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女子力と王女

私と結衣の二人は今、廊下で黒服を着たいかにも暗殺者と言う恰好をした男達に囲まれている。すでに十人は倒しているのだけど、それでも残っている敵の数の方が多い。部屋の天井から降りてきた敵から逃れるようにまんまと廊下に誘導されてしまい、囲まれることになってしまった。


 念のために廊下の天井に伸びているダクトには警戒用の罠を仕掛けていたものの、部屋の真上から新しい穴をぶち開けてくることまでは想定していなかった。最近は結衣と同じ部屋で寝るようにしていて本当に良かった。この子一人じゃ為す術もなくやられていたでしょうし。


 まあ残念ながら、私がいればなんとかなると言う訳かと言われれば、そう言う訳でもない。正面からの勝負で、しかも子の人数が相手となると私にはきつい。戦闘タイプの野本くんならいけるんでしょうけど、暗殺スタイルの私にはこの量は捌けない。


 ……別に、暗殺スタイルといっても数分前までは殺人はしてないわよ? いや、今はそんな事はどうでもいい。


「『混乱(コンフューズ)』」


 前方から同時に襲い掛かってくる四人に向かって闇魔法を放つ。それによって男たちはお互いの体が派手にぶつかり、バランスを崩して倒れ込む。この魔法は精神に大きな影響を与えるものでは無いので同士討ちさせたりといった効果は得られない。なので倒れた的には自分で止めを刺す必要がある。


 私は起きあがろうとする敵の顔面に向かって思いきり蹴りを喰らわせる。ついでにナイフをかすめ取ると、続いて飛び込んできた相手に向かって投擲した。


 だがその攻撃も簡単に弾かれ、私は紙一重で相手のナイフをかわした。向こうの方が暗闇の戦闘は慣れているか。


「結衣、伏せてっ!」


 暗殺者の一人が投擲姿勢になるのを見て結衣にそう叫ぶ。咄嗟に結衣が屈んだ直後に先程まで結衣の胸があった高さの壁に突き刺さる。


私一人でもきついのに結衣を守りながら戦うのは負担が大きすぎる。ついでに、先程も言ったように夜になると明かりが消えほとんど真っ暗になる廊下の暗さが敵の姿と武器を視認し辛くしている。


 私は屈んだ結衣の腕にかぶさるようにして腕で目を塞ぐ。そして懐からある物を投げると自分の目も腕で塞いだ。敵から見ればその動きは諦めた私が結衣だけでもかばおうとしている姿に見えたかもしれない。


 その直後に廊下を閃光が埋めつくす。その光はほんの一瞬でも、暗闇に目が慣れていた敵にはきつかったようで、呻きながら目を押さえている。野本君に用意しておいてもらった魔法陣が役に立ったわね。


 そこへ短剣と敵から奪ったナイフで敵の首元を狙って攻撃をしていく。突然のフラッシュ攻撃に耐えられなかった敵は簡単に倒れていく。このまま全員倒せるのでは、とも思ったが、そうは問屋がおろさなかった。


「っ――!?」


 後ろに気配を感じて身体を無理矢理に捻る。するとぎりぎりかわせなかったようで腕にざっくりとナイフが刺さった。


 腕に刺さったナイフを乱暴に抜きながら後ろを振り返ると、そこには最初に顔を蹴り飛ばした男が、地面に這いつくばったまま投擲した後の体勢でいた。


「蹴りが甘かったかっ……!」


 おそらく先程蹴り飛ばした男の蹴りが甘かったせいで復帰したのだろう。それまではうつ伏せだったために光に当たらなかったようだ。


 とにかく後ろの敵はまだふらついているから無視。それよりもフラッシュでひるんでいる方を先に――


「!? 力がっ……!」


 不意に足の力が抜けて倒れる。それだけでは無く、ナイフを刺された方の腕はともかく、反対側の腕にまで力が入らず、武器を落として前のめりに倒れた。


 ――麻痺毒、それに異常なまでに回るのが早い? 確かに一部の魔物からは強力な毒が……いや、それよりも敵だ。前に三、後ろに一、もしかすると後ろは増えているかもしれない。身体に力は入らない、詠唱しようにも口が動かない、魔法陣も取り出せない以上は魔力を込めて起動させることができない。


 顔面から床にぶつけながらも頭をフル回転させるが、打つ手がない。このままじゃ本当にまず――いや、助かった。


 真っ暗だった視界の端に、オレンジ色の光が映り、同時に体に熱風が当たる。いかにも高そうな調度品が置かれている王城内で何のためらいもなく火魔法を使う様な人間なんてそうはいない。


「悪い、遅くなった」

「毒を消し去れ『解毒(ディポイズン)』、『治癒(ヒール)』」


 数秒の戦闘音の後、野本君の声が、そのすぐ後に結衣が魔法で毒を抜いてくれた。私の後ろにいた敵は、結衣が後ろから頭を蹴り飛ばしてもう一度気絶させたみたいね。脳震盪でふらふらの相手の頭に全力で蹴りを入れるなんて、こっちに来てから随分女子力が上がったわね、女子力が。


「とはいえ、まだ安心できないみたいだけどね」


そう呟くついでに、私は起きあがろうとした黒服の男の首元にナイフを投擲する。刺さりは浅いものの腕から一瞬で全身に回った毒を首から入れられたら死ぬかもしれないけど、このさいどうでもいい。


私は起きあがると【索敵】に引っかかっている反応がいる方に向けて武器を構える。野本君も同じ方向に剣を構えた。


「あまり王城内で物騒な物を振り回さないで貰いたいところですけどね」


 その方向から出てきたのは携帯用の魔道具に照らされた完全武装の騎士が十人ほど。そして彼らに身を守られるように歩くクソアマ――もとい少女……マリー・ノスティア王女だった。

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