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契約と夜襲

 大地くん視点です。

 勇者さまと再会が近いからいろんなところを映して引っ張っているように見られるかもしれませんが決してイケメンを出したくない訳じゃ無いです。妬んでないです。

 勇者が城を出てから約二ヶ月経ち、城に残っている俺達17人も、何か魔族や邪神教徒達に動きがあれば、すぐにでも出ることになるだろうと国から言われている。


 今のところは俺達三人に対して何のアクションも仕掛けてくる様子は無いが、だからといって腕輪の効力が発揮されていないことに気付いてないかどうかは微妙な所、むしろ多分気付かれていると考えてもいいだろう。


 今の所、お互いに警戒しているので変な動きはできないと言ったところか。俺達にも、監視や尾行がついているわけではないが、メイドや兵士達に会うと露骨に警戒される。おそらくこちらの動向を窺うように言われているのだろう。そのせいで図書館で調べ物をするにも人の目に何よりも警戒しなければならなくなった。尤も、神田さんに言わせれば今まで誰の目にもつかずに動いていたため、特に変わった感じはしないらしいが……彼女は本当に忍者でも目指しているのだろうか。


「――それで、今の所一番まずそうな情報は帝国と邪神教が手を組んだことね。私たちの事を邪神教の上層部は知っていて、教義に則って私たちを殺したい。帝国は私達の戦力を削って、ノスティア王国に攻め込むタイミングがほしい。利害が一致して手を組んだってところね」


 そんなわけで最近俺達は。誰か一人の部屋に集まり、周囲に誰もいないことを念入りに確認しつつ会議をしていた。


 勇者を狙って帝国がよからぬ者と繋がる……皮肉にも王女の言ったハッタリが本当になってしまったってところか。が、神田さんがその情報を知っていると言う事は……


「その事はノスティア王国も把握している、ってことだよな? あいつらはどう動くつもりだ?」

「可能性としては勇者に帝国との戦争に向かわせる可能性が一番高いんじゃないから? この大陸中に聖神教が広がっていて、それと真っ向から対立している宗教団体なんて大陸中から敵として認められているわけだし。そいつらと繋がっている国と戦うなんていう大義名分があれば喜々として戦争を始めるでしょうね」


 確かにグラント帝国の国際的な地位を落として侵略の大義名分を作れる上に、勇者を半分隠していたことへの言い訳にも絶好のタイミングになるだろう。周辺国は王国とかち合う力など持っていない小国ばかりなので、勇者の名のもとに協力を要請されれば断るわけにもいかない。


「邪神教と帝国の戦力が整う前にこっちから侵略することになったら、いつ駆り出されるかわからないってことか?」


「大義名分を得るためなら、邪神教と帝国側が繋がっている事実を外に向けて発信できるルートから暴く必要があるわけだし、侵攻されるまで待つ可能性の方が高いんじゃないかしら? そうね、例えば私が王国側だったら……邪神教の動きを警戒して勇者の人数を少なく発表していたが、邪神教と裏で繋がっていた帝国側がその情報を盗んで侵攻して来た。そんな卑劣な帝国を勇者率いる王国軍で迎え撃つ、ってところかしらね。

普段から戦争ばっかりやってるお蔭か、常備軍にはちゃんとした戦力も整っているし、勇者の戦力も全員、普通の兵士なんて相手にならない程度には強いから、後手に回っても攻めてくることさえ分かっていれば十分なんとかなるでしょう。それに、周辺国には裏で圧力を掛けておけばいつでも反撃できるように働きかけられるし、多少相手に時間をやったところでさしたるデメリットはないでしょうね」


 つまり、神田さんの予想が正しいのなら今日明日の内に駆り出されるようなことは無いと言うことになる。が、それで安心すると言う訳には行かないだろう。


「私達の腕輪がちゃんと働いていない事はまずばれていると考えて、戦争に発展するまでに私達に腕輪をつけに……隷属じゃなくても、無理矢理に『契約』を迫ってきたりもするってことだよね?」


 今まで話を聞いていた鎌倉さんがそう呟く。この世界には「契約」と呼ばれる魔法が存在する。名前の通り、特殊な魔法を付与した紙に契約内容と契約者のサインを記入することによって、その契約内容が強制的に実行されると言うものだ。


