おそらく伝達速度という面から見て君が一番優れている。情報によると短剣使いのようだが、馬に乗っている間は魔法を主体に戦うともあるので大丈夫だろう。その馬も強いようだしな」

「でも、俺がノワールを使ったら――」

「ああ、別にノワールは貸してやるぞ。どうせ俺は乗れないし」


どうせ俺はダンジョンの内部で戦闘を行うからノワールに乗っては戦えないし、ノワールも戦いたがるだろうから先程からジョズと一緒に連れて行ってやろうとも考えていた。


「別に難しいことはない。俺の言った作戦を周りに伝えて、狼煙が上がったときに指示を出すだけだ。というか、人手が足りないからすでに予定に組み込んである。拒否権はない」

「こんだけ説明しといて強制かよ!」


 まさかの強制参加宣言に思わずジョズが突っ込む。お前に任せたい、なんて言って説明するから、てっきりやってもらえるように説得しているのかと思ったら、違うようだ。


「そっちには雑魚オークしか流さないから問題ないさ。心配しなくても報酬は出す。――最後に、勇者の件だが、さっきも言ったとおり、そろそろ勇者が到着してこの街で歓迎のパーティーを開く」


 話題を変えたムングさんは軽く舌打ちをする。まあ、こんな非常事態に足元を見るような要求をしてくる教会に腹が立つのは分かる。


「その後、ここの領主と俺、ついでに司祭が勇者と会談する。そこで事件の詳細と作戦内容を説明する。その為お前らと勇者が会うのは作戦当日になる。碌に連携を考えている隙がないから、今のうちにその辺は決めておいたほうがいい。そのあたりの文句なら俺じゃなくて教会に言ってくれ」


 また教会か……まあ、勇者ってのは要は神に選ばれた尖兵なわけだし、教会が大きな顔をするのも仕方ないだろう。それに、俺にとっては好都合だ。


「最後に、明日の集合は朝の六時だ。その後移動して入り口の包囲の準備ができ次第、突撃となる。――俺からは以上だ、後の話はお前たちでやってくれ。ジョズにはまだ話があるから少し残ってほしい」


 まだ何か言いたそうにしているジョズを置いてムングさんがそう言うと、俺達は部屋を出る。仮にジョズより強い魔物が出てきても、きっとノワールがなんとかしてくれることだろう。


 部屋を出て他の冒険者やギルドの職員が慌てて動き回っているのを眺めながら、テッラさんが口を開く。


「先程の話で全員の名前はわかってしまいましたが、一応自己紹介をしておきましょうか。私はテッラ、魔導師として『鉄壁』の名を授かりましたが、ただの引退寸前の冒険者です」


 それを聞いた俺達も、そう言えば自己紹介がまだだったと順番に自己紹介を始める。


「僕はクロム。広範囲型の魔法を使ってますが、正直魔導師への道はまだまだ遠いです。当日は足手まといにならないように頑張ります」

「私はミュウ。近接戦闘がメインです。こっちのクロムとはパーティーでは無いですが、時々共闘することがあるので一通りの連携は出来ます」


 そう短く自己紹介をする二人。クロムと名乗った男性は黒髪だが俺と違って蒼い目をしたイケメンで、ミュウさんはショートカットにした綺麗な銀髪が特徴的だ。二人とも色白で、傍から見れば完全に美男美女のカップルなのだが、同じパーティーじゃないのか。


「まあ、お前ら『早く結婚しろコンビ』はこの街じゃ有名だからな。俺もこの街に何年も住んでいる訳じゃないが、二人を見てすぐにわかったぞ」

「はやっ――だから、私達はそんな関係じゃないです! 同郷の好で時々、本当に時々一緒になるだけです!」


 二人のことをハンスさんが茶化すと、ミュウさんが顔を真っ赤にして反論をする。その横では少し恥ずかしそうにしたクロムさんが苦笑しつつ頬を掻いている。なんだ、やっぱりカップルなのか。爆発してしまえ。


「分かった、分かった。それで、俺はハンスだ。世間じゃ『竜殺し』だなんだと言われているけど、所詮は翼もない地龍タイプの上位(グレーター)(ドラゴン)を倒しただけだ。そんなに強いわけじゃないから、あんまり期待してくれるな」

「いや、いくら地龍タイプの竜種が飛ばないと言っても、簡単に倒せるものでは無いでしょう。しかもそれを二体同時に打ち取るなんて、普通のSS-ランクには不可能ですよ」


 ミュウさんの反論? をあしらってハンスさんが自己紹介をすると、彼女から呆れたようなツッコミが入る。


「そんなのはたまたま、デカブツとの戦闘に相性が良かったから倒せただけだよ。俺の戦い方は人型の魔物とは相性が悪いから、あんまり強い敵の相手はセイイチに任せた」


 ハンスさんは大した事なさそうに言うと、俺に話を振ってくる。急に話を振られて少し驚いたが、とりあえず俺も自己紹介をする。


「あ、セイイチと言います。魔法とか剣とか従魔とかいろいろ使って戦っています。当日も従魔を連れて行きますが、ずっと頭の上に乗せておくから邪魔にはならないと思うので勘弁して下さい」


 自己紹介が終わると、作戦の確認などは簡単に済ませ、暫く雑談に興じる。話してみると、皆さんキャラが立っているものの、面白い人達だった。ちなみに二人は否定しているものの、クロムさんとミュウさんは本当に仲が良さそうだった。この短時間で恋愛経験が妹にしか無い俺でも分かるのだから、よっぽど仲がいいのだろう。早く結婚しろよもう。


 そうして時間を潰していると、ジョズが奥の部屋から出てきた。あの様子からして、ジョズに断る隙を与えずにどんどん話を進められたのだろう。大丈夫、うちのジョズはやればできる子です。なんたって安全に配慮しているとは言え、俺のふざけてるような訓練を耐えてきたからな。どちらかと言うと、やらされればできる子か。


「そろそろ勇者の方々が来る時間のようですね。私はこの後待ち合わせをしている人がいるもので、このあたりで失礼させていただきます」


 テッラさんの言葉に周りを見渡すと、先程まで多くの冒険者が慌てて動き回っていた冒険者の数が減っていた。


 テッラさんが丁寧にお辞儀をすると、皆それぞれの用事があるようで、そのまま解散となった。そりゃあ作戦の前日なわけだし、SS-ランクくらいになると暇ではないのだろう。


「それで、兄貴はどうするんだ?」


 俺たちもギルドの外に向かっていると、ジョズにそう尋ねられる。


「今日中に勇者に会うつもりだから、その準備だ。ジョズは好きに行動してていいぞ。あと、ずっとこの中に閉じ込めるのもかわいそうだから一緒に居てくれ」


 俺は『アイテムボックス』からベルを出して上げてジョズに預ける。ベルは一緒に行きたそうにしていたが、今回は一緒にいると色々と面倒なのだ。


 ジョズにベルを預けた俺は一度宿に戻って服を着替える。


 さて、こっちの用事も片付けますかね。

 某たわわアニメを見ていたら巨乳キャラを出したくなる単純脳な作者です。ただしミュウさんは巨乳ではない。

 いっそのベルちゃんが分割して美しい双丘(だけ)に……眠気に頭がやられてますね。

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