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才能と入り口

 翌日、目が覚めた俺はギルドに呼ばれている昼までに何をしようかを考えながら宿の朝食を食べに向かう。すると、そこで多くの人が同じ話題を口にしていた。


「おいおい、この近くにオークロードが出たって……こりゃあこの街も大変なことになるな」


「幸運なのは勇者様が居たこの時期に見つかったことだよな。勇者様が居ればオークロードの十体や二十体簡単に倒せるだろう」


「まあSS-ランク冒険者も何人かいるらしいし、俺ら商人は宴会まで出番なしだな」


 他にも聞こえるのは「オーク」や「勇者」などの単語ばかり。心配する声が三割、勇者がいるから安心だという声が四割、今こそ儲けるチャンスだと意気込んでいる冒険者や商人が三割といったところか、なかなか逞しい住民である。


 何にせよ、街がパニックに陥ったりするよりはずっといいことだ。そこまで住民に心の余裕があるのは、勇者という名前の大きさか、それとも教会の情報を操る力故だろうか。


 せっかくなので街を見ておこうと思い、部屋にいるベルにも朝食を上げると一緒に宿の外に出る。スライムとはいえ魔物なので、そこまで目立たないようにベルを抱えながらだ。


 まだ九時にもなっていない頃だというのに、多くの露店が出ている。昨日俺達が街に来たのは夕方頃だったが、その時よりも賑わっているように見える。まあ理由は、店の種類を見れば分かったのだが。


「魔物との戦闘には欠かせない各種ポーション、買い忘れたら後悔するよ!」


「いざ戦うときに防具がダメじゃすぐ殺される。革鎧の修繕はこっちだよ!」


 その多くはポーションや弓、などの戦闘に使う消耗品や装備のメンテナンスなど。勇者がこの街に到着するのは明日と言われているので、今回の件に関わる冒険者たちが準備を整える期間はあまり残されていない。その為今日は朝から準備に追われる冒険者で賑わっているという状況だ。


「とはいっても、俺達は特に揃えるものは無いけどな」


 ポーションなどの消耗品は俺が【錬金術】の練習で作ったものが使われずに取ってあるし、防具に関してはそもそも俺はつけていない。ジョズはハーメルンで買った魔物素材の服がかなり頑丈らしく、ちょっと地面に擦ったくらいでは傷一つつかないらしい。靴に関してもこまめに新調や修繕を行っているので問題ない。


 尤も、そのあたりの準備は一流と呼ばれている冒険者ならば当然のように行っていることでもあるので、このタイミングで急いで用意をしているのはこの件で名をあげようとしている、もしくはここで大きく稼ごうとしているCランク以下の冒険者がほとんどだ。あんまり無茶をして死なれても困るんだけどな。


 その後もベルと街を見物しながら時間を潰していたが、朝食を食べたばかりなのにベルが行く先々で屋台を漁るので、それに付き合っていたらついつい食べすぎてしまった。ベルを抱いていて両手が塞がっている俺の代わりに、触手を伸ばして買い物をするベルを面白がった屋台の人が色々とサービスをしてくるので、ベルも調子に乗ってどんどん食べていく。明らかに体の体積よりも食べている量のほうが多いと思うのだが、どうなっているのだろうか。……いや、今更か。


 そんなことをしながら昼まで街を見て回り、いつの間にか起き出して同じように街を見て回っていたジョズと合流してギルドに向かった。


ちなみに、流石にギルドの部屋にベルを連れて行くことは出来ないので、別チャンネルに開けた『アイテムボックス』の中に入ってもらった。いつもの倉庫代わりに使っているのとは違い、快適な温度で明かりの魔導具や食料もある。万が一危なくなったらそこで一、二週間は暮らせる様に作ってある。森や畑を作って、自給自足の生活や酸素の生成などもできるようになればそれこそ『アイテムボックス』の中で過ごすことも可能なのだが、流石にそれは難しい。


 閑話休題(それはさておき)


 ギルドでは未だに慌ただしく人が動いているが、昨日ほどのパニックは起こっていない。どうやら街の防衛はB~Cランク冒険者を中心に警備団と協力して行うらしい。


 それ以上のランクの冒険者はオークの巣の周辺で残党のオークを狩るそうだ。尤も、それはオークロードを刺激しないように襲撃する直前まで行わないようだが。


 受付に尋ねると、俺達は再び奥の部屋で待機することとなった。二重扉を抜けた先の部屋にはまだ誰もおらず、どうやら少し早かったようで、一番先に来てしまった。


 せっかくなので壁の側の棚に置いてあったティーセットで紅茶を飲みながらジョズと待っていると、十分ほどして部屋の扉が開いた。


「む、まだ全員は集まっていないのか。すまないが私にも一杯もらえるかね」


 入ってきたのは昨日も見かけた、中年から老年に差し掛かるくらいであろう年齢の魔法使いの男性。ダンディかと言われるとそれはまた違うのだが、なんとなく頼りになりそうなオーラを発している。


 男性は入ってくるなりそう言うと、帽子を脱いで俺と向かいあっているジョズの隣に腰掛けた。俺は棚からもう一つティーカップを取り出して紅茶を入れる。男性はそれを受け取ると自己紹介を始めた。


「済まないね、ありがとう。おっと、まだ名乗っていなかったね。私はテッラ、ここにいることから分かる通りSS-ランク冒険者だが、最近は殆ど冒険者らしいことはせず、専ら魔導師として人に魔法を教える仕事をしている」