 この魔法は隷属の魔法を改造したもので、名前だけは有名な魔法なのであるが、契約用に必要な道具の製法は勿論のこと、その詳しい使用法すら秘匿されていて一般人は使うことができない。というか、この魔法を使えるのはノスティア王国しかいない。


 ノスティア王国しか使えないというのも、この魔法はノスティア王国が研究していた魔法で、精霊を呼び寄せることによって契約内容に強制力をもたせるそうだ。


 ちなみに、グラント帝国も精霊に関する秘術を持っていて、お互いの切り札になっている。尤も、それらがしょっちゅう戦争をしている原因の一つになっているのだが。


「心配なのはこの三人の誰から知らないうちに契約をさせられることね。契約の場合は腕輪と違って見た目で分からないっていうのは厄介だから、これからはできるだけ一人になることが無いように。他の勇者の前で契約をさせてくることは無いと思うけど、夜中に近衛や兵士を引き連れて契約を迫ってくる事はあり得るでしょう」


 とにかく、できるだけ王女に出くわさないようにするしかないと言うことか。こちらから仕掛けることができないのでしょうがないとはいえ、いつなにが起こってクラスメイトの命が脅かされるのかと思うともどかしい気持ちになる。




 その夜、用心のために習得した結界魔法、『存在感知(センスクリーチャー)』に叩き起こされて目が覚める。俺はすぐに布団を引っぺがし、ベットの脇に立てかけていた剣を掴むと壁に背をつけて剣を構える。同時に【索敵】を発動して敵の場所を確認した。


「上かっ……!」


 俺が天井を見上げると同時に天井から敵が落ちてくる。数は三、【索敵】通りなら天井の中にもう二人、廊下にさらに五人、合計十人。


 俺は先頭にいた暗殺者のような身なりをした男の腕を肩の先から切り落とすと、顔面に蹴りをかます。強化されたステータスで蹴られた男はそのまま吹き飛ぶと、後ろにいたもう一人に当たってひるませる。


 俺は続けてひるんだ暗殺者の胴体を剣で突くと。そのままの勢いで相手の手に持っていたナイフを蹴り飛ばす。が、相手はもう片方の手で腹に刺さっている剣を押さえると、自分の体ごと俺と反対側に跳んだ。自分よりも俺の武器を封じることを優先したようだ。


 蹴りの勢いを使って自分の剣を引き抜くのに失敗した俺に、最後の一人がナイフを振るってきた。


「くそっ……『衝撃波(インパクト)』!」


 俺は倒れるようにしてぎりぎりで避けると、相手の体に魔法を当てて吹き飛ばした。


 三人を無力化すると同時に部屋の扉が開き、さらに天井からも残りの二人が降りてくる。自分の剣を拾う余裕はないと判断した俺は、三人目が吹き飛ぶ時に落としたナイフを拾いあげ、天井から降りてきた暗殺者のうち片方に投擲、その結果を見ずにそのままベッドに飛び乗った。


「『(フレイム)(アロー)』! ついでに、おらっ!『炎上(バーニング)』!」


 ドアから入ってきた敵には火魔法で牽制をし、ナイフを防いだものの、急な攻撃に連携を見だした二人の方にはベッドの掛け布団を投げ付けて目くらましをすると同時に魔法で火をつけた。


 大きく作られているわけではない扉の前でもだえている暗殺者は無視して剣を拾うと、慌てながらも燃える布団を取り除いた二人を無力化させる。


 その後、狭い扉から入ってくる暗殺者を各個撃破するのは難しいことでは無く、戦闘は二分足らずで終了した。だが、それで安心できるわけでは無く、【索敵】の範囲を広げ、城全体を窺う。すると、丁度鎌倉さんの部屋の場所には俺の元にきたものよりはるかに多い反応が見つかった。


「くっそ! 神田さんの部屋には何一つ反応がないから鎌倉さんと一緒に戦ってると思うけど……」


 神田さんならすぐにやられたりはしないだろうが、正面から戦闘をするタイプでない神田さんと、そもそも戦闘向きでない鎌倉さんがいつまでもつかわからない。俺は未だに燃えている布団に乱暴に『(ウォーター)(ボール)』を叩きこむと、剣を持って急いで鎌倉さんの部屋に向かった。

 思えば対人描写をまともに書くのは久しぶりな気がする。

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