 男性――テッラさんはなんでもなさそうに自己紹介をして紅茶を飲むが、その隣でジョズは軽く驚きの表情を浮かべている。有名人なのか、はたまた魔導師とやらが珍しいのだろうか。そう思っているとジョズがテッラさんに質問をした。


「でも、なぜ冒険者として活躍をなさらないのですか? 魔導師と認められるほどの実力があればそれこそSSランクに上り詰めることも不可能じゃないはず……」

「SSランク冒険者に、か……たしかにもう少し若ければ、あるいはエルフやドワーフのような長寿種族ならそんな未知もあったかもしれない。だが、ここまで来るのに50年もかかった凡人にとって、70数年足らずという人族の寿命は、その高みに行くにはあまりにも短すぎるのだよ」


 ジョズの問に答えたテッラさんは哀愁を漂わせているが、話を聞く限り魔導師というのはおそらく魔法使いの中でトップクラスの称号なんだろう。それも、ジョズの言葉から察するにSS-ランクでも簡単には取れないほどの難易度を持った。


 だが、それでも世界に七人しか存在しないSSランクには届かないのだろう。そして、人族の寿命でその領域にたどり着けるのは常識を外れた天才くらい。


「それに、己の技を認められた者として、未来ある若者達にそれを継承していくのも魔導師の使命だからね。ところで、君たちの名前も教えてくれるかい?」


 この話を切り上げて名前を尋ねてくるテッラさんに、そう言えば自己紹介をしていなかったことに気づき自己紹介をしようとすると、再び部屋のドアが開いた。


「よし、ちゃんと三人も居たな。これで全員が揃った」


 その先に居たのはギルドマスターのムングさん。後ろには昨日見かけた三人の冒険者の姿もある。


 全員が集まってソファーに腰掛けたところで、ムングさんが口を開く。


「早速だが、まだやることが大量にあるから手短に話させてもらう。昨日偵察に送った冒険者のパーティーが先程帰還した。予想していたとおりオークの巣はダンジョン――それも別空間につながっているタイプのダンジョンだった。そしてオークの数は最低でも一万体、捉えられて拘束、監禁されているものは最低でも十人以上はいる。尤も、彼女らが正気でいるかどうかまではわからないがな。そして一番の発見は入り口が二ヶ所存在するということだ」


 ギルドマスターはそこで一度言葉を切ると、鍵のついた引き出しから一枚の紙を取り出した。


「これは周囲の地図だ。精度は低いが、大雑把な位置さえわかってくれれば問題ない」


 そう言ってテーブルの上に地図を広げると、イストラの東側の森を指差す。


「ここが最初に発見されたダンジョンの入り口だ。街から歩いて一時間程度の森のなかにあって、大きさは馬車が出入りできる程度に大きい。オーク達の出入りは全てここで行われているようだ。そして、もう一つの入り口はここに見つかった」


 そう言って指を指したのは一つ目の入り口からさほど離れていない位置。


「ここはそもそも時空のつながりが小さく、人間がギリギリ入れる程度の大きさしか空間がつながっていない。その上、物理的に土で埋まっているので全く利用されていないとのことだ」


 ムングさんはそう説明するが、それがなぜ一番の発見につながるのだろうか。そんな俺の疑問を解消するように、更に説明を続ける。


「これがどう大きな発見なのかという説明については、先にダンジョンの内部構造について知ってもらったほうが早い。というのも、このダンジョンはもともとオークが巣として使っていることから分かる通り、ダンジョンに見られるような罠や宝は存在せず、至極単純な構造になっている。でないと下っ端のオークが戻ってこれないからな」


 そう言いながら一枚の紙を取り出して先程から置いてあった地図の上に載せるムングさん。入り口の部分から、通路、大きな空洞、通路、大きな空洞の順に一直線でつながっていて、最後の通路だけ三股に別れている。一直線になっている空洞が三つ、別れているさきの空洞が三つ、合計で六部屋の非常に単純な作りだ。


「こうやって見ると小さく見えるかもしれないが、部屋の一つ一つが村のようにデカい。まあ、一万のオークがいると考えればそれでも狭い方なんだが。それで、おそらくは奥の別れている部屋の右側に捕まった人間が。真ん中にはロードやその取り巻きのナイトが。左側は生物らしき反応はそこまで多くなかったから、食料庫か何かになっているんだろう」

「それが、どう入り口の話と関係するのだ?」


 ムングさんの説明に、槍を持った男が質問をする。それに答えるように、ムングさんは三股に分かれている通路のまたの付け根のあたりを指差した。


「入り口を説明するときにこのダンジョンは別次元につながっているタイプのダンジョンだと説明したな。このタイプのダンジョンは入り口が複数あることは少ないのだが、今回はもう一つ入り口があった。そして運がいいことに、ちょうどこの通路に位置する事が分かった。つまり、この通路を通れば一気にロードのいる部屋の前までたどり着けるということだ。これを利用しない手はない」


 そこまで説明すると、一度ムングさんは黙り、地図を片付け始める。


 つまり、オークに気づかれていない通路を通って誰かがロードと戦い、その間に被害者を回収。同時に正面の入り口からも突入することで、大きな混乱が与えられる上に上位種を早い段階で討ち取る事もできるというわけだ。


だが問題は、それができるだけの戦力があるかどうかどうかだ。


「とまあ、分かった情報はこのくらいだ。そしてここからが本題、勇者の戦力と作戦についてだ」

 家の中から何十年と動かしてないであろうワープロが出てきました。文章を書くための能力としては、今使ってるウィンドウズ標準のワードよりも優れているかもしれません。但しフロッピーしか使えない。今の御時世個人利用でFDを使う人が何人いるんだ。

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